NHK「最強の城」でいつもおちゃめで城愛あふれるお話をしている千田嘉博博士
数年前日経新聞に連載していたコラムは親しみやすい文章で好きでした。
千田嘉博「城郭考古学の冒険」
読むのに時間がかかってしまいました。写真や図がたくさん載っているのですが、白黒なので特に図面は見づらく、ネットで調べたりしながら読んでいるとなかなか進みませんでした。特に戦国時代の城の説明が詳細でとてもおもしろいだけに、もう少し大きく図面を載せてほしかった。老眼にはきつい。
まずは城郭考古学とはいかなるものかの説明からはじまります。考古学、歴史地理学、建築史、史跡整備などの文理にまたがる多様な学問分野を城を中心において総合して学融合分野として研究していく新しい研究視角である。今は城ブームで各地の史跡の整備がすすめられている。学問の壁を超えて分析された城の総体はまさに地域の歴史と文化を物語るかけがいのない歴史遺産、文化財となる。
そして日本の城の歴史的変遷、城の鑑賞術と続いていきます。城イコール天守となりがちだが、遺構や石垣、堀などを自分の足で歩きながら城の歴史を読み解いていく刺激的な探検である。
メインは戦国時代の城の変遷である。現在日本の城としてイメージする石垣、天守の城は織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の時代に成立した。この3名が建てた城を詳細に説明されています。
最後に今流行りの城の復元について。こちらが本書で本当に伝えたかったことなのだと思います。
特に今は近世の城だけではなく中世の城遺構にも関心が高まっている。中世の城跡は建物は失っても堀や石垣が残っており比較的容易に観察ができることから民間学として開かれていた。そこに文化庁が補助事業として中世城郭の総合調査を後押しした。これで基礎調査から城跡の保護の道筋が明確に付けられるようになった。ただ問題点もある。技能を持った研究者が少ないこと。復元を目的にした調査は建物の調査に偏っていること。城全体の空間を把握することは来場者に城の防御を体感してもらう不可欠な要素である。ところが実際は誤った出入口を作ったり不自然な遺構解釈になったりしている遺跡が少なくない。建物の立体復元も文化庁から補助金がでているがどこも大同小異になりがちである。各地で天守や御殿の復元を求める声が大きくなっているが、考証不十分で史実に反した建物の復元や本物の石垣や土塁を壊して整備するようなことはすべきではない。個性的で史実に基づいた整備を真剣に模索する必要がある。
具体的に指摘している市がでてきます。特に岡崎市教育委員会の岡崎城の説明が一次資料と全くそぐわないこと、日進市の本物の遺構を破壊して整備した本当はなかった天守や石垣について、奈良県の奈良時代以降の遺跡が全く放置されていることなど、かなり辛辣に書かれています。一方、熊本県や石川県などお手本としたい例もでています。
見た目によい天守だけが城ではなく、城跡を見ることによってその土地の歴史、文化を感じ誇りをもてるような調査と整備保全を切に願っている千田先生の熱意を感じられる本です。