ご訪問くださり、本当にありがとうございます。


霊や生命について書かれています。


ですから、興味がわかなかったり、読んでいて不愉快になられるのなら、迷わずにスルーされて下さいね。


あなたの大切なお時間を無駄にしたくありません。

 

 

所要時間=6~8分程 です。

ご関心があればお時間のある時にでも、ゆっくりとお読みになられて下さい。

 

 

 

新樹の通信
 

3.幽界人の富士登山 (その2)

 

 

 

 

 

(上記の続きです)


《  》 内は私が追記しました。

原著の体裁を変更しています。

 

 

 

仕度もすっかり整いましたので、いよいよ出発と言っても、そこは現世のような、面倒臭い出発ではありません。


ただ心で、何処(どこ)と目標さえつければ、すぐにそこへ行っているのだから、世話はありません。

 

僕たちの選んだのは、例の吉田口で、ちょっと現界の方をのぞいて見ると、北口とか、何とか刻みつけた石標があったようでした。


その辺りは、人間の登山者もたくさん居り、中には洋服姿の人も見受けました。


僕は守護霊さんに、それを指摘しながら、


「御覧なさい、近頃の登山者はこんな格好なのです。僕ばかりが仲間外れになってはしません・・・。」


「なるほどナ」と守護霊さんも非常に感心して


「近頃洋服が流行ると承っていたが、ここまでとは思わなかった。これも時勢で致し方あるまい。」

 


どうせ人間の方から、僕たちの姿は見えはしないのだから、どこを通っても差し支えはないはずですが、


しかし人間と一緒では、何やら具合がわるいので、

 

僕たちは普通の登山路とは少しかけ離れた、道なき道をグングン登って行きました。


そこは随分ひどい所で、肉体があってはとても登れはしませんが、

 

僕たちはいわば顕幽の境を縫って行くのですから、

 

何やら地べたを踏んでいるようでもあり、また空を歩いているようでもあり、

 

格別骨も折れないのです。


その感じは一種特別で、こればかりは、ちょっと形容ができません。


まあ、夢の中の感じ・・・ざっとそう思っていただけばよろしいでしょう。


なに?金剛杖ですか?・・・やはり突きましたよ。


突く必要はないかもしれないが、しかし突いた方が、やはり具合が良いように思われるのです・・・。

 

しばらく登ると、そこに一つのお宮がありました。


もちろんそれは幽界のお宮で、つまり現界のお宮の、一つの奥の院と思えば良い訳です。


そこには男の龍神さんが鎮まっておられましたので、

 

僕たちは型のごとく柏手(かしわで)を打って、祝詞(のりと)を上げ、


「無事頂上まで参拝させていただきます・・・。」


とお祈りしました。


万事現世で行るのと何の相違もありません。

 

それから先は一層ひどい深山で、大木が森々と茂っており、いろいろの鳥が囀っていました。


ナニそれは現界の鳥かと仰るが、そうではありません。


すべてがみな幽界のものです。


僕たちには現界の方は、たまにチラリと見えるだけで、普通はこちらの世界《=幽界》しか見えません。


ですから、鳥の鳴き声だって、現界では聞いたことのないのが混じっています。


顕と幽とは、言わば即(つ)かず離れず、

 

類似の点があるかと思えば、また大変相違しているところもあり、

 

僕たちにも、その相互関係がよく判りません。

 

うっかりしたことを言うと、飛んだ間違いをしますから、僕はただ実地に見聞しただけを申し上げます。


理屈の方は、どうぞ学問のある方々が、よくお考えください。

 

 

やがてある地点に達しますと、そこには、ごく粗末な宮らしいものが建っていました。


それがどうやら、山の天狗さんの住居らしいので、守護霊さんと相談の上で、一つ訪問する事にしました。


僕はお宮の前に立って柏手(かしわで)を打って、


「こちらは富士の御山に棲われる、天狗さんのお住居ではありませぬか?」


と聞いてみたのです。


が、内部(なか)はひっそり閑として、何の音沙汰もない。


「ハテこれは違ったかしら・・・。」

 

僕たちが小声でそんなことを言っていると、にわかに先方の方でとてつもない大きな音がする。


何かと思って、びっくりして顔を見合わせている間に、いつどこをどう入ったものか、

 

お宮の内部(なか)には、何やらガサコソと人の気配がします。

 

「やはり天狗さんが戻って来たのだナ。今の大きな物音も、たしかにこの天狗さんが立てたに相違ない・・・。」

 

僕はそんなことを思いながら、そっと内部(なか)をのぞいてみると、

 

果たして一人の白ひげを生やした、立派な天狗さんが、堂々と坐り込んでいました。


その服装ですか?

