十三参りの着物は小売屋さんやデパートでも十分に用意されていないので工房へ注文頂く事が増えています。
サンプルの柄も増えたので選び易くなっていますが、何と言っても製造者の直売という形になるのでリーズナブルなのが一番の魅力なのかも。

今回注文頂いたのはそのサンプルには無かった兎踊りの文様。
ホムペにあった初着を見初めて似た柄を所望されました。
糸目筒描きは一般的にはゴムを使用、伏せは餅米由来の糊が使われます。
勿論その技法を使う事も良くあるのですが、工房では珍な手法を使う事が多めです。

それは金糸目に蝋伏せ。
糸目が置けた後蝋伏せをしている所。
染屋の独り言Ⅱ-蝋伏せ
蝋を使うと裏から染める事の多いこの業界ですが、表から染めるのとでは上がりの質感が違います。
表から染めるとどうしても色が中にしみ込んでしまうのが蝋伏せの難点。
その為、蝋伏せは二度伏せにしています。
これが大変難しいのでそれをやる工房が少ないのです。
蝋は筆を置いた時にパッと横に広がってしまうので細かい部分の伏せには向かないのです。
その上二度ですから技術の裏付けが必要。
その点では自信があります。

糊には裏から浸透し易いという危険の他に、染めた時の天候が悪いと糊に含まれている塩が染液に滲みだし柄の周りが黒ずむという問題があります。
その点蝋は油性という事で横からの防染力は抜群、問題は染めた後蝋の上に残った染料を拭き取らねば事故に繋がる事。
拭き取らねばならないので引き染屋さん泣かせとなります。

着物の染に限らず日本が昔からつちかってきた染はどうやって防染するかの歴史。
ローケツや絞り、板締めに始まった日本の染は全て防染技術の変遷で支えられています。
素描にしてもにじみを止める為の泣き止めや手際の良さも防染の一種と言えるでしょう。
インクジェットは細密なエアブラシ、細かな点を吹き出すのも手際の良さの権化と言えます。

次世代の染は原点に帰って極めてアナログな素描や油絵っぽいローケツに先祖帰りするのではと思いますが。