錦糸町駅の北口を出て亀戸駅方面向かって10分くらい歩いたところに、松徳硝子(ガラス)さんのショールームと工場があります。
このショールームは常時訪問できるわけではなく、ネット上で案内をして不定期でオープンしているようです。
限られたスタッフで丁寧に対応するためだと思いますが、予約制となっています。
偶然ネットで見かけたので、すぐに予約して、9月6日の指定時間に行ってきました。
ショールームは、工場に隣接していて、入り口には「庄太郎」の看板が掲げられていました。
大正11年(1922年)に創業した、創業者松村庄太郎の名前だそうです。
室内はそれほど広いくはありませんが、現行商品のすべてが展示され、その場で購入することができます。
この日の私のお目当ては、いくつかの「うすはり」の酒器でした。
「うすはり」は「薄い玻璃」、つまり薄いガラスのことで、さらにやわらかさを出すために、ひらがな表記にしたそうです。
創業当時は電球の製造からスタートしたとのことで、「うすはり」はそのときの製造技術を発展させたグラスです。
電球は、室内をムラなく照らすために、薄く、しかもどの部分をとっても均一な厚さが必要です。
「うすはり」のグラスも、持つだけで割れてしまうと思わせる薄さが特徴で、特にグラスの底の薄さを出すのが難しいらしいです。
これらの酒器については、別に1点ずつブログで紹介しようと思いますが、うすはりグラスで飲むビールの口当たりは別世界です。
お店の方も話していましたが、ビールを飲むときにグラスの存在を感じさせず、ビールの冷たさがそのまま伝わってくるので、ビールそのものをつかんで飲んでいると錯覚させる特別さがあります。
ショールームを見たあとで、裏にある工場を見学させていただきました。
職人の集団が作業に集中し、素晴らしいこだわりでグラスを作っていました。
最初の工程は「玉取り」といって、吹き竿を使ってガラスのタネをとり、息を吹き込んでグラスの核になる下玉を作ります。
ガラスの量が多くても少なくても思い通りのグラスが作れなくなるので、もっとも基本的で、かつ重要な工程です。
次は、型にガラスを入れて息を吹き込み、形をつくる「吹き」とよばれる工程です。
型の内側にはコルクが貼ってあります。
そのコルクの表面は焼いてカーボン状になっています。
下玉に息を吹き込む前に、型を下の水槽に沈めて湿らせます。
水分は高熱のガラスによって蒸発し、ガラスと型の間に生じた水蒸気によってガラスは型には触れない状態になります。
そのため、表面がつるつるのグラスが出来上がるそうです。
強く息を吹き込めばガラスは型に触れ、ざらざらの表面になってしまいますし、額に吹き込む力が弱ければ、型通りに出来上がりません。
全行程の中でも最も熟練の技が必要となる作業ということです。
「吹き」が終わると、次は高温のグラスを冷やす「徐冷」の工程です。
高温の硝子を一気に冷やすと割れてしまうので、ゆっくりと動くコンベアに載せて、熱を加えながら80分ほどの時間をかけて冷やします。
コンベアの出口では、もう手で触れる温度になっていて、ここで「選別」をします。
職人の厳しい目でNGになったグラスはそこで割られてしまします。
もったいないと思ったのですが、割られたグラスは溶かして再利用するらしいので、余計な心配でした。
「選別」を通過したグラスは、「火きり」という工程に進み、ここでグラスとしては余分な部分、つまり吹き竿についていた部分が切り落とされます。
ガラス切りコップの高さに筋を付けた後、そこをバーナーで炙ると、硝子は膨張します。
そうすると、まるでふたを取るように、パカッと余分な部分が外れます。
実際にやって見せてくれたのですが、その様子は感動ものでした。
「火きり」が終わったグラスは、「摺り」と呼ばれる工程で、切った部分が磨かれ、「口焼き」という工程で、口に触れる部分が滑らかになるようにバーナーで炙ってグラスとして仕上げられます。
「口焼き」は最後の工程ですが、ここで炙り方を誤ると、これまでの工程がすべて無駄になってしまいます。
この工程を通過するとグラスとして完成するわけですが、さらに「最終検査」が行われ、厳格な基準にあっていないグラスは、ここで割られることになります。
これらの作業の様子を知って、いっそう「うすはり」グラスに対して愛着がわきました。
製造工程を知ったうえで、そこで生み出されたグラスを使って飲むお酒は格別になるはずです。
ショールームに訪れた際、見学がOKであれば、ぜひ工場を見せてもらうことをお勧めします。
東京駅のあるお店で「うすはり」を見たときから気になる存在でしたが、すっかり大ファンになってしまいました。
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