一般に手描友禅は糸目はゴムか糊、柄を伏せるのは糊と相場が決まっています。
糊と言うのは餅米を主原料にしたもの。
勿論この手法も使っているのですが、我が工房は他の工房が使わない手法を使う事も多いのです。

それは糸目に金、金と言っても金属ではなく幾種類かのパール粉を混ぜて生地の地色に合わせたものですがそれを使っています。
金糸目は仕上げに光ったものを使う事が多いのですが、最初から金糸目を使う工房は殆どありません。
金糸目は彩色した染料が隣に流れ込まない様にする防染力が殆ど無いからです。
その為、彩色にかかる時間はゴム糸目の倍、糊糸目の三倍かかってしまいます。

何故やっているかって?
それは他がやっていないからというのが一番からかもしれませんが、独特の雰囲気が出るのもその為です。

金糸目を置いた所に蝋で伏せている場面をご覧下さい。
染屋の独り言Ⅱ-蝋伏
蝋で伏せた部分の中に意匠化した桜文様の金糸目が見えると思います。
大きく伏せた桜のシルエットは青花の下絵に沿って伏せています。
この後地染め、蝋を落として彩色になります。

そして出来上がった小紋着尺「桜シルエットに桜」がこちら。
染屋の独り言Ⅱ-着尺:ロー堰に桜
同じ部分を撮影しているので分かり易いと思います。
この着尺、送りが長くてこの大きさの写真三枚で一送りとなっています。

昔、勤めていた製造卸問屋さんの作品の中に端から端まで同じものが無い小紋着尺がありました。
それも可成り細かく描かれた素描作品。
草稿図案をこしらえるだけでも至難の技ですが、究極の小紋はこれだと思ったものです。
なので、我が工房の手描きの小紋は図案の送りが長め、普通は二尺、75.6cmなんですが。