阿弖流為と母礼は罪人として、都から移された。
手と腕を縛られ馬に乗せられた。
馬に乗った田村麻呂が先頭にいた。
その後ろを阿弖流為と母礼の馬が続く。

結局、帝は二人を許すことはしなかった。
田村麻呂は帝を説得したが、聞き入れてはもらえなかった。
帝だけではない。
貴族たちも全員一致で死刑を宣告したのだ。
「すまぬ、俺の力ではどうにもならぬ…」
田村麻呂は二人に詫びた。
処刑は明日執行される。
二人の処刑は田村麻呂が執り行うこととなった。
普通ではまずあり得ない。
田村麻呂のような身分の者が処刑を行うことなどない。
だが、これだけは田村麻呂が意地を通した。
それが、二人の願いだったからだ。
阿弖流為と母礼のおかげで田村麻呂は英雄になれた。
だが、事実はそうではない。
田村麻呂の完敗であった。
「俺たちは何のために戦って来たのだ…」
田村麻呂がつぶやいた。
あの貴族共のために戦ったのか…
そう思うと気持ちの逃げ場がない。
「結局、あの黒い何かに動かされていただけかも知れぬ…」
田村麻呂は自分を責めた。
「それは違うぞ」
阿弖流為であった。
後ろから田村麻呂に声をかけてきた。
「お主もあれを見た」
「人の力ではどうにもならぬものを…」
「見たからお主は変われたのだ」
「あの馬鹿者共とは違う」
阿弖流為は堂々とそう言った。
「俺たちは光に導かれたのだ」
阿弖流為がそう言った。
「佐伯真魚…」
田村麻呂はその名を言った。
「佐伯真魚という光に…」
田村麻呂は阿弖流為の言葉に救われた様な気がした。
満天の星空であった。
阿弖流為と母礼は、縛られたまま石に繋がれていた。
見張りが何人かいる。
「この星空も見納めか」
母礼が夜空を眺めている。
「なぁ阿弖流為、俺たちは夢を見ていたのか?」
「夢か…夢はいつか未来に変わる」
阿弖流為が答える。
「もうすぐ夜が明ける」
「ありふれたものが、今までこんなに美しいとは思わなかった」
母礼は満天の星に感謝した。
心の底から感動していた。
「真魚のおかげだ」
阿弖流為が言った。
「そうだな」
母礼は目を閉じて全てを感じた。
紫音の笑顔が浮かんだ。
「そうか、見つけたのか…」
母礼の瞳から涙が一筋流れた。
「なんだ!」
突然阿弖流為が叫んだ。
星が光っている。
かなり大きい。
どんどん近づいてくる。
「こっちに向かっている!」
星が落ちてくる。
二人の胸が光っている。
光が二人を包み込む。
「それもいい」
阿弖流為は言った。
「そうだな」
母礼が笑っていた。

続く…