あさひのブログ -54ページ目
「大秦帝国之崛起(全40話)」第二十四集22分頃から。
范雎が急ぎ用意させた四頭立ての馬車に乗って須賈は丞相府へ。鄭安平は到着を伝えるため中へ。范雎も便所に行きたいと言って中へ入って行った。その後いつまで経っても誰も出てこず須賈は待ちぼうけを喰らう。

* * * * *

「お兄さん、范さんが入って行って結構経つんですが、彼が出てこないのは、何かあったんですかね。」
「范さん?どの范さんだよ。」
「今さっきあの車に乗ってきた。」
「あー。あんたの言うところのあの范さん、彼は俺に言わせるんだな、彼は秦の"丞相"だ。」
「……なんだって?!」
「最初俺も変だなと思ったんだ、うちの丞相さまがなんであんたの車を引いてるんだろうって。ダンナのその質問で俺はわかったよ。うちの旦那様はあんたを(わざと)待たせてるんだ。もっぺん言うぞ、うちの旦那様の姓は張だ、范じゃない。」
「お、お前…あの…奴、奴が本当に秦国の、丞相?!」
「彼がそうじゃなかったら誰が(丞相だ)って言うんだ。まさか我が秦に二人の丞相はいないぜ。」
「…なんてこった!(*1)
「旦那様?旦那様どうしたんですか?!」
「范雎よ、おまえはなぜ(言わなかったのだ)!」
「旦那様、魂を取られてしまったんじゃないですよね?(お気を確かに)」
「魂を取られた…命もすぐに取られる!!」
須賈はやおら着物を脱ぎ棄てにかかった。
「旦那様、何をするつもりで??」
「早く!着物を脱ぐのを手伝ってくれ!」
「旦那様、今日はこんなに寒いのに、死ぬ気じゃないですか?(大丈夫ですか?)」
「もっと早くしないと、お前の主人はすぐに命がなくなるのだ!」
須賈は辺りを見渡し門前の木に目を止める。
「旦那様何をするんです!?」
「私は……荊を負って罪を請う!(*2) 兄さん、すまないが下げてるその剣を貸してくれ!」
「俺は剣を簡単に(この身から)手放すことはできないよ。」
「しかしこれが命を救ってくれるんだ、兄さん!」
*1 直訳:私のお母さんよ!
*2 自ら罪人の格好で鞭打つための荊を背負って出頭することで情状酌量を願い出る行為。



そこへ鄭安平が出て来た。
「だんなさま!」
「剣を与えよ。」
「かしこまりました。」
「よかったよかった、助かった助かった。」
須賈は木枝を切り集める。
「旦那様、気を付けて、気を付けて。」
「何ぼうっとしてる、縄でしっかり縛れ、早く私に縛り付けろ!」
「はい。」
「早く早く、早くしろ!范さんをお待たせしたらお前もまとめて殺されるぞ!彼がみんな分かってた(わざとしていた)ことがおれにはわかった、負荊請罪といえば本当に荊を負って罪を請うのだ、きちんと縛り付けたか、生半可ではいかん、范さんにおれたちが冗談でやってると思わせてはいかん、早く!」
須賈は木枝を背に括りつけ門前で土下座を始めた。
「申し訳ございません(*3)、范さま命だけはお助けを、申し訳ございません、命だけはお助けを…!
(鄭安平に向かって)だんなさま、わたくしめがこのようにしてることを、范さまがちょっとでもご寛恕いただけるかどうか(訊いてほしい)。」
「じゃあお前に運があるかどうか見てやるか。ただもしおれだったら、お前をバラバラに切り刻んでやるけどな!」
「だんなさまお助け下さい、命だけはお助けを…。」
「ついて来い。」
「はい、だんなさま…。」
*3 昔の謝罪の定型文句。直訳:わたくしめは死ぬべきです。

* * * * *

→インデックス

「大秦帝国之崛起(全40話)」第二十四集13分頃から。
魏国の大夫・須賈に仕えていた范雎は国を裏切ろうとしたとして須賈や宰相・魏斉に鞭打たれ殺されかけ、心身ともに屈辱的な仕打ちを受けたため秦国へ逃げ、張禄という名で秦王に献策し功を建ててついに丞相となった。
ある日魏国の使いとして須賈が来秦していると知った范雎は過去の恨みを晴らすべく、部下の鄭安平を須賈の泊まる宿へ遣り自分はぼろをまとってその従者に扮する。

