斥候の男は土を運ぶ護衛たちの姿をしばらく見つめていた。


「斥候、お前の名は?」


やがて旦那様に名を問われると一瞬だけ目を伏せる。
「……名を名乗る資格は、もう失ったと思っていた。」
そう静かに呟き、ゆっくりと顔を上げる。

「ですが、あなたには伝えておくべきでしょう。」
彼は姿勢を正した。

「私の名は――カイル。」
「ロズノアール西方情報局所属、斥候でした。」

"でした"という言葉に、自ら区切りをつけるような響きがあった。
「今の私は国へ帰ることもできず、任務も果たせなかった一介の流浪人に過ぎません。」


ナナイはその名を静かに記憶に留める。
「カイル。」
「少なくとも昨夜から現在に至るまでのあなたの証言に、大きな矛盾は見受けられません。」

カイルは苦笑した。
「嘘をつく理由ももうありませんから。」

彼は旦那様へ向き直る。
「昨夜、命を助けられ、今日また同胞の亡骸にまで礼を尽くしていただいた。あなた方のやり方は……私が知るどの国とも違う。」

その表情には、敵意は既になかった。
あるのは、驚きと、静かな敬意だけだった。
「旦那様。」
「港町アーサーへ着くまで約束どおり同行させていただきます。その後はこの地を離れます。二度とあなた方の前に敵として現れることはありません。」

カイルもまた、何かを感じ取っていた。