蝦夷の戦士達が続々と集まって来た。
蝦夷とは、倭でないものと言う意味が含まれる。
どこまでが蝦夷でそうでないのかは分からない。
倭のやり方を拒否する者達が、
集まったと言う方が正しいのかも知れない。
倭に対する反乱軍である。
極端に言えば見知らぬ部族の集まりである。
それだけに統制を取るのは難しい。
阿弖流為は頭を悩ませた事であろう。
だが、蝦夷達は馬を巧みに使い攻撃する。
弓の扱いも上手い。
蝦夷にとって馬に乗ることは生活の一部だ。
だが、倭はそうではない。
その差が戦力の差を埋める。
それが、倭が蝦夷に手を焼ている訳だ。
倭は当初多賀城で戦力を集め、
次第に蝦夷の地に近い伊治城に戦力を移動させた。
そして、伊治城から蝦夷の地に向かっていた。
現在で言う奥州街道を真っ直ぐに北上していた。
阿弖流為は現在で言う北上川が一番東に張り出した部分に、
蝦夷の戦力ほとんどを集結させた。
「紫音からこれを預かった」
「これは何だ?」
阿弖流為が不思議そうに母礼に聞く。

「これが俺たちを守るらしい」
「ほう…」
母礼は半信半疑だが阿弖流為は感じていた。
「真魚か…」
「紫音がそう言ったのか?」
阿弖流為はそれが持つ波動を感じ取っていた。
「そうだ!」
母礼は鈍感だが紫音の心は信じている。
「有り難く頂いておく…」
阿弖流為はそう言ってそれを懐にしまった。
「まだ少し時間がある…」
「ああ…」
そう言って二人は倭が来るであろう南を見ていた。
その頃、倭の軍は奥州街道を真っ直ぐに北上していた。
その数、数万。
蝦夷の連合軍に対して数十倍ほどの数だ。
これは、圧倒的な数で蝦夷を殲滅する作戦である。
だがそのほとんどが歩兵である。
馬の数は少ない。
その分歩兵で補っているのである。
この作戦は坂上田村麻呂自身が考えたものではない。
帝の意を介しての事である。
それほど蝦夷の力を畏れているのである。
畏れているからこそ、これほどの戦力を使ってでも排除したいのだ。
それが権力に縛られた者の心だ。
田村麻呂にはそれが分かっている。
だが、武将としての本心はそうではない。
絶対的な力をもって敵を滅ぼすことは、その道に反する。
田村麻呂はそう思っている。
だが、この戦いはどうしても勝たなくてはならない。
負けることは自らの死だけでは済まない。
一族全てがこの世から抹消される。
あの男ならそうする。
田村麻呂は覚悟を決めていた。
『どうする、佐伯真魚、この数を止められるのか、貴様は…』
田村麻呂の葛藤は、心を大きく揺さぶっていた。

続く…