日本最大の新宗教団体「創価学会」の池田大作名誉会長が11月15日、死去した。宗教的指導者としてだけではなく、平和活動家としてもその存在を日本内外に知らしめた池田氏。そんなカリスマ指導者の死去により、創価学会は今後どうなるのだろうか――。

写真:時事通信

学会員を心酔させたカリスマ

満員の横浜アリーナ、中央のホールではカラフルな衣装に身を包んだ若い男女の集団によるマスゲームが繰り広げられていた。一糸乱れぬ動きで踊り、そして歌う。そして皆、同じ方向に熱い視線を送ると、その先にいるのは、創価学会の池田大作名誉会長だ。

若い学会員らが披露するマスゲームに池田氏は満面の笑みを浮かべ、大きな拍手を送っていた――。これは1981年から始まった世界平和文化祭での一幕だ。

マスゲームも歌も演奏も、これらは学会員たちによる深い信仰の表れでもある。「池田名誉会長に喜んでもらいたい」、その一心で練習を繰り返していたという。

参加した学会員は「(池田)先生にみていただくために頑張った」「(池田)先生に私たちが一番素晴らしかったと言ってもらいたかった」などと興奮した様子で語る場面も見られた。中には池田氏を前に演技を披露できたことに感激し、歓喜のあまり泣き出してしまう女性学会員もいた。

多くの学会員が心酔し、圧倒的なカリスマ性を誇っていた池田氏は、1947年に入信後、創価学会を学会員数約800万世帯(公称)という国内最大の新宗教団体までに成長させた、まさに「生きた伝説」だった。

すでに完成していた「ポスト池田」体制

だが、2010年頃から公式の場に姿を現すことはなく、その晩年の姿を目にした人はほとんどいない。そして11月18日、新宿区の自宅で11月15日に逝去していたことが発表された。享年95、老衰だった。

カリスマ指導者を失った創価学会は今後どうなってしまうのか。

「すぐに崩れることはないと思います」

そう話すのは、宗教ジャーナリストで週刊「仏教タイムス」の編集長、工藤信人氏。

「創価学会の学会員たちは『導いた人』と『導かれた人』の縦の関係、そして地域的な活動といった横の関係。さらには職業、年齢、任務などで構成されるいくつかのグループに所属しています。これは帰属意識を高めると同時に、離反しにくい環境が整えられているともいえる。脱会することも難しいため、大きく崩れることはない」(工藤氏)

「宗教問題」編集長の小川寛大氏も同意する。

「象徴的存在だった池田氏の死去でがっくり来ている学会員が多いのは確か。今後、何らかの影響が出てくることは予測できますが、池田氏が逝去したことによって、すぐさま組織として瓦解したり、致命的な痛手を受けるといったことは基本的にはないと考えています」

それはなぜか。前出の小川氏によると「ポスト池田」体制が、すでに完成していたからだ。

実力がモノを言うシビアな世界

複数の関係者は「博正さんはありえないです」と口を揃える。その理由について、前出の小川氏が説明する。

「創価学会は世襲制ではありません。その人物がどれだけ優秀なのか、ということが基本。一般的な宗教団体の場合、上にいく基準は曖昧な場合も多いですが、創価学会の場合、公明党の選挙結果などによって評価が数値化され、一目でわかる。『出世』には非常にシビアな世界なんです」

たしかに現在中枢にいる学会幹部たちはみな、叩き上げでのし上がってきた実力派たちだ。

例えば学会幹部、地方幹部たちは全員公明党の活動も担っており、担当地域が割り振られている。彼ら、彼女らはそこで学会員と交流しながら、選挙の時に票を獲得できるよう指導をするのが仕事だという。

気持ちが弛んでいれば引き締め、モチベーションをあげたり、褒めたりを繰り返し、票に結び付けることがミッション。もし、その地域で落選者を出せば、担当者は左遷されるなど、厳しいペナルティを受けることもある。

出世するための評価は、票の増減、選挙の当落に限らない。聖教新聞の契約ノルマや、「財務」と呼ばれる学会員からのお布施の金額も左右する。

「100万円単位で捧げる学会員を作ることも、地域で求められてきました。今でも1500億円という高額なお金が集められていると言われています。ただ、これについては旧統一教会の献金問題などにより、その体制は変わってくるとは思いますが……」(前出・工藤氏)

得票数や新聞契約数、集めたお金の金額も、すべて具体的な数字として見えるもの。このわかりやすい評価は、まるで大手企業の営業職の査定ようだ。そのため、いくら池田氏の息子や親族だからといっても、それだけでやすやすとトップに上り詰められるほど簡単な世界ではないという。

徹底した評価システムを用いた権威主義により、運営がなされている創価学会。池田氏が死去した今、どのように変わっていくのか。

「ポスト池田」より危惧されていること

「池田氏はここ10年、組織運営にはなんのタッチもしていません。むしろ象徴的な存在でした。そのため、組織のシステムはすでに『ポスト池田』体制に移行しています。池田氏抜きでも運営を継続できるような集団指導体制になっているんです」(前出・小川氏)

現在、創価学会の組織運営は原田稔会長(82歳)を中心に行われている。原田氏は池田氏のような宗教的なカリスマではないものの、事務官僚タイプとして組織運営には欠かせない人物。極めて優秀なスキルを持ち、その手腕については学会内外からも高く評価されているという。

問題なのは「ポスト池田」体制よりも「ポスト原田」体制なのだと前出の小川さんは指摘する。

「原田氏も80歳を超えています。ですが、『ポスト原田』時代になったときに、リーダーとなる人材が若手に見当たらない。実は『ポスト原田』がいないことを一番に憂慮すべきなんです」(前出・小川氏)

創価学会の中枢には谷川佳樹氏(66歳)や萩本直樹氏(68歳)らといった次期組織運営を期待されている人物もいる。だが、一様に60歳を超えており、組織を若返らせて引っ張っていくためには少々心もとないという。

ただし、中枢には創価学会の中には池田氏の長男、博正氏(70歳)も在籍している。現在、主任副会長としての地位についている同氏が、父・大作氏の後を継いで学会のトップに、会長職に就くことはないのだろうか。