白生地は昨年初春で既に高騰していました。
白生地は生糸1キロで織られると、練り上がりの重さは750グラム程度になります。
軽めの古代縮緬がそれに相当、一般的な丹後縮緬の紋意匠700グラム強の反物ですと950グラムの生糸を使って織られます。
三年程前まではこの生糸の価格はキロ三千円で安定していましたが、二年半程前から上昇、不況もあって価格に反映される事はありませんでした。
ところがその後急上昇、倍のキロ六千円に。
原価の上がった分三千円が白生地の価格に上乗せされました。
常に生産を続けてい定番の生地はキッチリ上乗せされました。
これは製造現場の話で小売屋さんなどの前線では違っていると思います。
上がったのは中国のインフレに寄るものが一番なんですが、好景気によって養蚕農家が転職を始めたのが最も大きな原因だと言われています。
尤も価格の高騰を聞いて復帰した農家もあるそうですが。
蚕は少しの農薬も嫌うのでその意味では桑畑付近の安全性は高いので良い事も多いのです。

工房でも昨年初頭に白生地価格を三千円上げました。
その後も徐々に生糸は上がり続けているのですが、円高でその上昇は少なめに押さえられてきました。
そこに、今回の円安。
押さえていた堤が途切れた様に生地が高騰を再開し始めたのです。
お金のある白生地問屋や製造卸問屋が買い漁りや売り惜しみをしているようです。
下がる要因が全く無い白生地を備蓄する事で利益を得ようと言うもの。
その為に売れていない筈の白生地が生産の低下と相俟って不足気味に。

取引のある裏物屋さんも「どうなるか訳がわからん」と嘆く事しきり。
中国で織られている白生地はもう国内産と殆ど変わらなくなったそうです。
当然、外地物と呼ぶインクジェット振袖用の生地や安い胴裏も高騰。
下から突き上げられ、得意先から押さえられている中間業者は青息吐息。

日本産の絹糸は品質がまばらで少ないので高品質の白生地は大量生産が困難。
しかし、このまま上昇を続ければ国内の養蚕農家が増え日本の絹業が復活するかもという甘い希望も。
生糸の数十年前の輸入解禁で白生地は一万円以上価格が下落しました。
生地の価格が生地の重さで計算されていた時代から、付加価値で決まる価格に変動しました。
壊滅に近い養蚕が復活すれば、高くなった生糸の相場が価格を左右する時代に戻るかも知れません。
それもまた夢。