「天狗」(2006年 監督/戚健 主演/富大龍)
102分

※日本語版はありません。
天狗はあの鼻の長い赤面の妖怪のことではなく、人名。
一応中国にも天狗(てんこう)という妖怪はいるようだけど、字のごとく犬の妖精で日本のみたいな鳥の妖怪ではない。
――とある辺境の村の山中で殺人事件が起こった。被害者は村の有力者・孔氏の三兄弟。上二人は射殺され、末っ子も意識不明の重体だ。銃を持って近くに倒れていた容疑者は村の保林員(山林を管理する公務員)の李天狗。ひどい全身打撲とやはり銃弾を受けており意識不明の重体となっている。公安局から派遣された王は事件の真相を調べはじめる――
[ここからネタバレ------李天狗の所持品を調べるとくずのようなパンのかけらと血にまみれた日記が出てきた。彼は日々の食べ物にも困る生活をしていたようだ。公務員である彼がなぜそのような困窮した生活を送っていたのか…王は日記のページを繰っていく。
戦争で片足を失い退役した若者・李天狗はこの辺境の村の保林員に任命され、妻と幼い子供の三人で移住してきた。村人は戦争の英雄として彼を大歓迎し受け入れた。大勢が彼らに贈り物をし村長は困ったことがあればいつでも相談にのるといって毎日のようにやってきて気にかけてくれた。だがその様子を苦々しく見ている者がいた。村一番の有力者、孔三兄弟だ。
天狗が森を見回りにいくと、ある一角の木々がごっそり切られてまだ新しい切り株が並んでいた。村の誰かが不法伐採し木材の密売をしているのだ。天狗は不法伐採してはならないと村に大きく張り紙をし警告する。
ある日天狗が村の井戸に水を汲みに行くと、村人が井戸の囲いに鍵をかけて入れなくしていた。事情がわからない天狗は村長の家を訪れるが居留守を使われる。仕方なく商店で水代わりに大量のコーラを購入する。さらに数日後には電気をとめられ、蝋燭を法外な値段で買わされる。村中からの無言の敵視。なぜこうも憎まれるのかわからないまま天狗はひたすら耐えるしかなかった。
天狗は一人で井戸を掘りやっとのことで水を手に入れるが、数日後井戸には飼っていたヤギの無残な死骸が放りこまれていた。妻はもう耐えられないと子供を連れて村を出て行った。
ある日森の監視中に、孔三兄弟がスーツの男と木の売買の商談をしている現場を目撃する。孔兄弟は天狗に気付くが、無言で肩を叩いて去って行った。木材の密売で儲けている孔兄弟が邪魔な森林監視員の天狗を追い出すために一連の嫌がらせを続けていたのだ。
孔兄弟は村人を集め天狗の家を襲撃する。元軍人の天狗は一人でも必死に抗戦するが多勢に無勢で刃物で切り付けられ殴る蹴るの暴行を受けた。倒れ動かなくなった彼を助けようとする者は誰一人としていなかった。
その夜、意識を取り戻した天狗は這って家の中に戻り銃を手にした。そして森へと入っていく。森では孔三兄弟がチェーンソーで木を伐採しようとしている所だった。天狗は孔兄弟にむかって銃の引き金を引く・・・。
天狗は都市の病院に収容され命は取り留めた。彼の妻と子が報せを聞いてかけつけたが、天狗の意識は戻らなかった。
そして十数年後、立派に成人し軍人となった彼の息子が病室に見舞いにくる。天狗の意識はまだ戻らない。だがその目から一筋の涙が流れ落ちるのだった。(終)-----ここまで]
張平という作家の「凶犯」という小説を元にした作品。
描かれるのは陰湿で壮絶な「大人のイジメ」。外部からやってきた親子三人を容赦なく締め上げていく村人の憎悪なき悪意の渦。学校のクラス、会社の部署、そして現代ではSNSのような数十人のコミュニティで、必然的にも発生するヒエラルキーと生贄と日和見。
他所から人がやってくることがめったにない辺境の村に赴任した李天狗の一家ははじめは村をあげての大歓迎を受ける。だが村の有力者の孔兄弟の指図によって急速に村八分に遭い生きる糧をも奪われて行く。だがなぜ村人は誰一人として助けの手を差し伸べないのか…悪意を表に出している孔兄弟よりも日和見している村人の方が恐ろしい。
孔兄弟が死んだと聞いて掌を返したように悪口をぶちまけだす村人たち。自分が李天狗を追い詰めたのではない、孔兄弟がやれと言ったんだと責任をなすりつける。行動したのは自分であるにもかかわらず、だ。もちろんそれは人の心の弱さによるものだけど、心の弱い人間でも数が集うと人を殺せるだけの強さを持ってしまうという恐ろしい事実。自分が悪いんじゃない、だってみんなもやってるから…たった数十人の中に紛れるだけで、人は罪の意識をゼロにしてしまう。
物語自体は昔の田舎ではさもありそうな逸話だけど、リアルに描写し人の醜さを抉り出してるところが凄い。ただまぁ、とっても残念だったのは最後のオチというか…そんなとってつけたような終わり方…。子供が成人したシーンはいらなかったよなぁ、アラサー男性が10代少年を演じるのは無理が過ぎるし…。(´д`lll)
あと天狗と桃花はいっつも顔はきれいなのよね、埃っぽい山が舞台なんだからもっと汚れててもいいはずなのに。
過去と現在が幾度も交差する構成が、最初は戸惑うけど特に終盤はミステリの種明かしのようにスリリング。重い物語だけどこの事実に目をそらさず観なければならない。誰彼の心に巣くう「悪意」を知るために。
凶犯 (新風舎文庫)/新風舎

¥813
Amazon.co.jp
原作の小説。
映画でも主人公は名前の一部をとったニックネーム「狗子」と呼ばれてます。ニュアンスとしては「狗さん」「狗ちゃん」だけど、狗は犬の意味なので孔兄弟が呼ぶ「狗子」には「犬野郎」という蔑んだ意味が入ってるのかも。
SOKU
広告さえ見れば無料。簡体字字幕。画面が白いのでちょっと読みづらいですが。













