現地では「西遊記之大聖帰来」を超える人気だという3Dアニメーション。
「哪吒之魔童降世」(2019年 監督/餃子)
110分
※日本語版はありません。
哪吒は道教の神様の一人で、子供の姿をしていて超怪力で暴れん坊、日本でいうと金太郎の悪ガキバージョンな?
暴れん坊の悪ガキが偉い大人や神様たちを困らせるという、「西遊記」の孫悟空的なプロットで子供向けアニメによく用いられるキャラクター。
――むかしむかし、仙人の太乙真人の元に、魔力を得て人語を話すことのできるようになった混元珠という石が弟子入りしたいとやって来た。石ころが弟子入りとはお笑い草だと太乙真人が馬鹿にしたため混元珠は怒り暴れだした。手の付けられない混元珠に、仙人界の王たる元始天尊が出てきてやっとのことでその力を封じた。元始天尊は間もなく始まる戦を前にこの混元珠の力を利用しようと考え、混元珠から霊珠と魔珠を作り上げた。これを人の赤子に封じることで強い魔力を持つ仙人を生み出すのだ。ただし魔珠は魔性を持つため放置すれば人々に危害を加えるだろう、三年後に天雷によって魔珠が破壊されるよう呪文を仕込んだ。
元始天尊から霊珠と魔珠を預かった太乙真人は人間界の将軍である李靖の夫人の妊娠している子に封じることにした。だがその出産時に何者かの邪魔が入ってどちらかの珠が奪われてしまった。生まれてきた子に封じられたのは果たして…魔珠だった。太乙真人は魔性の子が育つのを恐れてすぐに"処分"しようとするが、夫人や李靖が責任持って育てると必死に頼むため様子を見ることにした。赤子は哪吒と名付けられた――
[ここからネタバレ-----
二年後。哪吒は生まれながらに持つその怪力で町の人々には恐れられ子供たちからは悪魔の子だと嫌われていた。哪吒が暴れて人々を傷つけることを恐れた両親は彼を屋敷に閉じ込め外に出ないよう厳しく言いつけていたが哪吒はたびたび見張りをだましては外へと遊びに出かけてはトラブルを起こした。太乙真人は哪吒が天から与えられた霊珠の生まれ変わりで将来妖怪を倒し人々を救うために生まれてきたのだと吹き込み、その力を正しく使うよう諭した。
ある日海の妖怪が町を襲い幼い女の子を連れ去った。自分は妖怪と戦うヒーローだと教え込まれてきた哪吒は嬉々として妖怪退治に向かう。だが海へ逃げた妖怪に手こずってしまう。そこへ現れた白衣の少年が妖怪と戦い女の子を奪還した。しかし妖怪の魔術によって体が石化してしまった。哪吒は妖怪を倒して少年と女の子を石化から救った。町の人々が駆け付け女の子は戻っていったが、人々は哪吒が女の子を拉致したのだと罵声を浴びせるのだった。
白衣の少年は助けてくれた哪吒に礼を言い、二人は友達になった。
この白衣の少年は人間の姿をしているが実は海底に住む龍王の子。二年前、龍王の元に申公豹という仙人が現れ、仙人界が間もなく戦を始めようとしていると知らせた。仙人と妖怪は同じ魔力を持つ者で、その出生が人間か否かで"仙人"と"妖怪"に区別されているに過ぎない。仙人らが妖怪をせん滅しようと目論んでいると知った龍王は怒り、申公豹が持参した霊珠を自分の子に封じその対抗勢力に育て上げることにした。その子がこの白衣の少年・敖丙なのだった。
妖怪退治しても人々からは嫌われ続けることに不貞腐れた哪吒は部屋に閉じこもる。心配した母親が誕生会を開いて人々を屋敷に招こうと提案した。哪吒はまたこっそり屋敷を抜け出すと海岸へ行き敖丙からもらったほら貝を吹く。すると一瞬の間に敖丙が現れた。哪吒はぜひ誕生会に来てほしいと照れながら招待する。だが父王から自分が魔珠を宿した子である哪吒を倒すために生まれてきたと知らされた敖丙はすぐに答えられない。哪吒はそんな彼の表情に気づくことなく「絶対来てね!」と言って走り去っていった。
