理髪店 | 曽爾村民による曽爾村の日常

曽爾村民による曽爾村の日常

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曽爾村民と名乗っていますが、仕事の都合であまり曽爾村について書く暇がありません。たまに書きます。
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子供の頃、よく通っていた(通わされていた)理髪店があった。

その理髪店は、僕の家から車で30分かかり、県外まで通っていた(通わされていた)。

家族の都合でもあったし、同級生のお母様がそこで働いておられたからだ。

 

店の前には例の赤や青や白がぐるぐる周り続けている看板が置いてあって

お店の壁には、ジャンルでいったら刃物に分類されかねないほどの鋭利な7・3分けをしたカットモデルの白黒ブロマイドがたくさん貼られている。

そこの理髪店は、駅近でありなが、こじんまりとしており、そしてあったかいおしぼりを運んだり床にたまった髪をわしゃわしゃとほうきで掃いていくのも、手の空いたスタッフが行っており、どこにでもあるいわゆる「町の理髪店」であった。

話しやすい雰囲気であるし、子供であった僕には優しく接してくれていたが、僕はこの理髪店があまり好きでは無かった。

 

店の待合スペースに置いてある漫画のラインナップが大人向けすぎること。

本棚の半分を占拠しているゴルゴ13であった。

今でこそ面白さはわかるのだが、僕の子供時代はジャンプ黄金期。

悟空や星矢やケンシロウ達が友情を繋ぎ努力を重ね正義を輝かせ一度見たら真似をせずにはいられないような派手な技で悪と戦っていく裏で、チャンピオンなどの「本気(マジ)」が少年誌には珍しいほどの本格的な極道の世界を描いて同誌の看板をはっていた。

 

子供にとってこれは大きな問題であった。

しかし漫画ごときで、理髪店を変えるわけにはいかず、「おっちゃん、なんか僕らが読めるような本も置いてよ」と一度だけ店の主人に直訴したことがあった。

その次の月、待合室の本棚には絵本の「かちかち山」が置かれてあった。

子供ながらの僕の怒りはたぬきの背中でごうごうと燃える薪木の如く燃え上がった。

なので、家族に思い切って家族に、

「なあなあ、今度髪切る時ちょっと店変えてもええか?」

「なんでやの?」

漫画のラインナップに不満があるなんて本当の理由は言えるわけもなく

「なんかこう、違うとこで切ったらどうなんのか思って・・・」

「一緒やろ、どうせ同じ髪型にするんやから」

「い、一緒やったらもっと安いとこのほうがええんちゃうか?」

「あかん。ずっとあそこにお世話になってるんやから。だいたいそんな安い店なんてどこにあんのや」

「ほな探して安いとこ見つけたらそこで髪きってもええか?」

「しつこいな、あかんて」

交渉は不成立に終わったにも関わらず僕は次の日、学校でクラスのみんなの通っている理髪店をリサーチし、その日の夜に家族に60分に及ぶ再交渉をした。

「ほな一回だけ行ってみいや。お釣りはちゃんと返しや」

あまりのしつこさとプレゼン熱に負けて家族は観念してくれた。

 

休みの日、家族と共に、そこの理髪店へ向かった。

すると、本棚のラインナップが全く違う。

噂のDr.スランプアラレちゃんはもちろん『リングにかけろ』など僕らより上の世代の名作まで取り揃えているという想像以上の充実っぷり。

年季の入ったソファが置かれた待合スペースには僕の前に三人の子供が待っていた。

「ちょっと待つことになるけどかまへんか?」

野球小僧の頭をバリカンで軽快に刈りながら店主のおじさんが僕に声をかけた。

「いつまででも待ちます。いや待たせてください。閉店までいさせてください」

そんな心境を隠しながら僕は小さくうなづいてDr.スランプの一巻に手を伸ばした。

しかし夢中になると時間は早く過ぎ去ってしまうもの。

「はーい、じゃあ君の番やしこっちおいでー」

体感では10分ほどだったが時計を見るとしっかり一時間以上が経過していた。

アラレちゃんとの付き合いもここまでか、、

心残り丸出しのさみしげな表情を浮かべコミックを本棚に戻そうとすると店主が言った。

「そんなに読みたいんならこっちで切られながら読んだらええで」

この人は神か。

こんなに子供心をわかってくれる大人がいるのか。

僕は眩しいほどの笑顔を見せてこの神に自分の髪を預けることにした。

再びアラレちゃんに夢中になること30分。

顔をあげるとぼさっとしていた髪がキレイにまとまっていた。

「もうすぐ仕上げるわな」

店主のその言葉がさみしかった。

「生えろ生えろ!ここからまた髪の毛ぼさっと生えろ!」

本気でそう思った。

その時であった。

ぢょきん

店主が僕のすらっとのびていた右のもみあげをハサミで一刀両断した。

何が起こったかわからず唖然とする僕。

仕上げ

これがこの店主の仕上げだった。

最後にもみあげをぢょきんと切って終わるらしい。

驚いた表情のまま固まってしまった僕。

その顔を見た店主は「あれ?やっちゃったかな」と瞬時に察知したのだろう

苦し紛れな一言を僕にかけた。

「ひ、ひ、左のもみあげはどうする?」

右を切り落としておいてのこの確認。

それでも僕はなぜかこれ以上のダメージを受けまいと

「の、残しといてください」

と消えいるような声で返事した。

出来上がったのは左だけもみあげがのびた時代を先取りしすぎのアシンメトリーヘアー。

真っ赤な顔をして、車で待つ家族の元に戻れば、ひとしきり笑われた後やはりしっかりと怒られそのままいつもの理髪店に連れて行かれた。

「ここでしか髪切ったらあかんてわかったやろ」

威圧感たっぷりにそう言う母親の横で、僕は悔し涙を流しながらかちかち山を読んだのであった。