昨日、下職の糸目屋さんへ行ってきました。
糸目というのは手描友禅の最も大切な基本仕事。
柿渋を塗り重ねた三角錐の和紙にシャープペンシルの先に似た金具を先に取り付け、ケーキのクリームの様に絞り出して線を描き上げる仕事。
糸の様に細く滑らかに描き上げるので糸目と言います。
日本の染の原点「筒描き」の最も繊細な進化形態です。

可成りの長期間京都市の依頼で西陣会館で糸目の実演を公開していたのです。
工房依頼の仕事は西陣会館から帰っての夜なべ仕事。
糸目そのものは夜なべ仕事であらかた出来ていたのですが、染に行く為の糊伏せは日中でしか出来ません。

その糊伏せの写真を撮ってきたのでご覧下さい。
あまり見る機会は無い珍しいシーンだと思います。
染屋の独り言Ⅱ-糊伏せ1
柄は総柄御所解の手描友禅の小紋。
これだけ重い小紋も珍品と言えます。
糸目だけで上げる部分が多いので、糸目には太細のメリハリをつけて素描風に描き込んでいます。

先ず、写真の左上は「太鼓」と呼ぶ道具でこの生地は滑らかに机の下に回り込みます。
糊が乾くには可成りの時間が掛かるので触れるものが絶対無い様に。
右上に鍋が電気コンロの上に乗っていますが、これは糊を湯煎する為。

高い濃度の糊は防染力が強いのですが、その分硬め。
湯煎する事で柔らかくなり暖かいうちに伏せると仕事がはかどり、良い糊で伏せられるという訳。

伏せた部分の拡大。
染屋の独り言Ⅱ-糊伏せ2
手前の撫子は伏せた部分が濃いでしょう。
これは糊の上に木の粉つまり「引粉ひっこ」をまぶしてあるからです。
引粉は製材でのこぎりを引いた時に出る木の粉。

これを被せる事で糊の打ち合いを防ぎ、乾燥しすぎない様にするのです。
製材で出るので時々ノコギリの破片が混ざる事があります。
つまり鉄の粉。
薄色だと錆の赤い色がでる事も。
これを染料と間違えて地直しするとその薬品で一瞬にして穴が開いてしまいます。
昔はこの糊伏せを専門にする職人さんが沢山居たのですが、今は消滅、糸目屋さんが兼務しています。

この着物は薄い藤色に染まります。