誕生会当日。李靖と夫人の顔は浮かない。実は元始天尊が魔珠に仕込んだ呪文が発動する日、つまり哪吒が"処分"されてしまう日なのだ。哪吒は敖丙が来てくれると信じ楽しみにしていたが、そこへ黒衣の仙人・申公豹が現れ、哪吒に彼の出生の秘密を暴露する。お前は両親の子ではなく元始天尊が作った魔珠で人々を苦しめる運命を負っているのだ、と。
みんなウソつきだ!傷つき怒った哪吒は両親と太乙真人に殴りかかる。元々の剛力に加え太乙真人につけられた修行もあって哪吒は三人がかりでも抑えられない。
このまま哪吒が三人を殺すのを待って襲い掛かれと申公豹は敖丙に囁く。申公豹は人の姿をしているが実はその正体は豹、彼は仙人ではなく妖怪なのだった。哪吒を殺さなければ龍族は滅ぼされる…一族の存続のために心を決めた敖丙は哪吒に襲い掛かる。魔珠と霊珠の力を宿した二人の力は拮抗する。また申公豹のたくらみを知った太乙真人もそれを阻止するため戦う。
その時、天が割れ轟音が響き始めた。天雷が近づいている!哪吒は両親にこれまで育ててくれてありがとうと言うと雷に向かって飛んでいく。自ら天雷に飛び込もうとする哪吒を敖丙が止めようとする。二人は白光に飲み込まれた。魔珠と霊珠の二つの力が混じり合い、そのパワーが天雷を少しづつ押し返す、そして大爆発が起こった…。
町には巨大なクレーターができており爆発の凄まじさを表していた。夫人は半狂乱になってわが子の姿を探す。するとクレーターの底から太乙真人の投げた秘宝・七色宝蓮が出てきた。あの衝撃で二人の肉体は消滅してしまったがこの宝蓮によって二人の魂は守られていたのだ。(終)-----ここまで]
いや確かに、とても面白かった!素晴らしい!
第一のウリはとにかく見てて爽快なアクションシーン!スピーディ&リズミカル!
絶妙なスローモーションのはさみ込みでギャグとしてもパンチ効いてるし子供は絶対笑う!
第二のウリはストーリー。孤独な主人公に初めてできた友達との友情、それからどんな時でも自分を守ってくれる母親の愛情。正統派でしっかり泣ける。その王道を地盤にしながら、主人公が見た目にワルすぎるという変化球や人種差別に絡む社会派テーマを仕込んでるあたりが、大人にも鑑賞たりうる物語になってて幅広い!
絵柄というか、ぱっと見はすごくディズニーだなぁ二番煎じだなぁと思ったけど、それ以外の部分にもぜひ注目してみてほしい。
あらすじには書ききれなかったけど、この作品のテーマは「自分の運命は(出生に縛られることなく)自分で切り開ける」というもので、主人公の哪吒は普段からそうありたいと願っており他人にもそう言ってるのに、自分自身がその呪縛に囚われてることに苦しんでる。いやこれが普通の青少年ならともかく、10歳に満たない幼い子供にこんな苦行ヒドイ!哪吒は太乙真人につけられた首輪でその力を抑えられてると同時に成長も止められてるようで、見た目が3~4歳のまま。だから余計にヒドイって感じてしまう。
でもこれが可哀想な物語にならないのは、哪吒の人相の悪さ、そしてしっかりクソガキっぷりが描かれているから。性質の悪いイタズラも根底にあるのは他人とコミュニケーションを取りたいという願望。彼は彼なりに孤独という押し付けられた運命を切り開こうと努力してるんだよねぇ、やっぱ泣ける…。
[ここからネタバレ含む-----哪吒の敵に誰を持ってくるかっていうところで、龍にしたのは良いアイディアだなぁと思う。哪吒は元々「炎を上げる輪に乗り火を噴く槍を持つ」という設定の神様なので、それに対して水を司る神様である龍王の息子にすることで火vs水、赤vs青という子供にもめちゃくちゃわかりやすいコントラスト。
そして敖丙が心底悪人ではない(理由があって主人公に敵対する)のは昨今のアニメ悪役の流行りに沿ってるけど、黒幕である申公豹までもがよくよく考えると悪人ではない(そもそも出生で差別してる元始天尊が悪い)っていうのが、最近のアニメは随分と複雑に作られてるなぁと感心してしまった。-----ここまで]
そしてその全てがわかってなくても、各々の理解で十分楽しめる作品になってるのが素晴らしい。