* * * * *

「魏国の特使はいるか。魏国特使!」
「誰が騒いでおるのだ。」
「魏国の特使がいるのはここか?」
「(それは)わたくしですが、あなたは?」
「応候府の者だ。」
「丞相府のお方でしたか、失礼致しました。」
「我が丞相は魏国から使者どのが来たと聞いて、会いたいと(*1)。」
「わたくしが魏王の詔命で貴国に使いに出されましたのは、貴国の丞相どのと先立ってご相談したいことがございまして、こちらこそ(お会いしとうございます)。」
「では使者どのにはちょっと準備を整えてもらってから、行くぞ。」
「少々お待ちくださいませ。」
「おおーい、だんなさまー!」
「おいおいこの卑しい奴め、お前どうしてここに来た!お前(のような者)が入って来れる所だと思うのか!」
「だんな。おれは昔の知り合いが来たって聞いて、ぜひとも会いたいと思って来たんだよ。」
「お前のような奴に限って、昔の知り合いなんているもんか。出てけ、出てけ!」
「そんなことないですよ、だんな。」
「出てけ!」
「絶対知り合いなんだ、おれは…。だんな、ほら、この方がそうですよ、だんな。」
「お前は…!」
「はい、おれです。」
「お前死んだんじゃなかったのか。」
「ええ、だんなさま。死んでません。」
「丞相府のお方、この范さんは確かに旧知でございます。わたくしすぐに準備をしてまいりますので、この旧知の范さんと少しだけ昔話をさせて頂くことをお許しください。」
「そうなのか。私の関わらないことだ、使者殿のご自由に。ただし我が家の丞相のお召しに遅れることのないようにな。」
「ええ、ええ。(范雎に)ついて来い。」
「はい、だんなさま。(鄭安平に向かって)だんなさまどうも。」
*1 直訳:彼(使者)に謁見する必要があると。


「(小姓らに)早く着替える、秦国丞相府へ行かねばならん。范さん、まぁ座れ。」
「(椅子が見当たらないので)…いえ結構です。」
「お前はしぶとい奴だなぁ。まさか生きてるとは。(*2)
「だんなさまの(与えて下すった)"大きな福"のおかげです(*3)。」
「大きな福?なんだそれは。」
「みんなだんなさまのアレのおかげで…。」
「何だ?言えよ。」
「だんなさまの…ションベン。」
「はぁ!?」
「だんなさまのかけた小便です。」
「おれのかけた小便がお前を生かした(生き返らせた)っていうのか?わはは。」
「小便をかけて救ってくれただんなさまに感謝しております。」
「范さんよ、あんたのお喋りは(面白いな)。死人もみんなお前に生きて(面白い)話をしろと言うな(*4)。わははは。」
*2 直訳:お前の命は本当に大きいなぁ。まさか生きのびてこられたとは。
*3 「洪」は大きなという意味だが、水に関わる文字でその真意にひっかけている。
*4 直訳:死人も皆お前が生きて話をするようにさせるだろう



「どうなんだ、秦国へ来て、遊説するちょっとした官職についてないのか。」
「だんなさま、おれは魏国で魏丞相さまに罰せられました、なのにどうしてまた秦丞相に遊説しましょうか。もしまた怒らせたら、おれのこのちっぽけな命は本当になくなりますよ。」
「じゃあお前は丞相府の中で何らかの仕事をしていないのか?」
「いえ。御者をしたり、下人として働いたり、なんとか食っていってるんですよ。」
「お前も大変だなぁ。(小姓に)あの絹の長衣は私はもう着てないな、(今すぐに)持ってきて范さんに着させてやれ。ささ、早く、ほら。」
「だんなさまのご恩ある贈りものに感謝致します。」
「范さん着て(似合うか)見てみろ。」
「はい。だんなさま。」
「どうだ、見せてみろ。」
「だんなさま。」
「ははは。(自分でも)見てみろ、なかなかいいじゃないか。人(の印象)は衣裳に依り馬(の印象)は鞍に依る。范さんお前はそのぼろの上に絹の長衣を来ただけで、(生き生きとして)格好良いぞ。」
「憐れなわたくしに(恵んでくださって)ありがとうございます。」


