少年が神社の石段を下りながら奏の姿を捜している。
その行動はある見方をすればかなり不自然に感じる。
「あの小僧…ひょっとして…」
木の上で前鬼がその事に気づいた。

一仕事終え、偵察がてら二人は木の上で休んでいた。
「何かを捜しているようじゃな…」
後鬼もその事に気づいた。
少年は石段を下り神社の参道を抜けて行った。
「媼さんはここで怪しい奴らを見ていてくれ…」
そう言って前鬼が少年の後を追った。
少年はある方向に向かって走っていた。
恐らくその先に奏の家があるはずだ。
「あっ!」
少年が急に立ち止まった。
「やはり…」
少年が落ちている斧を見つけた。
「奏はここまでは来たんだ…」
だが、姿は見せなかった。
少年はその斧を持って奏の家の方へ走っていった。
「あの娘の事を気にしておるのか…」
前鬼は少年の後をつけた。
「月がこんなに…」
奏の想いは響の想いでもあった。
「面白い…」
真魚はそう言って笑みを浮かべた。
「真魚、あなたたちって一体…」
奏は感動している。
その感動が響にも伝わっている。
「この辺りか…」
嵐が止まった。
太陽と月と大地。
全てが輝いて見える。
「こんなに大きいの…」
響が声を上げた。
「そして、丸い…」
奏がそう言った。
「目を閉じてみろ…」
しばらく時間が過ぎ、真魚が言った。
二人は黙って目を閉じた。
「ああ…」
同時に声を上げた。
伝わるお互いの温もり。
二人の心が共鳴している。
「ああ…」
そして、更に光が二人を包み始めた。
「何…これ…」
二人同時に言った。
「感じて見ろ…」
真魚がそう言った。
二人が感動を共有している。
「ああ…何なの…」
響の背中から奏が響を抱きしめている。
響は奏の手を掴んだまま離さない。
「神の一部だ…」
真魚はそう表現した。
二人が共鳴しながら、その波動が広がっていく。
その感動の波動に廻りの生命が反応していく。
舞い降りる光の粒。
それぞれに意思があるように、二人に寄り添い話しかける。
それは言葉ではない。
だが、二人にはそれがわかる。
「これが…神様の一部…」
「そうだ…ほんの一部だ…」
真魚が二人に言った。
「これが…一部…」
その果てしない生命の力に二人は驚いた。
それでも、それが全てではない。
光の粒が舞い降り、二人に触れた。
二人とも同じようにその両手を広げた。
手の平に一粒の光が舞い降りた。
「ああっ!」
その瞬間…
大いなる慈悲が二人を包んだ。
身体の震えが止まらない。
心が震えているからだ。
感動の波動が二人を変えている。
その光に触れたものはその意味を知る。
光の粒を優しく握りしめた。
それは奏の意思ではない。
響の意思でもない。
光の意思だ。
光を握りしめたまま奏は響を抱きしめた。
その腕を響は離せなかった。
お互いを抱きしめ泣いていた。
これ以上の悲しみはなかった。
だが、悲しいから泣いているのではない。
その儚さと尊さに、感動しているのだ。
尊いのだ。
儚いのだ。
儚く、尊い。
その有り得ないものが存在する事に感動しているのだ。
手を開いたとき光の粒はそこには無かった。
握りしめた光の粒は二人の一部になった。
「ありがとう…」
奏と響は開いた手を見つめて泣いていた。
「これでわかっただろ…」
「俺は神だ!」
嵐がそう言った。
「ありがとう、嵐…」
「ありがとう、真魚…」
「出会ってから半刻も経ってはいまい…」
真魚がそう言って笑った。
「本当だ…」
奏はその事実に笑った。
「だが、時間は関係ない…」
真魚がそう言った。
「そうだ…」
嵐がそう言って高度を下げ始めた。
奏と響はうれしそうであった。
「良かった…」
奏は響に言った。
「あなた達に会えて…」
響はそう答えた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-