なんとも言えない

心細さの中にいる。

 

自分の一部が

欠けてしまったような。

 

所在ないような。

ずっと一緒だった彼が

たくさんの思い出を

共有して来た彼が

 

突然音信不通になった。

 

そして一日のうちに何度も

何度も

 

彼の不在を思わずに

おれない自分を

眺めている。

 

タクシーを降りるとき

 

素敵な風景を見たとき

 

コンビニでちょっとした

ものを買うとき

 

今のように

ラグジュアリーホテルで

朝食が目の前に現れたとき

 

ふと、何時かな

と思うとき

 

「あ、そうだ。

今、彼は音信不通なのだ」

 

と言うことに気づく。

 

そのことを悲しい

と言う気持ちはまだ

生まれて来ていない。

 

ただ、いかに

彼に依存していたのか

と言うことを

 

これまでより

深く自覚して

ため息をつく。

 

ああ、あの日

あの時、

 

いや普段から、

 

もう少し彼を

大事にしていれば。

 

こんなことには

ならなかっただろう。

 

「全部私が悪い」

 

そんな風に

自分を責める気持ちが

湧いて来る。

 

同時に

 

「これもまた運命」

 

と受け入れる気持ちが

現れる。

 

なぜそれが起きたか

なぜそうなってしまったか

 

原因は私が作った

とは言え

 

それは一つの

視点での原因に過ぎず

 

もっと視点を上げてみれば

全てはただただ

大いなる流れの中にある

 

と言う普遍的な

真実へと辿り着く。

 

でも私の心は

その境地には達しておらず、

 

まだまだ自分を

説得している状態だ。

 

ただ一つ言えることは

 

「自分を責めること」

 

それだけは止めようと

決める。

 

決めた。

 

それでももしかしたら

後悔の念は今日も

何度か湧いて来るかも

知れない。

 

それに気づくたびに

私は、自分を許し

 

ただただ大いなる流れの

中にある自分を

思い出すだけなのだ。

 

しかし!

 

ここで終わりとは

限らない。

 

まだ修復は可能かも

知れない。

 

私はMacBook Airを

立ち上げ

 

銀座で午後二時と

修復の天才の

アポを取る。

 

彼らにかかれば

この砕け散った関係も

平和な結末を

迎えるかも知れないのだ!

 

とは言え

現在の状況を

冷静に、

 

曇りなく見つめると

その可能性は限りなく

低い。

 

でもやるんだよ。

 

銀座昼の二時。

 

待ち合わせのレストランは

もう潰れてなかった。

 

(レストランで待ち合わせするなら

予約してよね、あなた)

 

ではなくて

銀座昼の二時。

 

私はほんの少ししかない

修復の可能性にかけて

祈るような気持ちで

その場所へと向かう。

 

🌟

 

思えばその日

彼に対しての不満を

口に出してしまったことも

原因かも知れない。

 

私は記憶を辿る。

 

私は彼に似合う

アウターを探し

とあるハイブランド店を

訪ねた。

 

そして思った通り

すでに彼に合うサイズは

何一つ

残っていないと言う

 

残酷な真実を突きつけられる。

 

少し時期をずらせば

新しい彼と出会えたのに

慌てて古いタイプを選んで

しまった自分を

 

頭の片隅で

不満に思っていた。

 

それが意識の世界で

彼に伝わってしまったのだろう。

 

とある百貨店にあるその

店から帰るエスカレーターの中

 

ふと思い出し

ボディバッグの中から

彼を取り出す。

 

次の瞬間彼は

私の右手を伝って

するりと滑り

 

「カツーン」

 

と言う鋭い音を立て

金属の階段へと落ちた。

 

次の階、

エスカレーターの終わりは

目の前に迫っている。

 

私は慌てて

エスカレターを一段降り

しゃがんで彼を

拾い上げる。

 

彼の顔面が割れ

隅からぐしゃっと

ひび割れている。

 

ああ!

 

私は拾い上げた

彼を手のひらで

大事に撫で

 

フィルムを外し

割れたガラスの

ザラザラを感じながら

 

指でこすってみるが

反応しない。

 

エスカレーターを降り

一度電源を切って

もう一度試してみるが

 

やっぱり反応しない。

 

もう、さよならなの?

もしかして、もう?

 

2017年ハワイ島で

落馬骨折時の

橈骨神経麻痺の後遺症で

日頃から

 

モノを落としやすくなっている。

 

彼のことももう

何度も落として来た。

 

それでも彼は

ビクともせずに

私のそばにいてくれた。

 

彼はいつだって

私のそばにいてくれる。

 

この幸せは永遠に

続くのだ。

 

浅はかな私は

そう信じ

 

彼との思い出を

クラウド上にあげようと

しなかった。

 

毎月支払いを

しているにも関わらず。

 

「そみのバカバカ!」

 

責める気持ちが

再び湧き上がるが

 

「自分を責めない」

 

誓った言葉を

思い出しキャンセルする。

 

ああ、もう

お気付きであろうか?

 

音信不通の私の彼は

iPhone11pro maxくん。

 

ひび割れた画面を

指でなでながら

私は銀座での約束を待つ。

 

そう。

 

祈るような気持ちで。

 

🌟

 

 

 

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