伏兵ドラマ「お別れホスピタル」 | sorariri89のブログ

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流れから言うと横道にそれますが、


録画していた全4話を昨日観たので


「お別れホスピタル」の感想を。



重かったです…


観る方もこれくらいの話数が臨界点かも


数年前、同じ原作者さんのドラマ

「透明なゆりかご」を観ました。


最近再放送もありましたね。

今回のドラマ放送のタイミングと合わせたのかなと思いますが、清原伽耶と瀬戸康史の抑えた演技が生真面目で好印象でした。心がギュッとなり、時に涙しながら最後まで観ました。とても良かったです。


どちらも命を扱ったドラマですが、


「透明なゆりかご」は生命の誕生を描いていたので、時に影が差しても基本線は向日性が強くて、余韻としてもどこか明るいものに浸れたのですが、


「お別れホスピタル」はというと…


文字通り"別れ"を描いています。


海辺に建つ総合病院の療養病棟が舞台、そこに働く看護師辺見歩が主人公です。


演じる岸井ゆきのは、なぜかしら愚痴や本音をぶつけられやすいというキャラが見事にハマっていました。辺見本人は妹を巡る母親との確執もあり、きっと子どもの頃からグッといろんなものを飲み込んできたのでしょう。


そんな人間が就くにしてはこの仕事かなりキツイのではないかの思ってしまいますが、でもだから患者からすればありがたい存在かもしれません。


初回から賑やかだった同室の入院患者3人が次々と亡くなります。容赦なかったです。




その一人を演じていたのが丘みつ子

「前略おふくろ様」での和服姿の若女将は艶っぽくて綺麗だったのに、と正直驚きもしましたが、誰しも生きていれば老いるのは現実です。でも声はそのまんまで。丘みつ子さんはきっとお元気に日々を過ごされているのでしょう。


そして第一話のラストには余命宣告を受けて入院してきた古田新太演じる本庄も自ら命を絶ちます。


クセ者古田新太…


別ドラマでは酸素吸入までして、観てる方は泣き笑いに大忙しですよ。


最後はモルヒネで自分のことも訳わからなくなっていくんだろう?それはどんな気持ちなんだろう…自分はこれからどうなっていくんだろう?


本庄は入院前に偶然知り合った辺見に救いを求めるような眼差しを向けるのですが、彼女は何も言葉がかけられませんでした。


多分、誠実すぎるからなのでしょう。


二人が出会った海沿いの道路で朝日を迎えながら見知らぬ者同士としてタバコを吸うオープニングといい、時折り挟まれる海の画や、ずっと聞こえる波の音や海鳥の声は、人の苛烈な営みを凝視する重苦しさを紛らせてくれました。


