健忘村 | あさひのブログ
「健忘村」(2017年 監督/陳玉勛 主演/舒淇、王千源)
116分

※日本語版はありません。

中華民国時代のとある村を舞台に繰り広げられるブラックコメディ。

――山奥に殆ど人の往来のない裕旺村という集落があった。この村が風水的に幸運を呼ぶと知ったある富豪はその土地を奪うため、村人の朱大餅に金をちらつかせ村に爆薬を運べと命じる。
大餅が村へ戻ると、裕旺村の近くを汽車が通ることになったというニュースが駆け巡っていた。駅ができれば村は豊かになると村長をはじめ大喜びだ。そんな中大餅は妻の張秋蓉にひそかに荷物をまとめるように告げる。彼は大金が出に入るので今夜村を出て都会で暮らそうと言うのだ。

その夜、村では宴会が開かれた。突然大餅の家から悲鳴が上がる。皆が駆けつけるとそこには体中が黒く変色し息絶えた大餅の姿があった。ちょうどその時、村に道士(まじない師)の男がやってきた。天虹真人・田貴と名乗るその道士は大餅の遺体を調べ毒殺だと言う。村長はすぐに秋蓉を捕らえさせた。
田貴は大きな箱の中から不思議な形の道具を取り出した。これは「忘憂」…嫌なことを忘れることのできる魔法の道具、これを使えば事件の真相はすぐわかるのだと――

[ここからネタバレ-------
村長は田貴を家に呼んで歓待すると見せかけて酒に薬を入れて眠らせ縛り上げた。そして魔法の道具を手に入れるが使い方がさっぱりわからない。しかし売り飛ばせばきっと高く売れるに違いない。
大餅の家に転がされた田貴。すぐ隣で秋蓉が首を吊ろうとするのを慌てて止める。そこへ密かに秋蓉に思いを寄せる鍛冶屋の万力がやってきて秋蓉を助け出した。万力は大餅の懐から二通の手紙が出てきたと話す。遺書かもしれない。中を見ると、そこには村長ら数人の村民が実は山賊一味の手下であり、村を襲い乗っ取る手筈を整えていたことが書かれていた。そしていよいよ近日村を襲う、その合図を送れと。
山賊が襲ってくると知って肝っ玉の小さい万力は秋蓉に一緒に逃げようと言うが、秋蓉は首を振る。今朝、村長の息子でかつての恋人・丁遠から手紙が届いた。三年ぶりに村へ戻って来るという。丁遠がいない間に無理矢理朱大餅に嫁がされた秋蓉は会わせる顔がないと、偶然手に入れた毒を使って自殺しようとしたが、毒があまりに臭くて口に入れられない。そこでパンに香辛料と一緒にはさんだサンドイッチを作って食べようとしたその時大餅が帰って来た。そして彼から今夜村を出ると聞かされた秋蓉は自殺を思いとどまった。だが秋蓉がそのまま放置していたサンドイッチを大餅が食べてしまい彼は死んでしまった…秋蓉は自分が大餅を殺してしまったのだと告白する。
話を聞いた田貴は自分の魔法の道具でその嫌な記憶を消してやろうと言う。嫌な事を忘れれば人は幸せに生きられるのだ。秋蓉は田貴に言われるがまま村長の家から魔法の道具を盗み出す。丁遠と過ごした楽しい日々を忘れてしまうことは悲しかったが、今の苦しみから逃れるため秋蓉は魔法の道具を頭に被った。田貴が道具を操作すると秋蓉の苦しい記憶は切り取られ一つの繭玉となって吐き出された。

魔法の道具が田貴の手に取り戻されていたと知った村長は大餅の家へ。だがあの道具が本当に嫌な記憶を消すと聞いて半信半疑で試してみる。村長は昨日鼠のしっぽを食べさせられたことを忘れたい。田貴は魔法の道具でその記憶を消してやった。
記憶を消した部分は何も植え付けられていないまっさらな心となる。村長はそれを利用して村人を自分に従順な操り人形に仕立て上げようと画策する。「忘憂」の処置を受ければ嫌な事が忘れられる上に2銭を与えると言って村人を次々と魔法の道具にかけさせた。嫌な事だけでなく記憶を丸々消された村人は村長に言われるがまま自ら財産を差し出た。うまくいったとほくそ笑む村長だが、田貴は「忘憂」したばかりの村人に命じて村長を拘束させると彼にも魔法の道具を被らせる…。

村を完全に手中に収めた田貴は村長となり秋蓉を妻とし、都合の悪いことが起これば「忘憂」させて人々を思い通りに操った。村人は自分の名前すら覚えられず、男は甲、乙、丙など、女は一花、二花、三花と呼び名や印が顔に書かれた。村人は毎日田貴を讃える歌を歌い、田貴に指示されるがまま宝を探して村中に穴を掘った。
ある日秋蓉は村の入口にある家が気になって入ってみる。そこは元自分の家なのだが彼女はその事すら記憶にないのだ。家の中で手紙のようなものを見つけた。丁遠という人に宛てたラブレターだった。
またある日、突然元村長が暴れ出した。田貴はすぐに「忘憂」させようと道具を被せるが暴れそのまま逃亡しようとしたため万力が棒で思い切り叩きつけた。怒った田貴は元村長を生き埋めにしようとする。が、そこへ丁遠が村へ戻って来た。丁遠は父を助けようと駆け寄るが村人らに拘束された。田貴は丁遠を「忘憂」させようとするが万力が叩いたせいで魔法の道具が壊れてしまって記憶を消すことができない。その様子を覗き見ていた秋蓉はこの男が手紙に出て来る丁遠だと知る。そして彼は秋蓉という名の女性と愛し合っていたのだ…。

