ある地区の小学5年生は、毎年、ある山奥に林間学校に行きます。
この林間学校に行くと、多くの学校さんは、宿舎近くの山に登山をします。
その登山の時、ある地点まで登って来ると、こども達は全員、向かいにある山に向かって、「ヤッホー」と叫びます。「ヤマビコ」を聴くためです。そして、この場所のことを通称「ヤッホー・ポイント」と言います。
この「ヤマビコ」ですが、山岳部に住んでいるこどもでなければ、なかなか聴くことは出来ませんし、私がこどもの頃を思い返してみても、初めてちゃんと聴けた時は、とても感動した記憶があります。
ですので、こども達がここを訪れた時には、私がこどもの頃に感じたような感動を、同じように味あわせてあげたい。日頃、自然に接することが少ない「現代っ子」にぜひ、大自然の恩恵を感じさせてあげたいと思っています。
ただ、「ヤマビコ」って実はなかなか聴けません。私がこどもの頃、「山に行きさえすればヤマビコが聴ける」と思って、あたりかまわず「ヤッホー」と叫びまくって、結局、まったく聴けずという体験を何度もしました。
当然、「コツ」があるのです。
ほとんどのこども達は「コツ」がわかってないでしょうし、大人数でガイガイ山に登っても、かすかな「ヤマビコ」は聴こえるはずもありません。
ですので、私は、この山に登山する時は、こども達に「ヤッホー」のポイントを登山前にお話させてもらうのです。
また、こども達が、その「ヤッホーポイント」に着いた時も、その場を仕切らせてもらって、声を出す方向や、声の出し方、声を出したあと静かに耳を澄ますこと、そして、まわりの大勢のこども達を静かにさせたりもします。
ちゃんとやってあげれば、こども達は100パーセント「ヤマビコ」を聴くことが出来ます。
「聴こえた?」
こども達には必ず確認するようにしています。
こども達は「ニコッ」としてうなずきます。
こういった瞬間が自分にはとても嬉しいです。
さて、この「ヤッホー」における一連の私の行動ですが、ここまでするカメラマンってあまりいないかもしれません。
そこには当然、引率の学校の先生方もいらっしゃいますし、宿舎から来られた指導員の先生方もいらっしゃいます。
ですので、単純に私の行動だけを考えれば「やりすぎ」でしょう。
「でしゃばりすぎ」
それは、私もじゅうじゅう承知しています。
ただ、こういった行動をする際も、実は様々なことを考え抜いて行っています。
まず、こども達が「ヤッホー」と言っているときは、この上なく良い表情をしてくれるので、最高のシャッターチャンスであり、写真は連写で撮りまくるので、「写真屋には関係ない」場面ではないということ。
登山前にお話をさせてもらうと言っても、指導員さんが来られる前の、「単なる待ち時間」にお話をさせてもらうので、時間的なロスがゼロということ。
どんなにベテランの先生方よりも、圧倒的に多く、この山に登っているので、この場所のこと、休憩のタイミングなども熟知していること。
指導員の先生も登られるものの、先頭を引っ張っていかなければならないので、「ヤッホーポイント」にずっと居ることはできないこと。
学校の先生方も同じく、各クラスの先頭や最後尾を歩かれるので、「ヤッホーポイント」にずっと居ることはできないということ。
大勢のこども達を、誰かが静かにさせなければ「ヤマビコ」を聴くことは不可能ということ。
以上のことを考え合わせると、私が「ヤッホー」に積極的に関わらせていただく正当性(?)みたいなものがあるのかな?・・・、なんて考えて、「『でしゃばり』と言われかねないな」と思いながらも動かさせていただいてます。
いや、ほんと、「しゃしゃり出すぎかな・・・」と毎度、思います。
ただ、やっぱり、こども達に喜んでもらいたい!
「ここは、『こども達を喜ばせられるチャンス』だから許してください」と思っています。
でも、学校の先生方って・・・、
「我々の職域に入ってきやがって!」
とか、
「お前は写真屋なんだから、おとなしく写真だけ撮ってろ!」
じゃないんです。
「こども達のために、ありがとう」
なんです。
こういうところが、私が先生方に日頃から大きな感謝と尊敬の念を持つ、ひとつ大きな要因です。
先生方って、
「私が」
ではなく、
「こども達が」
なのです。
私がこの仕事に対して、並々ならぬ情熱を持てて、仕事を楽しいと感じられるのは、こういった先生方のおかげだと、常日頃、強く思っています。
そもそも、私は「こどもは世界の宝」だと思っています。
「世界の宝」ですから、「世界中の人達で育てるもの」だと思っています。
ですから、林間学校ひとつとっても、「先生が」とか「指導員が」とか「カメラマンが」ではなく、大人みんなで、寄ってたかって、こども達に愛情を降り注いであげれば良いと思っています。
ところで、この文章を書いている2020年5月、世の中は「コロナウィルス」の影響で様々な物事が「自粛」となっています。
それで、実はこの文章は、昨年度末の卒業式直後のことを思い出して書いています。
卒業式の直後、ある学校さんの、6年生の先生方からお聞きしたお話ですが・・・、
卒業式当日、コロナの影響で式が短縮されていなければ、卒業生のこども達が、入学から卒業までを振り返る寸劇をやる予定だったそうです。
その寸劇の中では、林間学校の場面になった時、こども達が大きな声で「ヤッホーポイント!」と叫ぶと・・・、
なんと!、私に扮したこどもが出てきて、ヤッホーポイントとは全く関係の「無い」、私の口癖「お嬢さんが世界の中心!」と言って、みんなを笑わせる、という演出があったらしいのです。
「お嬢さんが世界の中心!」というのは、私がこども達の集合写真を撮る際、基準になる最前列の中央にあたる子を呼ぶ時に発する言葉です。
「撮影自体を楽しく」と考えているので、発する言葉も単なる「情報伝達ツール」で終わらないようにしていますが、それが、こども達には印象に残っていたようです。
「写真屋だから、おとなしく写真だけ撮ってろ!」と言われれかねないリスクがあっても、「こども達のために・・・」と思ってやったことが、こちらの想像以上に、こども達の心の中に残っていたのかもしれません。
正直、「今年の子たちは、ちょっとおとなしいし、そんなに上別縄さん、上別縄さんって寄って来ないな」とも思っていましたが、最後の最後に、思いがけないプレゼントをいただきました。
卒業式の本番中に、ぜひとも見せていただきたかったですが、ほんとうにありがたいことです。
「ほんとうに、ありがとう・・・。
中学校に行っても元気で!
コロナに負けるな!」
(おわり)
今回も、読んでいただいた方、ほんとうに、ありがとうございます。