空の宇珠 海の渦 外伝 精霊の叫び その四 | 空の宇珠 海の渦 

空の宇珠 海の渦 

-そらのうず うみのうず-
空海の小説と宇宙のお話






村は川を挟んで両側に分かれていた。



谷間の村はこの形になることが多い。
 


真ん中に橋が架かっている。
 


橋は、川幅の狭い所に作られる。
 


この橋も例外ではなく、そう言う場所にかけられていた。
 


吊り橋のように見えるが、基本は木材を組んだ造りになっていた。
 


何度か直しているうちに、今の形になったのだろう。


菜月の家は、その橋の近くにあった。
 


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山の斜面が直ぐ側まで迫っている。


そのために平地が少なく、田畑の面積は限られてしまう。


菜月の家以外にも、数軒が建っているだけであった。

 

「私の家はここ、あっちが谺の家よ」


その中に、谺という男の家もあるようだ。
 


菜月は、指を指して真魚に説明をした。
 


「この水はどこから来ている?」


家の側に水の流れがあった。
 


「あっちに岩の裂け目があって、そこから湧き出しているの」



「ほう…」

 
真魚は菜月の指さす方を見た。

 

「そう言うことか…」


真魚がつぶやいた。



「こっちよ!」
 

入り口に案内された。
 


睦月(むつき)、睦月、あれ?」
 

菜月の妹は睦月と言うらしい。
 


その妹は家にはいなかった。
 


「親はどうした?」
 

真魚が菜月に聞いた。
 


「畑に行ってる筈だけど…」


そう言いながら菜月は考えていた。



「一緒ではないのか?」



睦月の行きそうな場所。
 


「たきばあちゃんの所か、泉ね…」


菜月はそう考えた。
 


真魚は目を閉じていた。
 

何かを感じ取っていた。


 
「先に、泉に行くぞ…」


目を開けた真魚が笑みを浮かべていた。
 


「お主、また良からぬ事を考えておるな…」


嵐が真魚の笑みを見て言った。
 


「全く、お主という奴はどこまで関われば気が済むのじゃ…」


嵐が呆れている。



「お主も、『いずれ見せてやる』と約束していたではないか?」



真魚が嵐を見て笑った。
 

真魚達が言っていることは、直ぐ先の未来のことでは無い。


 
その向こうの未来だ。



仲の良い友達同士では、時々こういうことが起こる。


だが、本人達は気づいていない。


廻りからは、変だと思われている筈だ。


 
菜月は、二人のかみ合わない会話に戸惑っていた。


 
「泉に…行ってみる?」


かろうじて出た言葉がそれであった。
 


水の流れを追って山の斜面を登っていった。
 

気がつくと、菜月の家は木に隠れて見えなくなっていた。
 


「ここよ!」
 

小さな滝がそこにあった。


「ほう…」
 

真魚が驚いていた。
 


「真魚、これは…」
 

嵐が真魚を見て言った。

 

溢れる霊気。
 

岩の裂け目からそれは出ていた。
 

「いないわね…行きましょう…」



「待て…」


菜月が行こうとしたとき、真魚が止めた。
 


「こっちだ…」
 

真魚が歩き始めた。
 


「そっちは、何も…」


菜月の声は真魚には届かない。
 


滝の側の岩を登る。
 


登り切ったその向こうにそれはあった。
 


岩の裂け目。
 


無理をすれば、大人でもかろうじて通れる程の裂け目だ。

 
「ここだ…」



「こんな所に睦月がいるって言うの…?」


真魚の言うことを、菜月は信じられないでいた。



「私も…ここは知らなかった…」


もし、睦月がいたとしたら…



初めて村に来た真魚が、菜月より先に知った事になる。



菜月はその事にも驚いていた。


 
「嵐なら楽に行けるであろう?」
 

真魚が笑っている。
 


「お、俺が行くのか?」
 


「その前に真魚、何か忘れていないか?」


嵐が言った。
 


「飯のことか…」



「後でとはいかぬのか…」



真魚が笑っている。
 

くん、くん。
 

嵐が鼻を動かして霊気を吸った。
 


「ま、良かろう…」
 

嵐が岩の裂け目から中に入っていった。



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続く…

-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
    実在の人物・団体とは一切関係ありません-