光が響をさらっていった。
多くの村人の中でそれに気づいたのは、この少年だけであった。
ほとんどの村人は、屋根の上の影に惹きつけられた。
しかし、少年だけは直ぐに響の姿を捜した。

この少年にとっての優先順位。
しなければならないことの一つが、響であった。
そして、少年は見た。
光が響をさらっていった。
「奏?」
少年はその光の中に奏を見たような気がした。
光が通り過ぎた後に響の姿はない。
だが、少年にはそれよりも気になることがあった。
奏の事だ。
響を助けに来なかった。
有り得ない。
この少年にとって、それは有り得ない事だ。
だが、響は消えた。
少年はその不自然さに戸惑った。
助けに来るはずの奏が来ない。
消えた響。
光の中に感じた奏。
「まさか…」
そして、有り得ない考えが少年に浮かぶ。
奏は来なかったのではない。
奏は来た。
消えた響。
消えたのではない。
奏が助けたのだ。
「そうだ…きっと、そうだ…」
そう考えれば全ての想いが繋がる。
そこに綻びはない。
だが、その方法が分からない。
「どうやって助けたんだ…」
少年の思考はその方法を捜し始めていた。
有り得ない現象。
奏が何らかの方法を使って奏を助けた。
それが、少年が出した答えであった。
この答えは間違っていない。
奏への想い。
揺るぎない心。
答えを導き出せたのは、少年がこれを持っていたからだ。
この鍵がなければ、この扉は開かない。
―奏は必ず助けに来る―
この想いが少年にだけ真実を見せた。
その答えを見つけた時、少年は社の階段を下りようとしていた。
「見せかけの神になど用はない…」
少年は神を信じてはいなかった。
階段を下りながら奏の姿を探していた。
嵐の背中で奏は響を抱きしめていた。
縄で縛られた響を、落ちないように支えていた。
響は驚きのあまり口を開けたままだ。
一瞬光に包まれた。
「響!」
気がつくと奏の泣き顔が見えた。
「奏!」
奏の想いが響の頬を濡らした。
そして、響の瞳からもその想いがこぼれていた。
奏は響を助けるつもりでいた。
しかし、不安はあった。
それが成功する保証はどこにもなかった。
奏に伝わる響の温もり…
響に伝わる奏の想い…
目を閉じて二人は抱き合っていた。
「さすが双子だな…」
響の前から声がした。
そして、気がついた。
「飛んでる?」
響はその状況に驚いた。
「動いちゃだめ!」
奏が響を抱き寄せた。
「今、縄をほどくから…」
奏が縄をほどいている。
「俺は真魚だ、この山犬は嵐だ…」
響と目があった真魚が先にそう言った。
「奏、これって…」
「私もさっき出会ったばかり…」
「これで私たち自由よ!」
縄をほどき終えた奏がそう言った。
「でも、信じられない…」
生きている。
その事実が響の心を震わせている。
響の心からその感動が溢れ、広がっていく。
「ここまで飛ぶ必要があるのか?」
真魚がつぶやいた。
「ついでだ…」
そう言って嵐は高度を上げた。
「山犬がどうして喋るの?どうして飛べるの?」
「俺は山犬ではない、神だ!」
響の疑問は嵐の一言で消えた。
「神様?」
「神様…っていたの…」
響が驚いている。
「神はあまねくあるものだ…」
真魚がそう言った。
「あ、あまねく…って?」
奏が混乱している。
「どこにでもあると言うことだ…」
真魚がそう言った。
「手を伸ばせばそこにある…」
真魚がそう言って笑っている。
「でも、神様は助けてくれなかった…」
響は神の生け贄にされる所であった。
「お主ら…何か勘違いをしていないか?」
嵐が言った。
「勘違い???」
二人が声を揃えて言った。
「神が生け贄など欲しがると思うか?…」
嵐が言った事実は二人の心を締めつける。
何人かの友がその犠牲になっている。
「神は手を貸さない…」
真魚がそう言った。
「だから、生け贄など必要ないのだ…」
「そうか…」
真魚の言葉で奏が気づいた。
「そういうことなの…」
響がその想いを感じている。
「お主らが言ってる神は、偽物だということだ…」
嵐が答えを言った。
「神は手を貸さない…」
「だが、助けない訳ではない…」
真魚が笑っている。
「私、助けられている…」
響が気づいた。
「あれは、奏の想いだ…そして、祈りだ…」
真魚がそう言った。
響を助けようとする奏の想い。
真魚と嵐がそれを感じて行動を起こした。
「俺は、神だぞ!」
嵐が自慢げに言った。
その言葉は嘘ではない。
「神様って…いるんだ…」
その感動を二人は分かち合い、共有していく。
「だが…これほどとはな…」
真魚が二人を見て笑みを浮かべていた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-