「私が抱えている問題は、特殊でマイノリティな話題として扱われることが多いけど、発信する人が少ないだけで、実際は大勢の人が苦しんでいる。見えにくい宗教虐待を受けている人が多くいるという事実を知ってほしい」
そう話すのは宗教3世である、みるくまのしっぽさん(@ma__rorinco)。母親はエホバの証人、父親は創価学会の信者。彼女は自分を演じ、複雑な家庭環境を生き延びてきた。
近年、宗教2世・3世による「見えない虐待」の告白が相次いでいる。信仰という名の下に抑圧され、心が壊れていく体験——決して「特殊事例」ではなく、多くの人が抱える現実である。
みるくまのしっぽさんの語りは、その象徴的な一例だ。内側で葛藤し続けた彼女の声から、この問題の本質に迫る。
<目次>
異教徒の結婚で生まれた宗教3世
信仰心が強い家庭で育ったみるくまのしっぽさんの母親は、家族のケアや宗教活動に苦しみ、20代で摂食障害を発症。身体的な疾患も抱え、自殺未遂をして7年間入院した経験を持つ。入院中、教団から見捨てられたと感じた母親は「一般の人として生きてみよう」と決意。雑誌の文通で、夫と出会った。
趣味の話で意気投合した2人は関係を深め、やがて妊娠が発覚。この段階で初めて互いの宗教を明かし合う——異教徒同士の結婚は異例だ。信者である親戚などからは猛反対されたが、2人はなんとか結婚し、新生活を送り始めた。

やがて母親は、出産を機に信仰心が復活する。「我が子にエホバの教えを伝えたい」と願い、週3回にわたり数時間に及ぶ教団の集会へ娘を連れて行くようになった。
一方、父親はネグレクトされて育ったため、子どもにあまり関心がなかったという。だが、娘にエホバの教えを説く母親の姿をよくは思っておらず、妻子に暴力を振るったり、教団の集会に押しかけて暴れたりすることもあった。

母親の前では信仰に従順な子どもを演じ、父親の前では宗教に関わっていないように振る舞う——そんな二重生活を送るうちに、みるくまのしっぽさんは次第に本当の自分がわからなくなっていった。
「父の暴力から守ってくれたのは、母でした。母は言うことを聞いていればムチを打ちません。条件付きの愛だったけど、居場所を得るため、母に気に入れられるように振舞っていました」
教団に好まれる選択を盾にして短大へ進学
「信者ではない“世の子”と関わりは禁止」
学校では宗教の決まりにより、クリスマスや運動会といった行事への参加ができず、いじめを受けるようになった。
「一般の子たちの話題は全く分かりませんでした。遊べるのは、集会に来ている信者の子たちだけ。でも、彼女たちからは布教活動の近況を聞かれたり、圧をかけられたりします」

そのような日々を送るなか、10歳になった頃に家庭内で大きな変化が訪れる。父がエホバの証人の聖書研究を始めたのだ。
「人づきあいが苦手な父は、家庭内でも孤立していました。エホバの信者たちはそんな父を歓迎する姿勢を見せたんです。属せるコミュニティがあることが嬉しかったのか、エホバを信仰するようになりました」
やがて、みるくまのしっぽさんは進学にも反対された。宗教2世や3世であると、一般的な高校や大学への進学を反対され、宗教の勉強に励むように強制されることも多いという。
だが、宗教活動だけをしていく自信は持てず、活動自体それほど好きではないと感じるようになっていた。やがて、みるくまのしっぽさんは信者に好まれる「人が足りない地方へ奉公に行く」という選択を盾にし、高校や大学へ進学した。
「教団から圧力はかかりましたが、資格を取れば、色んな地域で働きながら宗教活動ができるとごまかして、短大へ行き、保育士の資格を取りました」

排斥と復帰の中で揺れ動いた心
大学生活で、信者ではない同級生と初めて深く関わるうちに生まれたのは「こっちのほうが楽しい」という気持ちだった。「私も普通に青春がしたい」その思いがつながり、初めて彼氏ができた。
だが、スマホを盗み見て彼氏の存在を知った母親は交際に猛反対。スマホを壊し、我が子を殴り、彼氏を「サタン(悪魔)」と罵った。みるくまのしっぽさんは母親に怒りを爆発させ反抗するが、聖書を勧めるなどの母親の行動に彼氏が耐えられなくなり、交際は終わってしまう。

