この国の暗部は、世襲制によって形成されている。暗部とは、富の蓄積と集中による格差の発生であり、富が集中する世界内でアブクのように毎秒発生し続けている腐敗と犯罪、そしてその隠蔽行為を指す。

 2014年の発売当時は大ブームになったにも関わらず、今ではほとんど誰も言及しなくなったフランスの経済学者、トマ・ピケティ先生は『21世紀の資本』(みすず書房)で、次のような指摘をした。

 「資本収益率は経済利益率よりも大きい」、すなわち代々の世襲制によって蓄積されてきた資本が稼ぎ出す力は、身を粉にして働く労働者達(非資本家)が稼ぐ力よりも遥かに大きく、成長率が高い。

 その強大な力によって効率よく稼ぎ出される利潤が、世襲制によって資本に蓄積され続けた結果、世襲資本家(富裕層)と労働者の格差はますます拡大している。だから世界的な世襲資本家(富裕層)が決して逃れることができない世界的な累進課税を適用しないと、この格差は永遠になくならない、それがピケティ先生の指摘だった。

 しかし世襲制はピケティ先生の指摘を遥かに超え、富のみならず、没倫理性までも蓄積し、家族、相伝、伝統、保守という看板の下、何をやっても許される、何をやっても隠せるという傲慢さまでも蓄積してきた。

 重要なのは、政治、経済、文化など、あらゆる世界における世襲制を厳しくチェックし、そこに一方的に憧れたり(観賞、稽古)、依存する(投票、依頼)労働者(非資本家)こそが、資本、権力、知見と技術の集中を強化し、格差を生んでいる大きな原因のひとつなんだ、そのことを深く自覚し(つまりは富裕層も労働者も共に黒い欲望に取りつかれている)、行動することが肝要だと私は思う(お互い白い欲望で生きようよ)。