空の宇珠 海の渦 第五話 その四十一 | 空の宇珠 海の渦 

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-そらのうず うみのうず-
空海の小説と宇宙のお話




蝦夷の戦士達が続々と集まって来た。

蝦夷とは、倭でないものと言う意味が含まれる。
 
どこまでが蝦夷でそうでないのかは分からない。
 

倭のやり方を拒否する者達が、

集まったと言う方が正しいのかも知れない。 


倭に対する反乱軍である。
 

極端に言えば見知らぬ部族の集まりである。
 

それだけに統制を取るのは難しい。
 

阿弖流為は頭を悩ませた事であろう。
 

だが、蝦夷達は馬を巧みに使い攻撃する。
 
弓の扱いも上手い。


蝦夷にとって馬に乗ることは生活の一部だ。

 
だが、倭はそうではない。
 
その差が戦力の差を埋める。
 

それが、倭が蝦夷に手を焼ている訳だ。

 

倭は当初多賀城で戦力を集め、

次第に蝦夷の地に近い伊治城(いじじよう)に戦力を移動させた。
 
そして、伊治城から蝦夷の地に向かっていた。
 

現在で言う奥州街道を真っ直ぐに北上していた。
 

阿弖流為は現在で言う北上川が一番東に張り出した部分に、

蝦夷の戦力ほとんどを集結させた。
 

「紫音からこれを預かった」
 
「これは何だ?」
 
阿弖流為が不思議そうに母礼に聞く。
 


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「これが俺たちを守るらしい」
 
「ほう…」
 
母礼は半信半疑だが阿弖流為は感じていた。
 

「真魚か…」
 
「紫音がそう言ったのか?」
 
阿弖流為はそれが持つ波動を感じ取っていた。
 

「そうだ!」
 
母礼は鈍感だが紫音の心は信じている。
 

「有り難く頂いておく…」
 
阿弖流為はそう言ってそれを懐にしまった。
 

「まだ少し時間がある…」
 
「ああ…」
 
そう言って二人は倭が来るであろう南を見ていた。
 


  


その頃、倭の軍は奥州街道を真っ直ぐに北上していた。
 

その数、数万。
 

蝦夷の連合軍に対して数十倍ほどの数だ。
 

これは、圧倒的な数で蝦夷を殲滅する作戦である。
 

だがそのほとんどが歩兵である。
 
馬の数は少ない。
 

その分歩兵で補っているのである。
 

この作戦は坂上田村麻呂自身が考えたものではない。
 

帝の意を介しての事である。


それほど蝦夷の力を畏れているのである。
 

畏れているからこそ、これほどの戦力を使ってでも排除したいのだ。
 


それが権力に縛られた者の心だ。
 


田村麻呂にはそれが分かっている。
 

だが、武将としての本心はそうではない。
 

絶対的な力をもって敵を滅ぼすことは、その道に反する。
 

田村麻呂はそう思っている。


だが、この戦いはどうしても勝たなくてはならない。
 
負けることは自らの死だけでは済まない。
 
一族全てがこの世から抹消される。
 

あの男ならそうする。
 

田村麻呂は覚悟を決めていた。
 

『どうする、佐伯真魚、この数を止められるのか、貴様は…』
 

田村麻呂の葛藤は、心を大きく揺さぶっていた。



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続く…