トローバは大好きな作曲家の一人です。先生も好きだったようで、よくソナチネやブルガレーサを弾いていました。
この曲のレッスンをして頂いた頃は、先生も私も広瀬ハウザーを使っていました。トローバというとラミレスのような楽器が合うような気がしますが、この曲についてはハウザー系の楽器で音色を作りながら曲を作っていったほうが良いように思います。
最初の5小節が印象的で、ここで聞き手をこの曲の世界に弾きこむことが必要です。そのために、この5小節は徹底的に指導されました。
最初の3小節はアポヤンドで芯のある、しかしできるだけ美しい音を要求されました。2小節目のファ→ミはスラーをつけ、ソはややテヌート気味に弾きます。4小節目と5小節目はあせらず、しっかりと響かせます。ここが自然に弾けて、合格をもらうまで随分かかりました。
16小節目のレ→ドのような個所は、これをどう弾くかで、セゴビアが好きかどうか、またその影響を受けているかどうかわかる部分です。
セゴビアは今ではあまり重要視されていないように思います。それはその音楽の偉大さから抜け出て新たな音楽を作るには、一度その音楽を否定し、場合によっては無視さえしなければならないほど、強烈な音楽を演奏していたからなのだと思います。
セゴビアは様式感が否定されることが多いですが、そこで奏でている音楽の魅力はどうしようもありません。ほかの楽器でも、たとえばコルトーやカザルスの音楽は、その強い個性が魅力の一つです。
様式感を大切にした音楽を否定するものではありません。作曲者の意図した音楽のしかけがあらわになる点で、様式を守り、楽譜に忠実な演奏もまた魅力的です。クラシック音楽はその楽しみ方において、とても懐が深いはずなのです。
さてこのノクターンですが、随所にキメの音を求められ、その音が理屈ではなく音楽の自然な流れの中での自分の欲求として表現できるようになるまで随分と弾きこみました。とくに先生は低音の輝きによって音楽の表情が大きく変わることを数個所の音の出し方を通して教えてくれました。たとえば26小節目の2拍目の4つの16分音符は最初にアクセントをつけ、硬い音で弾くと早い流れの中で音楽に面白さを出すことができます。
この曲は最初の5小節も大切ですが、最後の5小節も雰囲気を出すために大切です。メロディーは硬く、全体を回想するように弾き、ミ♭は十分余裕を持たせ、最後の二つのpppの和音は、はいおしまい、というちょっとサラリとした終始感が出るようにp指の腹で弾きます。
この曲のレッスンは大変だったのですが、めずらしく私の演奏を気に入ってくれ、「お金のとれる演奏」と言っていただくことができました。ただ、そう言って頂いたのは、後にも先にもこの1曲だけです。これではギターで食べていくことはできませんね。そういう現実を気づかせてくれたのもこの曲です。
(記:2002年9月17日)
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