能面 | asaoka*room

asaoka*room

写真・家族・こころ・ごはん。

くだらない話から、深い話まで…
多彩なジャンルで色んなことを1人語りしています。


ふらっと現れふらっと消える。
気ままに更新。

こんな自由人ASAOKAのお部屋です。

怖い話ではありませんが、気分を害する恐れがある内容です。
毒親に関する話ですので、どうぞご注意下さい。










仕事中にあった出来事。

レジの仕事をしていると、どうしてもお客様の入り具合でレジの混雑が発生してしまう。
1人並ぶと、更に2人、3人と連続して並ばれることも。
この現象には一応、心理的根拠があるらしい。

それはさておいて。
その日の私は、新人の教育係だった。
新人というものは、経験者であるが故か、天才的能力を持たない限りはレジ打ちは遅い。
そして出来ないことのほうが格段に多い。
全ての操作や対応を机上学習で学んでから店に出る余裕があるかと言えば、そうではない。
なので、新人が入るレジには研修レジであることを示すプレートを出して、本人の胸元にも同じく研修生と書かれた名札をつける。

新人に付く教育係は、できるだけ手出しはしない。
すべて助けてしまうとその分だけ自立が遅れる。
人手不足で求人を出しているのだから早く一人前になってもらわないと困るのだ。

どうしても対処に困ったときや、かごの入れ方に問題があるときなんかに手や口を出す。
あとは混んでいるとき、かな。
それ以外のときは辛抱強く見ている。
点数に間違いがないか、ボタンの押し違いはないか、2度打ちしていないか、など。

正直、1人でレジを打ってたほうが気楽だったりする。
やはり見ているだけというのはもどかしいし、もともとせっかちな性分なので、ついついストレスを感じることもある。
教育係なんて名ばかりで貧乏籤だと思うのは私だけだろうか。


さて、そんな中、レジが混みあってきた。
そういうときは新人が打った商品を私が受け取ってかごに入れていく。
かご入れにも順序というものがあって、初めの慣れないうちはそれにすら時間が掛かるからだ。

『2人でそんなことしてねーでさっさとレジを開けりゃいいじゃないか』

ふと、顔を上げると小学生くらいの子を2人連れた女性がぶつぶつ言っていた。
私たちスタッフに言ってきたなら返事もするけれど、明らかに誰に言うでもない様子だったので無視した。

もう1台開けたいのはやまやまですが。
それがかなわないから、今一番早くレジを進められるように努力中です。
という言葉を噛み締めながら精一杯無視した。

『ばかじゃない?袋に入れてくれるならまだしも、かごに入れ直してなんの意味があるんだかね』

もう一度顔を上げると、隣にいた子供たちに向かって喋っていた。
2人とも小学生くらいで、母親の投げ掛けを肯定するわけでもなく否定するわけでもなく、ただ能面みたいな無表情な顔でそこに立っていた。

『お待たせ致しました、申し訳ありません』

会計を済ませてお釣を渡し、そういって送り出した。
その後、あの母親は八つ当たりかのようにかごを積んであるカートを思いきり蹴飛ばして帰って行った。

私はその子たちが気の毒になった。
顔を見たのはほんの少しの間だったけれど、無表情の中になんとなく翳りを見たからだ。
悲しみや切なさや恥ずかしさが混ざったような。
能に使われる能面というのは光の陰影や角度で色んな表情に見えるらしい。
あの子達の顔は、それに似たものがあったのかも知れない。

あんなまだ小さい子どもに自分のそんな姿を見せて恥ずかしくはないのだろうか?
店員目線と言うよりも、同じ母親目線で考えてみる。
きっと普段からあんな調子なのだろうな。
じゃなければ他人にああも攻撃的にはならない。
子どもたちも慣れた様子であった。
動揺するわけでもなく、ただそこに居るだけ。
肯定も否定もしない、ただそこに。

今後も続かなければいいな。
私には何もできないけれど・・・

こうして負の連鎖は続いていく。

子どもにどれだけの重荷を背負わせるんだろう。
母親の怒った顔、怒鳴り声、見たくない聞きたくない。
肯定すれば自分も悪者になり、否定すれば母親を否定することになる。
葛藤の繰り返し。


おそらくあの能面は
自己防衛みたいなものなんだろう。


わかる。
私も昔、そうだった。