その夜、秋蓉はこっそり魔法の道具を持ち出して見よう見まねで操作してみた。そしてこの道具を使えば人の記憶を消すだけでなく保存し観ることができることを知った。道具は壊れていて途中で止まってしまう。だが何度か叩くと直った。そして村人の過去の記憶から大餅の変死事件や村長が村へやってきた時の事、それに自分とあの丁遠が恋人同士だったことを知ったのだった。

いつの間にか直っていた魔法の道具で、田貴は丁遠の記憶を消してしまった。さらに田貴は丁遠が山賊・烏雲の手下で、今まさに彼らが村へ向かってきていることを知った。急いで村人を集め応戦の準備を始める。と同時に宝の掘り出しも続けさせた。

秋蓉はついに魔法の道具を使っているところを田貴に見つかった。だがその時ようやく宝の箱が出てきたとの報せ。田貴がずっと探し求めていたこの宝は「回魂」…記憶を取り戻すための道具なのだった。だがまた時同じくして、烏雲の一味が村へ襲い掛かって来た!村人らが小麦粉爆弾で応戦する中、田貴は財産と魔法の道具、それに記憶が紡がれた繭をかき集めて逃亡する。逃げ込んだ洞窟で掘り出させた宝箱を開けるが、そこには「忘憂を逆にすれば回魂である」という短い文が書かれた紙が入っているだけだった。山賊を恐れて同じく洞窟へ逃げ込んでいた万力に田貴は魔法の道具を被せる…。

村人を襲う山賊らの前に単身現れた万力。驚異的な技で次々と山賊を殴り倒していく。彼はそもそも気が弱いだけで、その小心さを克服するために幼い頃から体を鍛えていたのだ、魔法の道具で気の弱さをすっかり忘れた万力にはもう恐いものは何もなかった。頭領を倒された山賊らは皆逃げて行った。
万力は英雄だと皆から褒め称えられる。が、田貴が戻ってきて自分のおかげだと言い出したので秋蓉は彼が村の財産を持って逃げ出そうとしたのだと突きつけ捕らえさせた。村人らは田貴の持っていた金品を奪い合う…。
ようやく村が寝静まった頃。拘束された田貴は秋蓉に言う。一年前気が付くと自分はこの魔法の道具を被っていた。傍らには死体があった。自分が何者なのか何が起こったのかは思い出せなかった。しかし時折ある女性の姿が脳裏に浮かぶ、彼女が誰なのか、そして自分が誰なのかだけ最後に知りたい、と。自分の記憶の繭はとってあるのでそれで「回魂」してほしいと頼む。秋蓉は微笑み魔法の道具をゆっくりと田貴の頭に被せた…。

秋蓉の使う魔法の道具によって「回魂」された村人は彼女を村長に推し、村は彼女の指揮で特産品を開発して潤い、皆仲良く暮らす桃源郷となった。
・・・それは"彼女にとっての"桃源郷であるが。(終)
-----ここまで]

これすごく楽しい、おかしい、そしてゾッとする物語で超オススメ!
物語そのものは世界中にあるような昔話でどちらかというと怖い話…「板橋三娘子」とか「赤いろうそくと人魚」とか「ハーメルンの笛吹き男」のような皮肉が込められたおとぎ話だけど、それをきれいにコメディに仕立ててあるところが実に見事。笑いにしてる分皮肉が際立つ。魔法の道具が現代的に表現されていてとってもわかりやすく、他にもさまざまな面で現代的というかパロディ的な演出がなされていてそれがまた親しみやすい。
コメディならどんな人を起用してもある程度サマになるけど、これはベテラン俳優を集めてきっちりシリアス部分を描いているので単なる笑い話ではなく問題提起させるような仕上がりになってて、ちょっとした映画マニアにも納得してもらえる良作品だと思う。

主人公の張秋蓉を演じるのは「西遊記-はじまりのはじまり-」「弾丸と共に去りぬ」等でヒロインを演じてる名女優スー・チー(舒淇)。特に序盤のシリアスな物語の展開をぐいぐい引っ張って行ってくれる。でも意外とコメディもかわいい。
主役格の田貴は「誘拐捜査」の犯人役や「ブレイド・マスター」の盧剣星、「九州・海上牧雲記」の牧雲栾(皇兄)といった重要な役柄を演ってるワン・チェンユェン(王千源)。見た目にどうしてもずる賢い役が回って来るんだろうけど(ゴメン!)彼がとにかく良い味出してんの!この田貴というキャラクターは胡散臭いくせに親しみやすく、憎らしいのに同情したりと矛盾する気持ちになるけど、結局それが"人間らしさ"であり、視聴者を思わず苦笑させる愛すべきキャラ。
他にもイケメンマッチョなのにノミの心臓という万力(演:ジョセフ・チャン/張孝全)や、無表情にひたすら自転車と格闘する烏雲(演:リン・メイシュウ/林美秀)とか個性的なキャラでもりもり笑わせてくれる。

香港ギャグ系の笑いではなく日本風のシュールな笑いなので今の若者にピッタリ。定番のハリウッド映画やアイドル映画に飽きて小劇場へ見に行くような映画好きにぜひ見てもらいたい作品。ボイスパーカッションで奏でられるテーマソングは終わる頃には口について離れなくなること請け合い。ぅわんぅわんぅわぁーんわぅわわわわぅわぁぁーん♪(´0`*)


Pangzi