ヴェロッキオの「キリストの洗礼」に描かれたナツメヤシ!
ナツメヤシは、旧約聖書のエデンの園の「生命の樹」のモデルとされているそうです。
「生命の樹」のモデルと伝えられている通り、フラ・アンジェリコの受胎告知の1枚に、エデンの園を追放されるアダムとエバの背後にナツメヤシが描かれていました。
またナツメヤシの学名はPhoenix(フェニックス/不死鳥)がつきます。
フェニックスといえば、ハリーポッターでも登場していましたね。
ウィキ○○ィアからの情報ですが、フェニックスは死期を迎えると自ら炎に飛び込んで死ぬ、再生して永遠の時を生きるという伝説上の鳥で、キリスト教徒はこの鳥を再生のシンボルとみなしたとか。また8世紀に作られた詩「フェニックス」では、フェニックスの復活とキリストの復活と関連づけられているそうです。
そこで、イエスの復活に関する絵画を探してみましたら、
さきほどのフラ・アンジェリコの作品に、またまたナツメヤシがありましたよ!
左端の木がナツメヤシですね。
こちら、「復活」かと思ったら、タイトルが「Entombment」で「埋葬」でしたね。
今度こそ、「Resurrection(復活)」です。
ナツメヤシの幹はゴツゴツとした感じの特徴があります。
こちらは復活後のイエスとマグダラの場面で「我に触れるな」。
中央にあるのがナツメヤシですね。
こちらは同じテーマで、ヴェロッキオ工房のペルジーノの作品。木の幹の感じから右側の木がナツメヤシと思われます。
ヴェロッキオ工房のギルランダイオの作品。こちらは聖母マリアの被昇天のテーマ。
右から4番目の人物が持っている木の棒は、葉っぱの感じからナツメヤシだと思うのですが・・・なんでこの人の棒だけが葉っぱ付きなのか判りません。
これらイエスの復活・我に触れるな・聖母マリアの被昇天も、多くの画家で様々な作品がありますので実際は、ナツメヤシが描かれていないものの方が断然多いです。
ただ、ヴェロッキオ工房にいたペルジーノ、ギルランダイオの作品の一部に、復活のテーマにナツメヤシが描かれています。
ナツメヤシが復活を象徴する木だということは、ヴェロッキオ工房の彼らは知っていたのです。
・・・なんと、
ヴェロッキオの彫刻「キリストの復活」に、
ナツメヤシがありました!
次に、ヴェロッキオ工房の「キリストの洗礼」が描かれた1472年以前の「キリストの洗礼」を紹介します。
こちらは天使の上に、イエスの方を向く鳥が描かれています。
トレノヴァンニ以外は、鳥は「白いハト」のみです。
左右に二本の木があるものは、エデンの園の「生命の樹」「善悪を知る樹」を想起させますが・・・ナツメヤシではありません。
ちなみに1472年以降の「キリストの洗礼」はどうでしょう?
どこかに鳥が一羽ぐらいてもよさそうですが・・・白いハト以外、見当たりません。
右奥の木はナツメヤシかも
洗礼者ヨハネの足元にイエスの方を向く鳥がいます。
こちらの右奥の木はナツメヤシでしょう。
上2点は、ヴェロッキオ工房の「キリストの洗礼」の影響を受けたかと推測します。
当方が調べた限りでは、「キリストの洗礼」の作品に、明らかにナツメヤシを描いたのは、ヴェロッキオ工房が最初であります。
また白いハト以外の鳥がいるのも2作品ありましたが、その鳥はいずれもイエスの方を向いています。
しかしヴェロッキオ工房の左右の二羽の鳥は、それぞれ外側を向いており、中央のイエスとは別な空気感に見えるのです。
聖書のエルサレム入城の場面に記述があるナツメヤシ。
エデンの園の「生命の樹」のモデルでもあり、復活を象徴する木でもあるナツメヤシを、この「キリストの洗礼」のテーマの作品に何故描いたのか?
また、白いハト以外の鳥を左右に二羽描いたのは何故か?
①キリストの洗礼→②エルサレム入城→③十字架→②復活
やはり、ヴェロッキオ工房の「キリストの洗礼」は
三羽の鳥にイエスを象徴させ、
イエスの生涯を異時同図にさせている!
・・・との解釈にいたるのです。
普通に見れば、「キリストの洗礼」の絵です。
それを、単なる「同一人物」を複数描くだけの異時同図ではなく、別のものに置き換えてイエスの生涯を異時同図にさせるといった奇策は、とてもヴェロッキオ主導によるものと思えません。
ナツメヤシ、左右の二羽の鳥も描いたのは、工房内の他の弟子かもしれませんが、そこにそれらを描くように仕向けたのは、ヴェロッキオでも若いダヴィンチでもなく、右側の天使を描いたボッティチェリ主導によるものでしょう。
何故、ボッティチェリ主導によるものと推定したかについては、彼の他の作品にも通じるものがあるからなのですが、それはまた追々で。
次回は、「受胎告知」の予定ですが、今後ちょっと更新のペースは遅くなりますよ。