「私が今回来たのはだな、秦王がまた魏国に攻め入ってくると聞いて、魏国は詳細を調べさせるために私を(特別に)派遣したのだ。お前は秦丞相府内で仕事してて何かそれらしいことを聞いてないか?」
「ご冗談を(*5)。そういうのはみんなご主人様の仕事(本業)ですから、わたくしめが聞き及ぶことができましょうか。」
「そうとは限らないぞ。お前はあの秦丞相張禄が車で出て行く時、どうしても何か話しているのが聞こえるだろう。彼(張禄)の御者をしてる時ふた言三言聞かなかったか。」
「だんなさま、うちの丞相が車に乗られた時に、彼が話してるのをおれはまだ聞いたことがありません。」
「まあいい、まあいい。彼に会えばわかる事だ。…おい、お前の御してる車は何頭立てだ?」
「…は?」
「おれは魏王の派遣した特使だ、外へ出掛ける際に我らが国の威信を損なってはいけないだろう。」
「ええ。」
「乗って行く車は少なくとも四頭立てでなければ、出掛けることができん。」
「…ええっと…それは。」
「それはもこれはもないだろう、お前は何頭立ての車を御してるのか自分でわからんのか!?」
「は、はい、だんなさま。わかります、わかりますよ。"四頭立て"です、よんとうだて!」
「ちょっと、おれは聾じゃない、わめかんでいい。」
「はい。だんなさま。四頭立てです。だんなさま、よんとうだてですよー!(※外にいる自分の部下に聞こえるように言っている)」
*5 直訳:旦那様は笑わせるような事を言いますね。

* * * * *

→インデックス
「大秦帝国之崛起(全40話)」第九集29分頃から。
秦に捕えられていた楚懐王・芈槐が死亡したとの報せが楚国に届いた。愛国心が強く秦を憎む芈原(屈原)は、懐王を見殺しにした新王・芈横や親秦派の子蘭公子、靳尚らの前で涙を流して非難する。

* * * * *

「楚国は滅ぶ…楚国は滅ぶぞ。」
「黙れ!」
「先王が敵国に囚われたまま死ぬとは。」
「馬鹿言うな!先王さまに失礼な、御隠れになった事を口に出すとは!(*1)
「我が王よ。君主はおん前に忠実な臣・賢明な臣を侍らせるべきです(*2)。しかし(世の中には)国が亡んだり家が破滅したりする事は珍しくない。なぜか?その君主の眼中にある忠賢の者は、既に不忠で不賢であるからです!先王は忠賢の区別がつかず、ゆえに国内では鄭袖に惑わされ国外では張儀に欺かれ、この芈原を疎かにし上官の子蘭を信じ、その結果どうだ!兵は挫かれ土地は削られ、漢中六郡を失い、さらに敵国に囚われ死ぬ、天下の笑いものだ!これは善悪の区別がつかず、人の心が災いをもたらす事を知らぬゆえだ!」
「ふざけるな芈原!先王を侮辱するのか貴様!」
「易経に曰く"井のさらえて食せられざるは我が心をいたましむ"、井戸水はこんなに清らかであるのにくみ取る者がいない(*3)。この芈原の忠心から出る心の底から正しい(最良の)言葉を、王上(陛下)がご明察いただけたら楚国は救われるのですよ!(*4)
「芈原よく聞け!!楚国に貴様の助けはいらん!わしは命じる、芈原を郢の都から追放し、沅、湘の地へ流せ!」
「王上ー!!」
*1 不諱…死を婉曲に言う言葉
*2 直訳:君子たる人はおん前に侍らせる忠臣賢臣を欲しいと求めないことなかれ。
*3 才能を見極められる者がいない、の意味。
*4 「能」や「才」が入ってることで「お前がおれの言う事を理解できたら国はようやく救われる(→なんでこんなことも理解できないんだ国は滅ぶぞ)」というニュアンスになっている。


* * * * *

芈原が都を追われた後、楚は秦に攻め込まれ国都・郢は奪われ東の陳へ遷都した。絶望に打ちひしがれた芈原は小雨降る中汨羅江のほとりへとやってきた。
第十七集37分頃から

