はははっ!
崑が笑っていた。
「あの婆のたわ言を信用するのか!」
崑はあざ笑うかのように言った。
「確かめて見ぬと分からぬ…」
真魚は平然と言った。
「お主は、精霊を信じているのか!」
崑はそう言ってまた笑った。

「確かめるってどういうこと?」
菜月が、真魚のその言葉に捕まえられた。
「菜月、お前まで何だ!」
よそ者を笑い飛ばす。
そうしようと考えていた。
崑という男の底は見えた。
「信じぬ者には見えぬ…」
真魚はそう言って崑を見た。
「見えるの?」
菜月の顔は真剣であった。
「見えると言ったらどうする?」
真魚は菜月の中に何かを感じた。
「ちょっと来て!」
菜月は真魚の袖を引っ張った。
「見知らぬ男だぞ…いいのか?」
崑は菜月の行動を笑い飛ばした。
「悪い男はね、子犬なんか連れていないものよ!」
菜月は崑を哀れんだ。
「谺~またね~!」
真魚を連れてその場を離れた。
谺は菜月の声で気がついた。
菜月が見知らぬ男と歩いて行く。
その男の袖を引っ張っている。
「何を考えているんだ、菜月は…」
谺は菜月の考えを理解出来なかった。
真魚達は、木樵の作業場を離れ、村に向かっていた。
「あの男がいると、調子が狂ちゃう…」
「全く、茶化すことしかしないんだから…」
菜月はぶつぶつ文句を言っている。
「あっ!」
菜月は、真魚の袖を引っ張り続けていることに気がついた。
「ごめんなさい、つい…」
「あの男が相当嫌いなようだな…」
真魚は菜月の心を見ていた。
「大っ嫌い!」
感情の波動に込めたその言葉は、見事なものであった。
真魚は呆れて笑っている。
「ところで、獣の叫び声を聞いた事があるか」
真魚が話を切り替えた。
「あるけど…」
菜月は真魚の質問を不思議に感じていた。
「いつからだ…」
「いつから…?」
真魚のその問いに菜月が戸惑った。
「いつからだろう…」
菜月は考え込んだ。
思い出せない。
気がついた時には聞こえていた。
「それほど前と言うことか…」
真魚は菜月の様子からそう読み取った。
「かなり前からだと思うけど…」
「鉄が取れなくなった頃か…」
「えっ!」
菜月はその言葉に驚いた。
「どうしてその事を…」
「あなた、本当はお役人様?」
菜月は真魚の姿を改めて見た。
「そう見えるのか?」
真魚のその問いに、菜月は首を横に振った。
「それで、さっきの話だけど…」
「精霊の話か…」
「そ、そう」
「誰かいるのか、見える者が…」
真魚は菜月を見た。
菜月は立ち止まった。
「妹が…たきばあちゃんと同じ事を言うの…」
「いいのか?俺にそんな事を言っても…」
「あなただから言えるのよ、村の人には言えない…」
菜月は黙り込んだ。
「あのばあさん、嫌われているのか?」
菜月と崑の話から真魚はそう感じていた。
「かなり昔…言ったことが一度だけ当たったの…」
「でも、最近は全く当たらなくなった…」
菜月の想いはそうでは無いらしい。
「当たらなければ、ただのたわごとか…」
真魚はそう言って笑った。
「たまたま当たったのか、たまたま外れたのか…」
「菜月はどっちだと思うのだ?」
「私は、たきおばあちゃんを信じてるの、妹も同じ…」
「だけど、村の人はもう相手にしない…」
菜月はその事実を悲しんでいた。
「だから、妹にも誰にも言うなって…」
「なるほど…」
真魚は笑みを浮かべた。
ぐうぅっぅ~
「何の音!」
菜月がその音に驚いた。
「真魚よ、そろそろ飯の時間ではないのか?」
その声は真魚の足下から聞こえてきた。
「まさか!」
菜月は嵐を見た。
まぶたが全開であった。
「俺はもう我慢の限界なのだ!」
「い、犬が喋った…!」
とうとう口まで全開になった。
「言っておくが、俺は犬では無い!神だ!」
子犬の嵐がそう言った。
「か、神様…?」
菜月が嵐を指さして真魚を見た。
「嵐という」
「本当なんだ…」
菜月は真魚の態度でそう感じた。
「本当に、神様っていたの…」
だが、菜月は信じられなかった。
「神の声が聞こえるのであれば…」
「精霊の声も聞こえるのではないのか?」
真魚は菜月に問うた。
「更に言っておくが、今は仮の姿じゃ…」
「いずれ本来の姿を見せてやる…」
「見せてやるって…」
菜月は嵐の言葉の意味を理解出来なかった。
「妹に話を聞いてみるか…」
真魚がそう言って笑みを浮かべた。
その言葉で、菜月の波動が広がった。
「きっと、喜ぶわ…」
菜月は、何かが変わって行くような気がしていた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-