ルネ・ガリマール:이재균(イ・ジェギュン)
ソン・リリン:김바다(キム・パダ)
チン:송희정(ソン・ヒジョン)
トゥーロン/判事:오대석(オ・デソク)
アネス:김보나(キム・ボナ)
マーク:이원준(イ・ウォンジュン)
ルネ:이서현(イ・ソヒョン)
この作品自体は上演歴が長くご覧になられた方も多いかと思いますが、わたくしは今回初めて縁がありまして観劇が叶いました。
一言で感想を言うと、
沼。
以上。
予想以上の沼作品でした。
これはあかん。個人的にはR&Jに次ぐ沼作品です。やばい。こんな作品が世の中に存在していたなんて、しかも今までこれを観たことがなかったなんて、わたくし人生どれだけ損してきたんだろうと思わざるをえません。
と、前置きが長くなってしまいました。
映画化もされており、史実を基に作られた作品なので今さらここであらすじを書くこともないかと思いますが、一応簡単に触れておくと、京劇舞台女優であるリリンとフランス人外交官ルネとの恋愛物語・・という単純なものではないんですね。ルネから情報を引き出すために彼に近づくリリンは実は男性スパイ。しかしその実態に気付かないルネ。二人の間に存在した感情・関係は一体何だったのか。
これが沼でないわけがないでしょう。キャストによってケミがめちゃくちゃ変わります。
冒頭に載せたキャスト以外にスビンさんルネ×パダさんリリンでも観たのですが、その二人の関係性は年齢的なものも影響していると思いますが、「西洋人」対「西洋人が作り出す東洋人」という政治的・社会的要素が濃く出たように思います。
(パダリリンからスビンルネへの直筆手紙)
「東洋人はこういうものだろう」、「東洋人はこうあるべきだ」と、西洋人であるルネの視点には完全にバイアスがかかった状態。そしてあえてその視点に応えるような「東洋の女性」を演じるリリン。
対してジェギュンさん×パダさん。
この2人は年齢が近い(2歳差)こともあってか、親密さがより感じられたペアでした。その理由は二人でのダンスシーン。どういうわけか、ただただ恋人同士として幸せにしか見えなかったんです。少なくともこのダンスの間だけは、二人の間に愛が存在していたとしか思えない。
また、ルネ役のスビンさんとジェギュンさんの決定的な違いとして、舞台後半、リリンが実は男性だと判明してからの反応です。スビンさんは「怒り」8割、「呆れ」2割ぐらいの感じで感情をぶちまけるのですが、ジェギュンさんはひたすら泣くというちょっと予想外の行動。この涙の意味は「悲しさ」だったのか「悔しさ」だったのか、それは分かりませんが、スビンさんに「悲しさ」という感情が見えなかったことは明らかです。
その後リリンが「自分のすべてを見せたい」と言ってスーツを脱ぎ始めるときに、スビンさんはリリンの行動をひたすら見つめますが、ジェギュンさんはリリンと対峙するまでひたすらリリンから逃げ回り目を逸らします。リリンが最後の下着をも脱いでしまう時にやっと目の前にいるリリンを見るジェギュンさん。
正直言って、この違いはめちゃくちゃ興味深かったです。できることなら他のリリンとのペアとも見比べたかったですし、何回でも観ていろいろ検証してみたかったです。
ところで、今回の演劇においてわたくしが何よりも大絶賛したのは、パダさんリリンです!これぞ真の役者、という演技ぶりを見せてくれました。以前からパダさんの演技は信頼していたのですが、今回の「M・バタフライ」でその信頼はより強固なものに。「リリン」という人物は生殖的には女性ではありません。ただ、「西洋人」から見たら「女性に見える」人物。その難しいラインを見事な仕草と演技で納得のリリンを見せてくれました。これは本当に素晴らしかった。しかもルネの前では時間が経つにつれより「女性らしく」なっていく面を見せつつ、特にスビンさんとの関係ではルネを手中で操るリリンというスパイとしての面も存分に見せてくれ、できることなら最前列でかぶりつきたかったほどです笑。やはり信頼に値するパダさん。パダさんリリンという理由だけで観に行った作品でしたが、大正解でした。
このM・バタフライという作品について語るには、「西洋」対「東洋」の政治的社会的問題、文化大革命など触れるべき点があまりにも多くなるので割愛しましたが、とても興味深い内容ですし、これからもブログ外で少しずつ勉強続けようと思います(今更)。
ちなみに史実のベルナール・プルシコ(左)と時佩璞(ジ ハイハク(右))↓