カナダのブライアン・マルルーニ元首相(Brian Mulroney, 第24代首相, 在任:1984-1993)が亡くなったと、たった今ニュースで知りました。ご冥福をお祈りします。

 

私が見た朝日新聞デジタルの記事(「マルローニー元カナダ首相が死去。84歳 NAFTA 実現に尽力」)には、北米自由貿易協定(NAFTA)締結を含め米加関係の改善に寄与したことが書いてありますが、我々日本人としては、第二次大戦中の日系人の扱いについて、国として謝罪し補償を行なった当時の首相ということを覚えておきたいです。(ちなみに、アメリカ合衆国もレーガン大統領が同様の謝罪と補償をしました。)

 

マルルーニ首相の謝罪表明から、一部引用します:

 

半世紀近く前、戦時の危機の状態において、カナダ政府は、日本人を祖先とする多数のカナダ市民を不当にも拘留し、彼らの財産を奪い、公民権を剥奪しました。過去を変えることはできません。しかし、われわれは、国家として、これらの歴史的事実を認める勇気を持たなければなりません。今日、私はカナダ政府を代表して、包括的補償が合意に達したことを発表します。この補償のもっとも重要な点は、1940年代の誤りを正式に認めたことでしょう。しかし、補償は言葉と法以上のものでなければなりません。いかに多額のお金も、不正を正すことはできません。加えられた危害をもとに戻すことはできません。傷を癒すことはできません。しかし、この問題に取り組むことは、われわれの決意を象徴しているのです。道徳的な意味においてだけでなく、かたちとしてもです。戦時中の日系カナダ人の取り扱いは、道徳的にも法的にも正当化できないばかりでなく、この国の本質にもそぐわないものだったのです。(1988年9月22日)

 

下線を引いた部分は、原語ではこうです(Canadian Hansard Dataset):

 

We cannot change the past. But we must, as a nation, have the courage to face up to these historical facts.

 

真摯な、良い言葉だと思います。

 

*画像は Canadian Encyclopedia から。参考に、こちらの映像もご覧ください。


カナダは「多文化主義」(multiculturalism)を国是にしていると言って差し支えないですが、「多文化主義法」は同じ1988年に制定されています。これはもちろん日本人・日系人だけを対象としたものではないですが、第二次大戦中(そしてその後もずっと)、差別があったことを認め、それをただそうとしたということです。(もちろん、以前ご紹介したトーマス・キングの本などに見られる先住民の視点からは、こんなのぜんぜん不十分、ということになるのですが...:「Thomas King, The Inconveninet Indian」

 

第二次大戦当時、カナダにいた日本人・日系人のおよそ9割にあたる2万2000人ほどが太平洋岸にいて、彼らは財産を没収され、海岸から100マイル以上内陸に移動することを強いられ、強制収容所(internment camp)に入れられたり、特に男性は家族と離れて労働に従事させられたりしました。

 

これはカナダ海軍に没収された日系人漁師の漁船です(Discover Nikkeiより)。

 

 

日系人の収容所(internment camp, Discover Nikkei より)。

 

同じ敵国であってもイタリア系やドイツ系の人々はこういう扱いは受けなかったのですから、やはり人種差別があったのでしょう。

 

さて、この時の補償は個人と日系人コミュニティの双方に対して行われました。総額3億ドル(カナダドル)の補償のうち、当時存命の1万3000人には1人2万1000ドルが支払われ、同時に、1200万ドルの日系コミュニティ基金が創設され、加えて、人種問題に対する基金の創設にも2400万ドルが支払われました(CBC News [CBC Archives] の記事を参照しました)。私がかつて住んでいたバーナビー市(バンクーバーの隣の街)の Nikkei Place (Nikkei National Museum and Cultural Centre は、この基金によって建てられたものです。)

 

*写真は Nikkei Place の HP から拝借しました。

 

日系カナダ人の話題についてはこのブログでも何度か取り上げています。このテーマについて、私のオススメはなんと言っても新保満『石をもて追わるるごとく:日系カナダ人社会史』(御茶の水書房, 1996 [1975])です。ずいぶん前にも書いたのですが、ついでに再度ご紹介しておきます(ココ)。