大層なタイトルですが、呉服業界を通じて考えてみたいと思います。

先ずは離れた場所からの事実を。
化学薬品の販売を手がけている友人が居ます。
彼は中国等への輸出も手がけているのですが、薬九層倍と言われる程売れれば無茶に儲かる商売です。
事実金の使い道が分からんという程儲けています。

雇っている社員は全て年金生活者、十万を越えて給料を支払うと年金が減るので沢山給料を渡す必要がないとか。
月に一回食い放題の焼肉に連れて行くだけで満足してくれると彼は言います。

呉服業界でもこれに似た事が起きています。
先ず、白生地。
日本で一番の産地は特出していて丹後地方。
元々白生地に携わる人の給料は室町問屋からすると三分の二程度の薄給でした。
その為次の世代を担う若者がなかなか増えなかったのに合わせて需要の低迷がずっと続いたのです。
当然、若年層からは敬遠、機織り職人は高齢化の一途をたどる事に。
そして丹後の機織り職人は殆どが年金生活者になりました。
機織りの工賃は年金の足しになれば良いという設定が通例になってしまったのです。

これはおかしい、間違っていると思います。
若年層が通常に工賃を頂いた価格の白生地でないと明日に繋がらないという事です。
現在仕入れている白生地は三十年前より安価。
結構な事には違いありませんが、この年金生活工賃によって支えられている以上未来は暗澹たるものと言えます。

襦袢等の裏物は外地産が結構な割合を占めていますが、これも国内の高い工賃を嫌ってのもの。
国内では生産が不可能になったものまであります。
中国のインフレと円安で丹後の産地より高価になったものが現れ、裏もの屋さんは高騰と品不足で今や死活問題にまで。
中国では丹後が何故そこまで安く出来るのか不思議だと。

染の世界でも同じ事があります。
ローケツの一種に「ダンマル描き」というものがあるのですが、この技法は結構年期を経ないと習得できません。
その上手に年金生活者が居られるのです。
彼は杖をつかないと歩けない程の弱者ではあるのですが、腕はなまっていません。
その為、問屋さんからはそれなりに仕事が出ているのですが、工賃が驚きの安さ。
普通に生活する人では不可能な程。
それは年金生活者だから。
生活の足しになればという価格だそうです。
それはそれで問題ないとは思うのですが、若年層の進出を妨げているのも事実なのでは。

高齢化の進む呉服業界、それも生産現場。
この問題は避けて通れません。

私には解決の方法は分かりませんが、あなたならどう思いますか?