損小神無恒(以下、損):軽トラは日本の心である。軽トラには魂の浄化作用がある。
編集部(以下、編):確かにわかります。しかも、今回の「スーパーキャリイ」には自動ブレーキなどの安全装備が一通り揃っていて、エアコン、パワーウインドウも完備。クルマなんて、もう軽トラで十分ですね。
損:この大たわけ者め!
編:ええっ、何故ですか?
損:軽自動車規格は日本固有の規格である。こんな小さな規格の中で大手四社がつばぜり合っている国なんか他に無いだろう。
編:はい。
損:軽規格をさらに徹底すると軽トラが出来上がる。軽トラの荷台は「ハイラックス」や「トライトン」よりも長いといえば、その恐るべき空間設計が分かるであろう。
編:それは凄い。ピックアップトラックと軽トラって、ジャイアント馬場と池乃めだかくらいは違いますよね。
損:軽トラは世界的な流れとはまったく違うところにある。いわばペリーが来てない日本なのである。となれば、もはや軽トラは江戸時代のようなものだ。天然記念物だ。にもかかわらず、畏れ多くも「軽トラで十分」とは何事だ!恥を知れ、与太郎め!
編:それは言い過ぎなんじゃ…。日本固有なのは否定しませんけど、単に物を積むためだけのクルマですから…。
損:グローバル化は世界をひとまとめにしてしまったのだ。今やフランス車だから乗り心地がふわふわとは限らず、田舎だからといってビニ本が落ちているとは限らないだろう?
編:…。
損:けだし、軽トラだけは鎖国状態なのだ。軽トラはアウトバーンではなく、日本の極細農道にのみ特化したクルマだから。
編:なるほど。軽トラはヨソの国を無視した”純日本車”であるゆえに、我々の生活に最も与した日本車なんですね。
損:軽トラは日本のトゥインゴだと思う。だから私は軽トラが好きなのだ。
編:トゥインゴですか…。
損:第一次大戦前後はイスパノ・スイザみたいな超高級車も見られたが、やはりフランス車の歴史というと大衆車であろう。シトロ―エン・2CVやルノー・4のような、50~60年代の下駄車たちを忠実に蘇らせたのがトゥインゴである。これは日本でいうところの商用車だ。初めの頃の日本車は農家や商人などの事業者に支えられ、やがて自家用へと移ってきたのである。
編:そう考えると、ハイゼットも、キャリイも、かなりのロングセラーですもんね。
損:軽トラは地方に土着し、日本の経済成長を地道に支えてきた功労者である。そんな彼らを私は労わずにはいられない。そして今こそ私は問いたいのだ。今の日本車は、いったいどれだけ土着しているかと。
編:ここ数十年で自家用車は大きく姿を変えましたね。だけどその進歩は本当に我々にとって有用なのか?…なるほどねえ。
●巨匠、軽トラのリクライニングはアリやナシや。
編:そんでもってスーパーキャリイですが先生。
損:ウム、「普通の軽トラよりもちょっぴり広い」このジャンルはハイゼット・ジャンボが細々ながら奮闘してきたが、ついにスズキも参戦したということだ。中がちょっぴり広い分、ちょっぴり狭くなった荷台をどう考えるかだろう。
編:これくらいなら、僕ならリクライニングを取りますね。なんてったって眠れますから!
損:「眠り姫」ならぬ「眠り与太郎」だな。
編:「与」は余計ですよ!
損:荷台長が狭くならないように、キャビンの下の方には穴が空いている。こうしたニクイ工夫は今の日本車にはなかなか見られないものである。特にMAZDA車には。
編:ここに頭を突っ込んで眠れば、アイマスク代わりになりそう!
損:お主のでかい頭が入るかは知らぬが、是非やってみるとよい。
編:さすがに冗談ですけど…。でも軽トラって夢が広がるんですよね。何でもできそうなイメージが漠然とあるんですよ。
損:恐らく、そういうのもあっての「リミテッドX」なのだろう。今流行りのキャンプにも似合いそうな、若い衆向けのデザインをしておる。
編:キャンプかあ、いいなあ。
損:そういう外国文化は私は遠慮するが。ま、「軽トラ向上委員会」の委員としては、こうした啓蒙活動は大いに賛成だ。
編:いつかまた、MAZDAが軽トラを作ってくれればいいですね!
損:まったくだ。その暁には、荷台で月見酒と洒落込もうではないか。
↑しかしながら減点1。こいつは四駆だが切り替えがスイッチ式だ。ここは大仰なトランスファー・レヴァで男らしくいきたいものじゃないか。そして減点2。ダッシュ(特に空調口)が丸っこくて女々しい。いやしくも「菅原文太のキャリイ」であるならば、もっと一番星していてほしいものである。