2023東大第四問 長田弘『詩人であること』

 

🔲A:本文の構成(省略)→(B)を参照

 

🔲B:論と設問の問の主旨

 

内容の概略

「社会」で用いられる既存の言葉に依存するだけで、自らの経験・実感に根ざした「自分の言葉」を持つ努力ければ自律した個人とは言えない。自律した個人でなければ自他関係が(同一ではなく)差異の自覚であり、差異において自らを疑う姿勢が持てない。差異の自覚、自らの限界の認識があって初めて他者理解への糸口を見出すことが可能となる。

 

次の設問主旨では、「公共の言葉・全体の意見(社会で共有されている言葉)」をA、「自分自身の経験に基づいた自分の言葉」をBとする。

設問一:Aは一般的観念→Bの特殊固有の具体とは異質

設問二:Aへの依存×→経験を言葉化する努力によるBの獲得=言葉に対する自律

設問三:Aへの依存=Bへの責任回避→自分省察や差異の理解の妨げ

設問四:自律=自他との差異、自分の限界の自覚→他者理解

 

🔲C:全体要約と問の役割・・設問の解答をつなげることで全体要約とした。

 

(一)公準化によって抽象化された言葉は、自身の特殊な具体的経験から切り離された(の裏付けがない)知っていても実感の伴わない言葉でしかない。(二)社会にある既存の言葉に安易に頼るのではなく、自らの言葉に責任を持つために自分の経験を言葉化する努力を惜しんではいけない。(三)自らが言葉を使う責任を社会に共有される言葉によって回避する姿勢は、自らを批判し、自他の差異を正しく自覚する姿勢を欠如させてきた。(四)自律した個人として自らの言葉を語ることは自他の異質性に直面することであり、その決定的な差異と自分の限界を認めることで初めて他者を理解する道が拓ける。

 

🔲D:各設問メモ

 

設問一

「観念の錠剤のように定義されやすい」とはどういうことか、説明せよ。

 

■解答主旨:社会における観念的な言葉=特殊固有経験の具体を離れた内実に欠ける言葉

■解答メモ

・傍線部が示しているのは「社会で共有されている既存の言葉」、その一方に「自分の言葉」がある。前者は観念的・抽象的、一般的であっても内実の伴わない言葉であり、後者は特殊・具体的な経験に基づく固有の言葉である。後者をマイナスに記述しつつこの対立を押さえる。

解答例公準化によって抽象化された一般的な言葉は、自身の特殊な具体的経験から切り離された(の裏付けのない)実感の伴わない言葉でしかないということ。

 

設問二

「言葉にたいする一人のわたしの自律」とはどういうことか、説明せよ。

 

■解答主旨:言葉に対して自律→Bを言葉化する努力の必要

■解答メモ

・傍線部「言葉にたいする一人のわたしの自律」は「言葉に対して自律した一個人である」ことであり、簡潔に言えば「言葉に対して自分の責任を負う」ということだろう。冒頭に「それぞれのもつ取り返しのつかない経験を、それぞれに固有な仕方で言葉化していく意味=方向を持った努力」とある。傍線部直後に「自律がつらぬかれなければ」「みずからあやしむことはない」と書かれていて「自己省察・自分への疑念」を拾いたいが、次の問に譲り、ここでは「既存の言葉への安易な依存」との対立を書くにとどめた。

■解答例社会にある既存の言葉に安易に依存せず、自らの言葉に責任を持つために自分の経験を言葉化する努力を惜しんではいけないということ。

 

設問三

「『公共』の言葉、『全体』の意見というような口吻をかりて合言葉によってかんがえる」とはどういうことか、説明せよ。

 

■解答主旨:既存の言葉への依存=自己責任の回避→自分省察や差異の理解の妨げ

■解答メモ

・傍線部「(既存の言葉の)口吻をかりて合言葉によってかんがえる」という表現は、「既存の言葉を使うことによって自らを正当化し責任を回避する」ということだろう。そうした姿勢は「みずからあやしむ・疑う」ことを不可能にし、したがって自他に「共通の言葉」を探しながら、その自他間の差異を独善的にとらえ、自らの否定という視点に於いて見ない、認めようとしない姿勢につながる。

・「社会の言葉=他者排斥敵の言葉→それで考える」という書き方もあるかと思うが、前後の問の関係から「言葉に対する自律」の「姿勢」を明確にしてまとめてみた。守備範囲の冒頭に「戦後の言葉」、末尾に「今日の言葉」とあるので、「(今まで)欠如させてきた」とした。

■解答例自らが言葉を使う責任を社会に共有される言葉によって回避する姿勢は、自らを批判し、自他の差異を正しく自覚する姿勢を欠如させてきたということ。

 

設問四

「一つの言葉は、そこで一人のわたしが他者と出会う場所である」とはどういうことか、説明せよ。

 

■解答主旨:自他との差異、自分の限界の自覚→他者理解

■解答メモ

・傍線部「他者と出会う場所」は「他者理解」ということだろう。「他者の発見」「たがいの間にある差異をじゅうぶん活かしていけるような差異の言葉をつくりだしていく」とあることからも、目的は他者との相互理解にある。そのためには「何を共有できていないかを確かめていく力」「何がちがうかをまっすぐに語りうること」、すなわち「差異の明確な自覚」が必要であり、「他者を見出すことによって避けがたく自己の限界を見出す」、自己否定とも言える自己への省察が必要だと言っているのだと思う。「言葉」について前半に

解答例自律した個人として自らの言葉を語ることは自他の異質性に直面することであり、その決定的な差異と自分の限界を認めることで初めて他者を理解する道が拓けるということ。