真魚は空から状況を見ていた。
嵐の背中の上である。
「ほう、阿弖流為もなかなかやるな…」
真魚には阿弖流為の作戦が見えていた。
奥州の地には北上川が流れている。
縦に細長い平野に対し西側の山脈に近い所を流れている。
東側はかなり広い平野部が広がる。
戦をするのであれば平野部で行った方が立ち回りがいいはずだ。
だが、阿弖流為はあえて川に近い側に蝦夷を集めた。
この意図を真魚は既に感じていた。

「真魚よ、やはり数的には蝦夷が圧倒的に不利じゃと思うのだが…」
嵐は蝦夷のことを考えていた。
「だから、あの場所を選んだのだ」
真魚にはすでに分かっている。
「背水の陣か…」
それは空の上から見て、初めて分かる事実が存在するからだ。
「だが、田村麻呂は気づくであろうな…」
真魚はそう確信している。
「どういうことだ?」
嵐は真魚の言う『気づく』という言葉に引っ掛かりを覚えた。
「おかしいとは感じるはずだ」
「だが、分からない…」
真魚はそこまで見抜いていた。
「この高さからだとそれが見える」
地の利と言う言葉がある。
阿弖流為は知り尽くした地の利で戦おうとしている。
数的に絶対不利な状況で、勝機を見いだそうとしている。
それが真魚には分かる。
「阿弖流為と言う男ただ者ではないと感じていたが…」
「嵐、お主が一回り大きくさせたな!」
「またその話か!」
「成り行きだったな…」
真魚が嵐をからかった。
「阿弖流為の状況を見る目は本物だ、
ただ戦っただけでは蝦夷は負ける」
「だが、倭はもろい…」
「どういうことだ?」
嵐は腑に落ちない。
「蝦夷の者達には大意がある」
「大意だと…」
嵐は考えた。
「蝦夷の未来を守る…」
少しずつ何かが見えてきた。
「そうだ!」
「そういうことか!」
嵐の視界が明るくなった。
「倭の兵は出来ればやりたくない者ばかりだ」
「金で雇われた者達、ただの徴兵、寄せ集めで大意がない」
「それは田村麻呂も分かっておるのではないのか?」
嵐は真魚に疑問を投げかける。
「分かっているはずだ」
真魚はきっぱりそう言った。
「では、なぜ?」
「まさか!」
嵐は田村麻呂の苦悩が見えた。
「最初に感じたものはこれだというのか?」
「そうだ!」
田村麻呂はわかっていたのだ。
数ではない。
その志が全てを変えると言うことを…
「そういうことか!」
倭にもこのような男がいる。
「田村麻呂という男、なかなかのものだ!」
嵐は改めてそう感じていた。
蝦夷の空を一回りし、真魚は状況を把握した。
「それはそうと、前鬼と後鬼は何をしておるのだ?」
「奴らには大事な仕事がある」
「大事な仕事?」
嵐には想像がつかない。
「紫音と一緒にいるはずだ」
「なるほど…」
何となく見えてきた。
「蝦夷の未来か…」
「そうだ」
嵐は戦の事ばかり気にしていたが、
真魚は二つ目の駒を用意していたのだ。
「戦の結果は結果だ、何が起こるか分からない」
「さすがの俺も数万の意識を自在にはできん」
真魚は嵐に事実を言った。
「だが、同じ思いが重なればそれは別だ!」
「その想いが道を拓く!」
「それは大意と言うことか?」
嵐には真魚の言葉の意味がよく分かる。
今の嵐は、二つの想いが重なった姿でもある。
「蝦夷には大意がある!」
嵐にもそのことがはっきりとわかる。
「それぞれの想いが小さくても、集まれば大きな力となる」
「あとはそっと押してやるだけなのだ」
真魚は未来を感じている。
「もう一つ見たい所がある」
「よし、行くぞ!」
嵐はそう言うと更に高く飛んだ。

続く…