 

衣服は赤煉瓦(あかれんが)色で、それに紫の紐がついており、下には袴のようなものをはいていました。


言うまでもなく、手には羽団扇(はうちわ)を持っていました。

 

僕たちは扉を開けて、丁寧に挨拶を述べましたが、あちらは案外やさしい天狗さんで、


「まあ上がれ!」

 

というのでした。


「イヤただご挨拶だけさせていただきます。先刻はお不在のように拝見しましたが・・・。」

 

<天狗さん>

俺(わし)は宮の内部(なか)にばかり引き籠もってはいない。

ある時は樹木のてっぺんに居たり、

またある時はお山の頂上まで行ったり、

これでなかなか忙しいのじゃ。

 

<新樹>
この宮にはたった一人でお住まいですか?

 

<天狗さん>
イヤ、眷族(けんぞく)が大勢いる。

俺(わし)が一つ口笛を吹けば、皆一散に集まって来る。

 

<新樹>
そんな光景を、一度拝見させていただくと、大変に結構だと思いますが。

 

<天狗さん>
それはちょっと出来ん。

皆用事を帯びて他所(よそ)に出ているからナ。


天狗さんは、口笛だけはどうしても吹いてくれませんでした。

 

そこで僕は話題をかえて、

 

<新樹>
あなた方から御覧になると、一体僕たちは何者に見えますか?

 

 

天狗さんは、最初僕たち二人を、普通の人間かと思ったらしく、しきりにジロジロ見ていました。


僕の方でも、なるべくそう思わせるように努め、さも現世人らしく振舞いました。


が、そこはさすがに功労経た天狗さんだけあって、一種の術を心得ており、

 

さかんに九字を切って、何やら神様に伺いを立てている様子でした。


やがてヅカヅカと僕たちの方に近寄り、

 

まず守護霊さんの両手をつかんで、ぐっと引き寄せ、

 

下から上へと身体中を撫でました。


続いて僕の事もそうして見て、何やらにたッと笑いました。

 

 

<新樹>

いかがですか、僕たちの正体が判りましたか?

 

<天狗さん>

イヤ神様に伺ってよく判った。

あなた方は、やはり幽界のもので、修行も相当できているが、

今回見学のために、わざわざ、身体を造って、富士登山をしたものじゃそうナ。

俺(わし)も最初から、どうも様子が変だとは思っていた。

何やら妙に親しみがあって、威張りたいにも威張れなかった。

地上の人間なら、一つ大いにおどかしてやるところなのじゃがナ。アハ・・・。

 

<新樹>

どうぞお手柔らかに・・・。

実は僕たちは、これでも少しは天狗界の事情を知っており、

ずいぶん不思議な術を見せてもらったこともあります。

 

<天狗さん>

ああ左様か。

俺(わし)にも術があるのだが、この山では禁じられているから駄目じゃ。

 


天狗さんは、よほど僕たちに対して好奇心を起こしたらしく、

 

しきりに根掘り、葉掘り、僕たちの身元調べをしました。

 

別に隠す必要もないので、僕たちも経歴の概略(あらまし)を物語り、

 

二人とも普通に趣味をもっていることを話すと、

 

天狗さん、ますます乗り気になりました。

 

 

<天狗さん>

是非あなたの笛をきかせてもらいたい。俺(わし)は笛が大好きじゃ。

 

 

<新樹の守護霊さん>

無償(ただ)ではこの笛は吹けません。


と僕の守護霊さんも、そこはなかなか如才がありません。

 

<新樹の守護霊さん>

あなたが口笛を吹いて下さるなら、私も笛を吹きましょう。

 

<天狗さん>
こりゃ困った。

今、口笛を吹く訳には行かぬ。

ではあなた方の帰り道に、また立ち寄ってください。

その時に大いに口笛を吹いて、眷族(けんぞく)を集めてお目にかけるから。

 

 

 

とうとう笛も口笛もお流れになってしまいました。


帰りにも別の道を通ったので、従ってこの天狗さんとも逢わず、

 

今もってこの話しはそのままになっております。


そのうち機会があったら、わざわざ出掛けて行っても良いと思っております。


概して天狗というものは、気持ちがさっぱりしていて、そして案外に無邪気で、

 

こちらがその気分を飲み込んで交際しさえすれば、すこぶる與(くみ)し易いところがあるようです。


天狗と人間との交渉は、相当密接なようですから。

 

今後もせいぜい気をつけて報告することにしましょう。

 

 

 

(3.幽界人の富士登山 (その3)へ続きます)

 

 

 

ここまでお読み下さり、本当にありがとうございました