時間など存在しないその場所で

20代の頃から
会うととりあえず
挨拶のように

口説いてくる男たち
というのがいる

彼女がいようが
結婚しようが
子供ができようが

こちらのパートナーが
彼らの友達だろうが

お構いなしに
口説いてくる

風神雷神の見守る
赤い内装の地下の飲み屋で

誰かのライブの打ち上げで

ファッションショーの後の
パーティーの人混みの中で

やがてそれは仲間の通夜や
葬式となった

私たちはみな白髪頭となり
心も体も緩くなり

それでも彼らは
その定番の挨拶を
休むことなく

私を見つけるやいなや
腰に手を回しては

相変わらずいい女だな
などと耳元で囁くのだ

昔は日常だった
その風景と感覚が
今によみがえり

私はその瞬間だけ

かつては
最大の売りだった

雌

であることへと
戻り

受容と拒絶の
誘惑のダンスと

決してくることない
未来の逢瀬の予感を
楽しむ

そして
戦力外通知はおろか
とっくに現役を
退いたと言うのに

今だスタープレイヤー
かのような
気分にさせてくれる

彼らに密かに感謝する

そしてそんな男たちも1人
また1人

享楽のツケが
回ったかのように
平均寿命のずっと前に
この世から消えていく

きっと彼らはあの世で
再び出会っても

その定番の挨拶を
止める事はないだろう

そして今度こそは
体のないままに
夜通し愛し合うのかも
知れない

時間など存在
しないその場所で