湖州の新任知事の曹墨は公的資金横領の疑いで逮捕される。曹墨の妻・玉娘から龍が彫られた宝石を手渡された宋慈は、この宝石の出所を聞くため牢獄の曹墨を訪れる。
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「宋さま、(こんな)深夜にあなたさまに来ていただくのは、本当に申し訳ないと思ってます。」
「貴方はこんな焼き芋(※1)を私に放り投げておいて、普通の人が穏やかに眠れるとでも?」
「ということは、玉娘はそんなにも早く宋さまにお会いできたのですね。私は安心しました。」
「十年前貴方達はひとつの苦難を乗り越えたが、困難を抱えた夫婦(※2)になるとは本当に思わなかった、まったく得難い事だな。」
「お恥ずかしい、全ては宋さまのおかげです。宋さまがあの時太平県で私のために冤罪を雪いで下さらなかったら私は今すでに刀を振り下ろされ(冤罪のために処刑された)亡者となっていたでしょう。」
※1 曹墨が玉娘に託した宝石のこと。厄介な代物→手を焼く物→焼きたての芋、という言葉遊び的な表現。
※2 曹墨は右腕がない障碍者のため「患難夫妻」と表現されるのかと思われる。

「(さらに)まったく、ある昔の言葉で言えることだ、大きな災難を逃れることができたならその後は必ず福がやってくる(災い転じて福となす)。貴方はあの時まさに生死に関わる関門をくぐり抜け、ようやく高中で状元となり錦の刺繍の(ように華やかで素晴らしい)将来(が約束されている)、なんと喜ばしいことか。」
「宋さま、冷やかさないでください。」
「私のいう事は事実ではないか。十年前貴方は自ら殺人事件を偽証しもう少しで(自ら)不当に命を落とすところだった。だがそれは閣下(曹墨)が無実の玉娘を助けたいとの想いから(彼女の)嫌疑を晴らし一人罪をかぶったことで、その徳のある行為は素晴らしいことだ。
しかし貴方が今回も型どおりの行いで(→前回と同じように)、また(実際に犯罪を)行った人の代わりに自ら罪を認めるつもりだというのなら、私はもはやどのような評価もすべきでない(→とても褒められたものではない)。」
「この曹墨は罪があると言えます。誰かがやった罪の身代わりとは言いません。私は本当にお話できることはないのです。」
「人に言えない秘密があると言った方がいい(→秘密があるのだろう)。」

「恩人どの、この曹墨が貴方さまに早くお会いしたかったのは、他でもないこの"焼き芋"のためなのです。玉娘がすでに恩人どのにお会いしたのであれば、この曹墨も安心しました。恩人どのはどうぞお帰り下さい。」
「貴方は私が深夜にここへ来て、十年前のように貴方のために判決を覆す(ために動いてくれる)とお思いなのか?私が提刑官として冤罪を(防ぐため)調べ(不当な罪の)執行をやめさせるのはすなわち天職だ。だがこれまで暇な事件を取り扱ったことは多くはない(→暇だったことは殆どない、忙しいのだ)。貴方がどうしてここで、何の罪を犯し生きるのか死ぬのか、私はこの件に対して何の関心もない。十年前に私が一度あなたを救ったからといって、二度目があるわけではないぞ。私がここへ来たのは、ただこの"焼き芋"のためだ。」
「宋さま、私は実はあなたよりも多く知っているわけではないのです。」
「そんなわけはなかろう。もし貴方がこの物(宝石)を(正体を調べるため)手に取ってみたりしなければ、どうして玉娘が私を求めて姿を現わしたというのだ(→貴方が玉娘にこの宝石を私に渡すように指示したのだろう)。」

「恩人どの、私はただ、この(宝石に彫られた)図形は、普通のものではないと思うのです。」
「もし普通のものだったら、貴方は(この)災いを私に押し付けぬであろうな。」
「恩人どののおっしゃる事は重要です(→本当だと思います)。」
「(私の)言う事が重いか重くないか(本当か本当でないか)は、この物になにかしらの秘密があればわかる。」
「実際私は本当にこの物(が何か)を知らないのです。ただ私は、もし宋さまがこの物に何も秘密がないと判断されるのなら、それ(宝石)にはきっと本当に何の秘密もないのだろうと敢えて言います(→宋さまがこの宝石に秘密はないようだと言うのなら単に私の思い過ごしでしょう)。」
「私は五穀雑穀を食べる普通の俗人で、神ではない。私は他に長じるところもなく、ただ一つ良い眼力を父母が授けてくだすった。その眼力をもってついにとある(気になる)点を見出した。」
「恩人どのは何を発見したのですか?」
「このひと塊(宝石)は、墓の穴の中から取られた皇家の物だ。」
「恩人どのは本当に神だ!」

「これはやはり墓の中の物だと言うのか。」
「その通りです。姜汝成はこの(宝石)のため悪い風邪(※)にかかりました。」
「悪い風邪とは?」
「あの時の大水害で一つの無名の墓塚が崩され流されてきて、骸骨が砂浜(河岸)に(流れ着いて)現れました。この物(宝石)はまさに、あの流れ着いた骸骨から取りはずしてきたものです。」
「貴方は姜汝成が悪い風邪にかかったと言ったが、またどうしてそうなったのだ?(→どうして骸骨の話から姜汝成が倒れることになったのか)」
「あの時姜汝成はこの墓塚について事情を知っているようでしたが、彼はあれ(骸骨)を見た後、(あの時)地にひざまずき、私がまさに彼に問いただそうとした時、突然一陣の悪い風が吹いて、姜汝成は突然倒れこんでしまい、気を失ってしまったのです。」
※この時代の風邪はただの感冒ではなく死に至るほどの重病難病を指す。陰風(邪悪な風)に当たることで発症すると信じられていた。

「大水害で誰かの墓塚が流されたため、墓の中の悪い霊魂を呼び起こしてしまった(ために病に倒れた)と言うのか。」
「姜汝成がふらついて地に倒れた時、その前に一言言ってました。」
「何と言った?」
「『天よ、我が大宋を滅ぼされるおつもりなのですか!』と。」
「その流れ着いた骸骨はどこにあるのだ?」
「有姜老大人的前車之鑑(※)、地元の人は皆邪気にかかるのを恐れてます、骸骨はまだ砂浜(河岸)の上にあるはずだと思います。」
「曹墨よ、自分のために良くしなさい(ご自愛なさい)。失礼する。」
※「姜さまがあんなことになったので」という意味のはずだが…「前車の鑑」の訳がわからない。
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まだ序盤でネタバレにはならないかなという所。いたって真面目なシーンだけど
中国語で見ると玉(宝石)の事を山芋山芋言ってるのがなんだか可笑しくって。
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