2010 東大 第一問  阪本俊生『ポスト・プライバシー』 2021.3改訂

 

ここに示す解答例は、解答自体が全体構成の一部を担っているとい考え方に重きを置き、解答例の並びが全体要約を構成するようなかたちで解答を試みたものです。試案にすぎませんので、その点、ご了解ください。よろしければ→「このページ」をお読みください。

 

 

(A)本文の構成

 

第①段落設問(一)

近代自己の核心・本質の拠点、鍵は内面にあるとする文化的イメージ・社会システム

ゆえに→プライバシー=内面を中心に同心円状に広がる

         

第②段落設問(二)

近代自己は個人の内面によって統括され個人はそれを一元的に管理する責任を負う

→アイデンティティ・社会的信用を維持

→ ダメージとなる矛盾は秘されるべき(=プライバシー)

 

第③段落設問(三)

現代情報化社会=データとしての個人情報・分析(客観的・公平)

→内面の縮小・個人の周辺や内面や心が秘密の魅惑を失う

→個人情報を管理する情報システムがプライバシーの保護対象に

 

第④段落設問(四)

現代近代的プライバシーの終焉・プライバシーの中身性格の転換

人格・個人・自己など → 情報化された人格・ヴァーチャルな領域データダブル(データが生み出す分身)→設問(五)

 

(B)論と設問の問の基本骨格

 

■全体主旨=近代から現代、プライバシー(守るべき大切なもの)が「内面」から「データ」に変化し、個人の在り方も主体的自己からヴァーチャルなデータの分身に変化した。

設問(一)=意味段落①:近代=「内面」の重視=プライバシーの対象も「内面」

設問(二)=意味段落②:近代=同一性の内面による管理責任主体的自己としての個人

設問(三)=意味段落③:現代=情報化社会=内面より個人情報(データ)を重視

設問(四)=意味段落④:現代=個人情報(データ)の重視→内面の魅惑、重要性の喪失

設問(五)=意味段落①~④:現代=プライバシー = 内面 → データ・個人の在り方 = 主体的自己 データが生み出す分身

 

(C)全体要約と問の役割

(B)の骨格にしたがって、設問の解答を、それをつなげれば全体要約となるように解答を作成したもの。以下(漢数字)は設問番号。それぞれに「~ということ」「~から」などの解答末尾を付けると解答そのものになる。 内容把握しやすいように、解答例は80字弱とやや長めに作成してある。

 

(一)近代においては、社会的自己を形成する本質は個人の内面にあると考えられたために、個人を知る鍵としての内面が(プライバシーとして)重視され、守るべき対象とされた。(二)(また)近代においては、社会が要請するアイデンティティや社会的信用を保持するため、個人は主体として自らの内面を矛盾なく統括する必要があった。(三)(しかし)今日の情報化社会では、個人はその内面よりも、データ化された個人情報による方が、はるかに簡単で、より客観的な理解、評価ができると考えられるようになった。(四)プライバシーが個人の内面から情報システムによる個人情報へと変換されることで、個人の内面は秘密の魅惑とともに、かつての存在の重要性を失った。(五)近代における個人は、内面によって統括管理される主体的な自己として存在したが、現代の情報化社会においては、システムによって管理される個人データの集積として存在するようになり、個人は自己とは別の実体のないヴァーチャルな自己へと変容しつつある。

 

(D)各設問メモ

 

設問(一) 

「内面のプライバシー」とはどういうことか、説明せよ。

■解答の主旨=近代の特徴=内面重視=プライバシーの対象も内面

■解答のポイント(メモ)

「近代」という語が必要。解答の主旨のように、近代は「内面」、だからプライバシーの拠点も「内面」と同置させる記述が分かり易い。

■解答例

近代においては、社会的自己を形成する本質は個人の内面にあると考えられたために、個人を知る鍵としての内面が(プライバシーとして)重視され、守るべき対象とされたということ。

 

設問(二) 

「このような自己のコントロール」とあるが、なぜそのようなコントロールが求められるようになるのか、説明せよ。

■解答の主旨=近代社会の要請=自己同一性・社会的信用→個人の内面の管理責任=(主体的個人の要請)

■解答のポイント(メモ)

これも解答のポイントの流れに従うと分かり易い。「自己コントロール」の理由が近代社会の要請であったことを記述する。

■解答例

近代においては、社会が要請するアイデンティティや社会的信用を保持するため、個人は自己の主体として自らの内面を矛盾なく統括する必要があったから。

 

設問(三) 

「情報化が進むと、個人を知るのに、必ずしもその人の内面を見る必要はない、という考えも生まれてくる」とあるが、それはなぜか説明せよ。

■解答の主旨=現代=情報化社会=内面より客観的個人情報(データ)を重視

■解答のポイント(メモ)

・「現代」という語を拾い、展開を示す。現代の情報化社会においては「内面」よりも「データ」が重視される。その理由として、「簡単」「客観的評価」を挙げる。

■解答例

今日の情報化社会では、個人はその内面よりも、データ化された個人情報による方が、はるかに簡単で、より客観的な理解、評価ができると考えられるようになったから。

 

設問(四) 

「ボガードのこの印象的な言葉は、現に起こっているプライバシーの拠点の移行に対応している」とはどういうことか、説明せよ。

■解答の主旨=現代=内面より個人情報を重視=「内面」の失墜

解答のポイント(メモ)

・「プライバシーの拠点の移行」は内面からデータへの移行を、「この印象的な言葉」は「魅惑的な秘密の空間としての・・」を受けている。この言葉は、その拠点の移行に伴い、内面がその魅力・価値を失ったことを意味している。

■解答例

プライバシーが個人の内面から情報システムによる個人情報へと変換されることで、個人の内面は秘密の魅惑とともに、かつての存在の重要性を失ったということ。

 

設問(五) 

「データ・ダブル」という語は筆者の考察におけるキーワードのひとつであり、筆者は他の箇所で、その意味について、個人の外部に「テータが生み出す分身(ダブル)」と説明している。そのことをふまえて、筆者は今日の社会における個人のあり方をどのように考えているのか述べよ。

■解答の主旨=近代から現代、プライバシーが「内面」から「データ」に変化し、個人の在り方も「主体的自己」から「ヴァーチャルなデータの分身」に変化した。

■解答のポイント(メモ)

・「データ・ダブル」は、個人の外部に「テータが生み出す分身(ダブル)」と説明されている。自分以外にデータによってつくられた別の自分が存在してしまうということである。

・当然のことだが、「今日の社会における個人のあり方」という指定があるので、「個人のあり方」を書くことに注意。自己の責任管理から「主体」という語を用い、「ヴァーチャルな分身」の対とした。そうすると設問(一)~(四)の各問の解答も、そこに寄せていくことが求められると考える。

■解答例

近代における個人は、内面によって統括管理される主体的な自己として存在したが、現代の情報化社会においては、システムによって管理される個人データの集積として存在するようになり、個人は自己とは別の実体のないヴァーチャルな自己へと変容しつつあるということ。