夕方

「明日訪問診療開始していただけないか」

とがん拠点病院から

乳がんの患者さんの紹介がありました


医師によってはこういう介入を嫌います

やはり時間的にも余裕をもち

互いに情報共有してから臨む


もちろんこれが理想です



翌日の訪問スケジュールに組み込み

その日のうちに情報を確認し

準備をしました


その予定を待たず状態が悪化し

緊急訪問となりました


はじめましてのご挨拶から看取りまで

2時間ありませんでした


拠点病院のがん専門看護師さんや

緩和ケア認定看護師さんから

自宅看取り希望

ご主人がとても不安

とお話を伺っていました


夜間に具合が悪くなっていたそうで

その間、朝まで

ご主人がお一人でどんな思いで過ごされたか

それを思うと•••


背中をさすりながら

患者さんの状態を説明しました


せん妄で呼吸状態も変化しており

お別れが近いことも

そのままお伝えしました


県外のご家族が向かっているとのことでしたが

到着まで数時間かかります

それまでご主人はお一人です


もともと不安だったのに

この様な状況になり

戸惑うのは当然です


でも救急車を呼ばす

お一人で朝まで待ち

訪問看護師さんへ連絡されました


訪問看護師さんも

私たち訪問診療も

その日のお昼頃が初訪問予定でした



「救急車も考えました

でも会えない病院はいやだったんです」

ご主人の思いです



これまで16年間

乳がんの治療をいろいろされてきたので

そのお話を伺いながら


お子さんたちとのお話


ご夫婦のお話


お話の途中

患者さんが体制を変えたいとおっしゃったので

ご主人にもたれかかり

抱き抱えてもらうかたちで座っていただきました


呼吸がさらに変わってきたので

向かっているご家族と

ビデオ通話していただき

患者さんと対面し

お声を届けていただきました



ありがとう

ありがとうね

もうすぐ着くよ



患者さんは目を開けることができません

でも唇はうごいていました



その後

ご主人の腕の中で

息を引き取りました



ご家族の到着はその後でしたが

みなさんでしっかりお別れをして


旅立ちの装いは

娘さんの結婚式に着る為に購入した

すてきなワンピースになりました


ぎりぎりで

みんな初対面の在宅チームでしたが

とても素敵な時間でした



長く治療され

つらいこともたくさんあったと伺いました

それでも

子供さんや

将来産まれてくるお孫さんの成長をみたい

そんな希望が

患者さんの支えだったのだと感じました



数時間でも

出会えて

関わらせていただけて


よかったです