空の宇珠 海の渦 第五話 その六十一 | 空の宇珠 海の渦 

空の宇珠 海の渦 

-そらのうず うみのうず-
空海の小説と宇宙のお話





いくつもの峠を越えてきた。
 

だが、まだたどり着けない。
 
蝦夷の未来。
 
紫音が願った未来。
 
村人たちは既に限界を超えている。
 
食料も尽きかけている。
 
保ってあと二日。
 
それまでに見つけたい。
 
紫音はそう思っていた。


もうすぐ登り道が終わる。

木々の間から青空が見えた。
 
「呼んでいる…」

紫音は誰かに呼ばれているような気がした。
 
大地が呼んでいるような気がした。
 

「紫音、あれを見て!」
 
峠を登り切ったところであった。 
 
先頭の御遠が何かを見つけた。
 
峠の上からその景色が見えた。
 

その瞬間。
 

紫音の瞳から涙が溢れた。



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「見つけた!」
 
「やっと見つけた!」
 
紫音はその場に座り込んで泣いた。
 

うれしかった。
 
また皆で生きられる。
 
大地が「生きよ!」と言っている。
 

御遠が紫音の手をにぎった。
 
「紫音、私たちの未来よ!」
 

紫音は御遠と抱き合って喜んだ。
 
村人も駆けてきた。
 
歓声が上がる。
 
大地が呼んでいた。
 

紫音には聞こえる。
 
その声が。
 
 
共に生きよう
 
皆の力で
 
共に生きよう
 
明日を創ろう
 
共に生きよう
 
生命は同じ

共に生きよう
 
皆、繋がっている
 
共に生きよう
 
全ては一つ
 
共に生きよう
 
離れることなどできない 
 
 

紫音は涙を手の甲で拭った。
 

「みんな!あと少し!頑張りましょう!」
 
村人に声をかけた。
 
あんなに疲れていたのに元気が出た。
 
それは村人も同じであった。
 

「母礼、見つけたよ…」

紫音は心の扉につぶやいた。
 
大地の生命(エネルギー)が輝いていた。






続く…