10年以上植物状態の娘の世話をする母親もいました。精神的にはかなり疲弊しているはずです。

先輩看護師は「きっといつか目が覚めますよ」と言えるのに、辺見はやっぱり何も言えない。


彼女の気持ちを察して、先輩は「嘘ではなくサンタさんみたいなものよ」と言います。どちらも悲しくなるほど優しくて誠実です。


辺見も経験を積んできっと本心から何か言えるようになっていくんだろうな、と思います。





私は死ぬときどんなふうに死ぬのだろう…


立て続けに患者を見送ることになってしまった辺見は思います。


私も子どもの頃からよく考えていました。


海でサメに下半身食いちぎられて死ぬのだけはイヤだなと、思ったこともありました。

映画「ジョーズ」が流行ったときです。笑


何も分からなくなって死ぬのは私もイヤです。少なくとも死につつあることを自覚して消えたいと思ってます。


でもそれはまだどこか非現実的で切実さに欠ける甘い妄想です。どんな最期を迎えるのか、考えたところでどうにもならないです。


今はそんな背中にしょってる自分の死より、どうしても母のことを考えてしまいます。


記憶の泉も枯れていきながら満身創痍で、でもまだ寿命の尽きない母。


苦しみからいつ解放されるのかも分からないまま、それでも起きて食べて寝ての毎日を送らされていることにどんな意味を見出せばいいのか、私には分かりません。



ドラマではいろんなケースが描かれていましたが、どの人もこれでもういいという境地には達していないと思えます。


そんな中、どちらも夫が介護を受けている二組の夫婦が描かれていましたが、自分の親のことを考えて身につまされました。



どんなかたちであれ生きていてほしいと願うのに、夫のベッド脇で先に逝ってしまう妻。


50年以上、お前でないとダメなんだという呪文に縛られ続けてきた献身的な妻。

高橋恵子の能面演技がすさまじかった。


どちらもがある世代の典型的な夫婦像を体現してるようでした。


いよいよとなったとき、

娘が「お父さんありがとう」と感謝の言葉で頬を濡らすのに対して、献身妻は冷めた態度でした。

最後の最後まで自分を求める夫に、諦めたようにつと立ち上がる妻。かいがいしく務めを果たし、終には耳元で「早く逝ってください」と呟くのです。


ひやりとするリアルさに、ふと私は思い出しました。


救急搬送された父が意識を取り戻し、目で母を探しているのが分かった瞬間、母がカーテンの陰に隠れたのを。


先に父を送らなければ周りに迷惑をかけると、一人自宅で認知症の父の介護を最後まで頑張ってくれた母。私も時々泊まり込んで分担したりしましたが、あくまでも外からの手伝いでした。


毎日世話をしながら、母は早く父から離れたかったに違いありません


父を看取り、さあ、これから自分の人生をのびのびと楽しんで、と思った矢先、あれよあれよという間に発作の再発と認知症の発症。オマケに悪性のリンパ腫だなんて、神も仏もあったもんじゃない。


父は私以外の家族が見守る中の大往生だったそうです。最後の入院となった1ヶ月はずっと眠っていて、時々目をさます、そんな感じで苦しむことも全くなかったです。


過酷な子ども時代を過ごし、寂しく愛情に飢えたまま大人になったせいで晩年まで家族は振り回されっぱなしでした。私に言わせれば家庭を築く資質もなかった。空いばりするくせに死が怖くて怖くて仕方なかったのに、父は怖い思いもせず、穏やかに死ねたと思います。


それはひとえに母のおかげです。自由になりたかっただろうに、子どもたちのこと、特に兄のことを考えて自分の人生を父に貢いだ。


それだけ徳を積んでいるともいえるのに…

どこまで業の深い人なんだろうかと、やりきれなくなります。





この病院に入ったら元気になって出ていく人はほとんどいない。


第一話のオープニングで辺見のモノローグは語ります。


この病院に入ったら元気になって出ていく人はほぼいない。ここはそういう場所だ。でも私たちは死ぬ人の手助けをしている訳じゃない。


ここは病院だ。人が生き切るための場所だ。


最終回にも流れる辺見のモノローグ。






ドラマは一つの理想形だと思います。終末ケアに従事する看護師さんの仕事ぶりを見ていると、ときにはやってられないわと思うことあるでしょうに、人を人として見ている彼らの本質は仁の精神なんだと思います。


母の入所先のスタッフさんたちも本当に皆さん優しくて、プロフェッショナルです。接し方の難しい相手もいるでしょうから、自身の心の健康を保つのも並大抵ではないと想像します。


最初の頃はどこか懐疑的でしたが、信頼して良いんだと思うようになりました。家族でも無理なことを家族のようにやってくれて本当に頭が下がるばかりです。


高齢化は進むのに支える若い世代が先細りとあっては、なんだかお先真っ暗な気持ちになるというものですが、このドラマはそこにひと筋希望の光を灯してくれるようでした。


ベッドに横たわっているだけの人と、その人の世話に動き回っている人の境界線なんてなく、順送りなだけだとつくづく思います。それが誠実になされる人の社会であってほしいです。


岸井ゆきの始め、キャストも素晴らしかったです。松山ケンイチ、内田滋、麻生祐未など、存在で芝居できる役者さんばかりでしたが、特筆すべきは辺見の妹、佐都子を演じた小野花梨。私は初めて見ましたが、将来が楽しみな俳優さんですね。



"死の一番そばにある病院で繰り広げられる壮絶で愛に溢れた人間ドラマ"


本当に見応えがありました。



ありがとうございました😊