* * * * *

「雲は(尽きることなく次々と)わき出て空を埋める…楽なき哀れな我が人生…独りさまよう山の中…心を変え俗に従うことができようか…ただ愁いと苦しみだけが極まっていく…。」(*5)
「あんた三閭大夫さまでねえか?」
「三閭大夫…郢の都は既に秦のものとなったのに、何が三閭大夫だ。」
「大夫さまはなんでまたこの地に流されたんで?」
「世界は皆濁っていて私だけが清い、人々は皆酔っていて私一人が醒めている、ゆえにここへ流された。」
「おやおや(*6)。そもそもこの世の出来事にこだわらず、世の移り変わりに応じて流れて行けばええじゃないですか(*7)。世の人がみんな濁ってるなら、大夫さまはこの濁った流れを渡って、誰かの立てた波をもって大波を起こせばいいのに(*8)。」
「私は聞く、長い髪を洗ってすぐ、冠を載せる前にまず冠の上の塵を払い落とすべきで、新たに沐浴した後着物を着る前に、着物の上のほこりを払い落とすべきだと。ゆえに、私はむしろ湘(河川名)の流れに身をまかせ、魚の腹の中にこの身を葬る方がよい。どうしてこの真っ白な心を、世俗の埃で汚せようか(*9)。滄浪(河川名)の水が澄めば、我が帽子の紐を洗おう、滄浪の水が濁るならば、我が足を洗おう(*10)。」
漁夫は呆れて去っていき、芈原は一人河の中へと入って行った。
*5 屈原の残した詩「九章」の中の「渉江」の一節。原典でこの直前の句は空が暗く雪や雨が降っている景色を描写している。(山峻高以蔽日兮、下幽晦以多雨、霰雪纷其无垠兮)
*6 直訳:この人ったら。
*7 直訳:元々この世間の出来事にこだわり執着すべきでなく、世の推移に応じればよい。
*8 直訳:なぜ大夫もこの濁った流れを渡ってみて、誰かの立てた波を助けて大波にしてみないのか。
*9 直訳:どうしてこの広大な白い心を、世俗の塵埃で覆うことができようか(→できない、したくない)。
*10 「楚辞」の「漁父」の一節。原典では屈原ではなく漁夫が歌ったことになっている。

* * * * *

→インデックス
「大秦帝国之崛起(全40話)」第十七集7分頃から。
嬴稷は澠池に趙王を招待し改めて同盟の意志を確認し合い、懇親の宴が開かれた。

* * * * *

「趙王よ、私はあなたがとても音楽が好きだと聞いた。一曲瑟(*1)を奏でてみてはどうかな?」
「いいでしょう。瑟を持て。」
趙王は瑟を一曲奏でた。
「おお!素晴らしいな!」
秦の御史(書記官)がおもむろに立ち上がり、記録した書簡を読み上げた。
「秦王稷の二十八年、王は趙王との澠池の会にて趙王に瑟を"奏でさせた"(*2)、これを史記に記す。」
「なんだ、こんな小さいことまで秦の歴史に書き入れる必要があるのか?」
憮然とする趙王を見て藺相如は嬴稷の目前に進み出て缶(*3)を差し出した。
「秦王に申し上げます、我が趙王は秦王が楽器演奏に長けているとお聞きしてます、秦王にはこの缶を叩いていただきたい(*4)。」
「その態度、お前はわしに強いるのか。わしは不愉快だ、叩かん。」
「秦王が缶を叩かぬと言うなら…私と秦王は五歩と離れていない、私は即刻(頭を缶で割って)秦王に血を飛び散らせよう!(*5)
「何をする!」
「下がれ。」
「はい。」
「…お前なぁ、わしの前で死ぬだの生きるだのいうのをいっぺんやめろよ。(趙王に向かって)この前は和氏の璧を抱いて柱に(頭を)打ち付けると言い、今度は缶で殴ると言うのだ。ははは。」
「秦王、缶を叩いてください。」
「わかったわかった、わしはお前の命を救おう。わしは缶を叩くぞ。」
嬴稷は箸で缶をひと打ちする。
「御史!」
「はい。」
「記せ、趙王の二十年、王は秦王との澠池の会にて秦王に缶を"叩かせた"、これを史記に残す。」
*1 しつ。琴に似た楽器。
*2 「令」が命じてやらせたというニュアンス。
*3 ほとぎ。酒を入れる小さな甕。秦ではこれを叩いて音楽のリズムをとった。
*4 直訳:秦王に缶を叩いてもらおうとする私をお許しください。
*5 お前の頭をかち割ってその後自分も死んでやる、の意味。