「命がけで守ってきた娘を、意味の分からない男に汚されてたまるか」
そんな母親の言葉は、傷ついた心を逆撫でてしまう。「じゃあ、自分で汚そう」と、18歳で夜の世界へ飛び込む決断をした。
しかし、幼い頃から刷り込まれた教えに背いていることへの恐怖心は募る一方だ。やがて21歳の頃、自分がしていることを母に告白。その後、教団に話が伝わり、排斥となった。
「排斥の時には審議委員会みたいなのが立ち上げられて、プレイの回数や内容など、性的な質問をたくさんされました」
教団との縁は切れたが、親からも絶縁され完全な孤立状態に。居場所のない日々に耐えきれず、23歳で信者として復帰することになる。

それでも周囲は排斥となった人間に冷たかった。
「受け入れてほしければもっと活動を頑張れ」
「精神的に苦しいのは信仰が足りないからだ」
そんな言葉に心は追い詰められ、復帰から1年後、家出を決意する。
「22歳の頃から親に怒られながらTiktokで精神疾患のことを配信していたんですが、その活動で出会った友人が何度も『おかしい』と言ってくれたので、家を出ようと思えました」
野菜をかじりながらの困窮生活で生きる意味を考えて…
家出後は、Tiktok経由で知り合った友人が教えてくれたシェアハウスで暮らしながら保育士として働いた。事情を知った勤務先の上司は、行政の支援につなげてくれたという。
みるくまのしっぽさんは18歳の頃から精神疾患を患っていたため、障害者支援センターの手助けを受けることができた。2ヶ月間、グループホームで生活する過程では、住居や保険の手続きなど、生きていくために必要な準備を行った。
必死で貯めた全財産60万円は賃貸物件の初期費用で半分近くなくなり、退所後は困窮状態に。電気が止まるかもしれないと怯えながらも、もやしとキャベツをかじりながら命をつないだ。
昼は保育士、夜はコンカフェで働く日々。そんな時、支援者を紹介してくれたのもTiktokで知り合った友人だった。紹介してもらった支援者は偶然にも、エホバ2世の人だったという奇跡も。
「分かり合えることが多くて嬉しかったし、『あなたの選択は間違ってない』と言ってもらえて救われました」
宗教虐待の実情を発信することは“生きる意味”
支援者の力を借りて、生活を立て直したみるくまのしっぽさんはその後、YouTubeで初めて宗教3世であることを告白。宗教問題について配信するようになっていった。
現在は初詣などの禁じられていたことに挑戦し、エホバの教えを守らなくても何も起きないことを体に覚えさせている。
ただ、心の傷は深い。絶縁状態の母親から業務的な宗教活動の連絡が来ると、パニックになってしまうという。
「宗教関連のニュースを見た時もフラッシュバックは起きるし、実家と同じ柔軟剤のにおいがしただけでも体が硬直します」
それでも発信を続けるのは、発信が自分にとっての生きる意味だからだ。

「生き残った命をどう使うか考えた時、私にできるのは発信でした。聞いてくれる人がいると、自分の人生は無駄じゃなかったと思えるんです」
宗教が人によっては心の支えになるのも事実だ。だから、みるくまのしっぽさんは宗教や信仰自体は否定しない。だが、苦しんでいる2世や3世も多く存在するからこそ、子どもへの信仰の強制が行われないような体制になってほしいと願っている。
「宗教3世は祖父母や親戚も信者で、余計に逃げ場がないことも多いので、子どもが信仰に対する苦しみを感じたら、すぐに守られる仕組みができてほしい」

家庭内で宗教虐待が起きている時、混乱のなかにいる当事者は詳しい状況を支援機関に明確に説明できないこともある。
そのため、「当事者が苦しみを上手く言葉にできなくとも、相談すればガイドラインに沿って必要なサポートが得られる仕組みも必要」だと、彼女は警鐘をならしている。
ようやく自分の足で“今”を生きられるようになったみるくまのしっぽさん。その半生を「遠い他人事」として片付けないことが、社会全体でできる問題解決への第一歩なのかもしれない。


