背中が泣いている*『愛と死のアラビア』 |  *so side cafe*

 *so side cafe*

元宝塚歌劇団雪組、壮一帆さんの現役時代の記録。ただいまシーズンオフ。

もうきのうのことになっちゃいましたが、きのう書いた“今日の舞台”の感想です。

   *     *     *

今日のトゥスンは、凛々しいトゥスンでした。
どこがどうとあげられるわけじゃなく、話し方のニュアンスなんだけど、無邪気な感じが抑え気味になっていて、戦うことに貪欲な感じ。その凛々しさがまた、別の種類のかわいさにつながっちゃうのですが。

でも、そんなふうに凛々しさが前に出ていたせいか、確かにこの間は、すごく甘く、やさしく聞こえてきたトマスの「トゥスンっ…」が、今日のはもっと対等な立場に立った「トゥスン」に聞こえました。

うん。相手の芝居に対して、また芝居をしていくわけだから、変わって当然。あの「トゥスンっ…」は、きっと、次におさな心のめちゃくちゃ強いトゥスンが現れたときに聞けるかも。楽しみに待つとします。

さて。そんな凛々しいトゥスンが兄上のお気に召したのか(笑)、今日はなんだか、兄上様のいう「トゥスン」が胸に来ました(あるいはわたしが今日になって突然気づいたのかもしれない(笑))。

カイロでトゥスンが遠征の命を受ける式典では、前のめりなトゥスンを、ややたしなめるように、でもあたたかな目で見ていてくれている兄上さま。そのまなざしには気づいていたのだけど、今日はなんだか、いつもよりやさしい気がしました。

『愛と死のアラビア』の好きなシーンのひとつ、太守と息子の正義と政治をめぐる考察でも、兄上のトゥスンに対する気持ちがバシバシ伝わってきました。もちろんイブラヒムとしては、トマスを助けるための有効な説得材料として、「トゥスンはトマスのようないい友を持ったことがない」と父に訴えるわけなんだけど、雄々しく理路整然と語っていたとばかり思っていたイブラヒムの言葉に、なぜかリアルにトゥスンを思う気持ちを読みとってしまい…、不意打ちだったぶん、ぐっと来てしまいました(笑)。
(今のところ、今日の見出しの第一候補は、振り返ればイブラヒム(笑))

ムハンマド・アリだってそう。トゥスンのことを愛しているんだってことが、「せめて四分の一」発言から、ひしひしと感じられます(笑)。

好きだなあ、この場面。原作どおりですけどね(笑)。たぶん、セリフもそのまま。

ラストの牢獄でも、兄弟場面がほんとうによかった。見れば見るほど好きになっていきます(ふたりのオフトークの影響もあるかも(笑))。


   *     *     *
   
兄弟場面だけじゃなく、独房の場面がほんとうによかったのです。

大劇場では、ドナルドとの別れの場面の方が、シンプルで感情が見えやすいつくりになっていたこともあって、観客に印象を強く残してしまったこともあったかもしれない。でも、今ははっきりと、独房の場面がラストらしい品格をもって、もっとも強く迫ってきているといえる。しみじみ、いい場面になったと思う。

トマスが、より静かに自分の運命を受け入れる感じになっていました。今日の独房でのトマスは、それまでに見たことのないトマスだった。

そうだ、まずは、この間の観劇時に書いた感想の間違いを正しておかなければ…。

独房の場面で、トマスはトゥスンにトゥスンに対する言葉を言ってはくれないと、被害者意識まるだしなことを書きましたが、そんなことはなかったです(笑)。

トゥスンが駆けつけて説得し始めるとすぐ、
「トゥスン、君との思い出は、もう十分この胸に刻んだ」と、トマスは力強く言ってくれていました。まっすぐトゥスンの目を見て。

このセリフを忘れるはずもないんだけど、わたしって、何も見てないですね(涙)。

ただ、自己弁護みたいだけど、このひと言が、以前より、まっすぐ客席に届くようになってきているというのはあると思う。

そして、トマスが変わればトゥスンも変わる。
昨日のトゥスンは、今まさに、自立しようとしてる男の子でした。もちろん、持てるすべての力を使って、トマスを助けようとしているんだけど、トマスの説得をいつもよりすうっと受け入れるの。

自分の感情を押しとどめ、政治を司ろうとする、凛々しい男の子の顔がまぶしかった。

「ト マ スっ…」

あの、かすれ気味に、咽を締め付けるように言う、いろんな思いが混じり入った「トマス」については、もう、言語表現できません。

心の深いところが刺激されるっていうか。アタマでは納得しても、どこか一部分はまだ、トマスを求めているような、そんな根元的な叫びなの。

この間みたときには、「トゥスンの顔が見たい~」と、いってみれば芝居に入り切れていない証明のような叫びをあげていたわたしでしたが、この日はもう、そんな気分にはならなかった。

トゥスンの背中に悲しみが見えた。
小さく震えていた、トゥスンの少年の肩。トマスを見るトゥスンの顔は見えなくても、背中にトマスへの思いがこめられていました。

うー…。トゥスンが好きだ~(笑)。

自分がこれほど、この芝居に入り込むとは思わなかった。
トマス、イブラヒム、トゥスン…。
三人の芝居の練り込み方、心からスゴイと思います。

オフトークでは、面白すぎるネタを自ら提供して笑わせてくれる三人ですが、それはつまり、観察力にすぐれてるってこと。もちろん、それは舞台に生かされている。

賢くって、カッコよくって、相手を思いやれる。なんて素敵な人たちなんだろ。

もちろん、芝居は三人でつくっているわけじゃなくて、ほかのキャストについても、日々、いろいろな発見があるのですが、今日はここまで。

また今日は違う芝居になっているのかもと思うと、今すぐ日比谷に駆けつけたくなるのが悩み…(笑)。