彫刻家 清水啓一郎先生の「老人と海」の作品と出合った衝撃から、今回の企画が始まった。
何としても、この作品を大勢の人に見て、知ってもらい、感動を分かち合いたいという願望に突き動かされた。
自分もヘミングウェイが好きだったという下地はあった。しかしこの作品に作家が込めた海への憧憬の強さが、否応なしに訴えて来た。
この衝撃は何なのだろうと思いながら、「老人と海」を読み返したが、答えは作品の中にしかない。
多くのお客様がこの作品の前で感嘆し、中には絶賛して下さるのが嬉しい。
自分も藤崎美術ギャラリーで毎日、作品と向き合っているうちに、小説の中の老漁師サンチャゴが命をかけて獲物と格闘していた大海原と、格闘には勝利したがサメに獲物を奪われた漁師の孤舟を浮かべる海に見えていたものが、異なる貌(かお)にも見えてきた。
波の襞が、サンチャゴの心の襞でもあることに気付かされた。
サンチャゴの人生の奥深くまで、孤独の陰影を美しく彫刻家は彫り出している。
作品は円形のボディーとなる木を削り出し、海の色を何層にも塗り重ね、その上に木炭紙を貼ってから、ガリガリその木炭紙を削って下地の色を浮かび上がらせたのだと言う。
画家が描く絵と違うのは、彫刻家の制作は肉体的にモチーフと格闘していることだと思った。漁師と同じように。

◾️清水啓一郎・曽根絵里子 彫刻家

仙台藤崎 美術ギャラリーにて8月28日まで開催



「老人と海」165×165×120ミリ