舟を編む | soralibro

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通勤時の読書の備忘録です。

以前映画がありテレビで見たような覚えがありますが、主演が松田龍平だったことくらいしか覚えていない。原作を読もうとは思わなかったので、かなり印象が薄いようです。
先月までNHK BSでドラマ化されていた「舟を編む」はとても気に入り全編見ました。それでようやく原作を読んでみようと思い立ちました。
 
三浦しをん「舟を編む」

玄武書房辞書編集部の荒木は松本先生とともに新しい辞書「大渡海」の企画を立ち上げていたが定年のため後継者を探していた。言葉の鋭いセンスを持つがトンチンカンな馬締を営業部から引き抜く。新しい辞書編纂のための長い旅がはじまる。十数年後新たにファッション雑誌編集部から岸辺が転籍し、いよいよ完成に向けて邁進していく。
 
辞書を作ることは出版社のなかでも特殊で長いスパンと経費がかかる膨大な作業だということがよくわかりました。辞書にどの単語を加えるのか、注釈の言葉選び、何度も校正を繰り返しての確認作業、決められた紙幅に収めるパズルのような作業。ひとつのことにとことん集中できる馬締のような人にしかできないように思います。そんな馬締に同期の西岡は嫉妬を覚えつつも辞書編集部を離れてからも応援し続けます。左遷なのかと思いつつ配属された岸辺は整理整頓の達人。そういう人もまた辞書作りには向いているようです。主な登場人物を極力少なくして、辞書編纂の様子を細かに描いていきます。そのなかで馬締と下宿先の孫で板前のの香具矢との恋愛と結婚譚がはさまれています。あまりに唐突に結ばれたのでビックリでした。西岡や岸辺の恋愛も少しあるのですが、脇の話しとはいえ、かなりの端折られようで、逆に必要だったかちょっと疑問。終盤になり、一つの単語が抜けていることに気付き合宿しながらの見直し作業(この合宿の様子は事細かに書かれていてこれも必要なのかとちょっと疑問)。時を同じくして松本先生の食道癌での入院が重なります。アルバイト学生も含め全員の思いを一つにして大渡海の完成にこぎつけます。
 
本も映画も主人公は馬締です。ドラマは原作の後半部分だけを取り上げて主人公を岸辺にしてゆとりを持ったつくりになっていました。こちらでは岸辺の恋愛事情も踏み込んで描かれていました。配役もよかった。NHK BSドラマは多分視聴率はすごく悪いと思うのですが、俳優を贅沢に使い良質のドラマがよくあります。
本は最後に松本先生は亡くなってしまいます。亡くなっても思い出や記憶は言葉として残っていく。言葉は絶対に必要なもの。辞書の編纂にも終わりがない。馬締は希望をもって本は終わります。
ドラマでは時代を少しずらして2024年完成にしていました。最終回に新型コロナをぶち込んできてどうなることやら、と思ったのですが、コロナを乗り切り、またコロナ禍で生まれた言葉を辞書に載せるのかの議論もあり、うまい展開でした。最後松本先生は治療が功を奏します。ドラマのほうはより明るい希望を全面にだした終わり方でした。
 
先に本を読んでドラマを見た方が背景がよくわかってよかったかも、と思ったのですが後の祭り。
本はおまけに馬締の壮大なラブレターを西岡と岸部の解説付きで載せられていて最後までとても楽しみました。