* * * * *

→インデックス
「大秦帝国之崛起(全40話)」第十七集冒頭から。
宿に戻った藺相如は和氏の璧を大切に箱に納め、部下を呼ぶ。

* * * * *

「よく聞け、秦人の衣装に着替えて和氏の璧を隠し持ち、夜通しで小路を行き秦の国境を出てこの和氏の璧を趙国に送り返すのだ。覚えておけ、必ず自らの手で我が王の手に渡すのだ。」
「かしこまりました。しかし秦王はもう斎戒五日で城と玉を交換すると答えませんでしたか。」
「あんなのは詐欺の言葉だ!私の言う通り、先に璧を趙国へ送り返すのだ。」

嬴稷は和氏の璧を母に贈るつもりだったのだが、その母から土地と宝石を交換するなど愚かしいとひどく叱られた。しかし王が言葉を翻すのも格好がつかない、言われた通り斎戒を始めた。そこへ韓聶がやってきた。
「王さま本当に斎戒するんですか。」
「太后(母上)はあの和氏の璧はいらないんだとさ。」
「本当に十五の城池と換えるとなると誰だって勿体ないと思うでしょう。」
「わしはまだあの玉と交換する気がある。王の位を継いだ今、太后の心配事を取り除くという点でわしは親孝行の道を半分も過ぎてない。あの玉が彼女の心の病を解いてくれるかもしれない。"彼"もこの嬴稷のために死のうとまでしたわけだし。」
「我が王のおっしゃるのは誰の事で。では五日後あの趙使は帰らせましょう。」
「あの藺相如というのはなかなか面白い、わしはまた奴と会ってみたいな。」


数日後、嬴稷は藺相如を呼び出す。
「趙国の特使の謁見です。」
「秦王にご挨拶致します。」
「楽にされよ(*1)。使者どの、あの玉を持ってきてないな。」
「秦王に申し上げます。秦王が斎戒されてるこの数日で、私はよくよく考えました。貴国は穆公以来歴代20人余りの君主と他国の間で無数の盟約を結び、すべて約束を破って終わっているようです。私は恐れながら今回も例外ではないと思い、既に従者に和氏の璧を持たせて先に趙国へ帰らせました。王様が私を使者として趙国へ派遣し手紙をお送りになられましたらば、我が王は即刻和氏の璧を貴国へ送るために私を派遣するでしょう。今もし王様が本当に十五の城池を先に我が趙国へ譲渡するのでしたら、我が王はどうして背信しましょうか、きっちり和氏の璧を王様の目の前にすぐにお送りいたしますよ。」
「使者どのの言う所では、趙王はわしよりもしっかり約束を守るようだ。」
「王様のおっしゃる通りでございます。」
「しかし今は約束を守らないのはわしかそれとも趙王か。」
「王様、これは私の考え主張であり、我が王は関係ございません。私はまたこれ(王を侮辱するような発言)が罪に値すると分かってます。ただ王様の城池はまだ我が趙国に譲渡されてませんから、王様が信用を失う食言をされなければ私はあと数日しか生き延びられません(*2)。」
「使者どのの言う通りだな。しかしひとつの物々交換に、どうして人の生死が関わる必要が。使者どのは戻って趙国に伝えられよ、既に和氏の璧が趙国に戻っているのならそのまま趙国に留めておかれよ。しかしわしが趙王と盟を組みたい心に変わりはない、早く酒を酌み交わし語り合いたい。なので趙王と河西のはずれの澠池にてお会いしようではないか。」
「王様ご安心ください、私は早速帰って王様の親切なお誘いを我が王にお伝えしましょう。」

和氏の璧を傷つけることなく趙国に取り戻し、また無事に帰ってきた藺相如に趙王は喝采する。
「素晴らしい!相如は私に恥をかかすこともなくついに無傷の璧(*3)を趙に取り戻すという使命を果たすことができた。詔を発する、藺相如を上大夫に封じる。私と秦王の澠池の会に上大夫も同行してくれ。」
「ありがたく承ります。」

*1 挨拶の返し。お辞儀してる相手に顔を上げてくれという意味。
*2 土地が譲渡されれば秦王は約束を守ってるので藺相如は侮辱罪で処刑されるが、譲渡されなければ藺相如は正しい事(秦王は約束を守らない人だという事)を言ってるので罪はない。
*3 完は無傷、無欠という意味。なお黒いひびがあるというのは嘘。嬴稷はひびがあると難癖つけて土地を渡さないつもりでいた。


* * * * *

→インデックス