「本来ならワーグを解き放ちそのまま餌にしても良かったが、この男にはそれはしたくない。
手分けして土に帰してやろう。
但し墓にはせずに偽装工作もする。
コイツ等がここで全滅したと知れれば後々面倒だからな。
セシリア!そっちの護衛を何人か回してくれっ!」

セシリアは旦那様の声を受けると、即座に前へ出た。
「かしこまりました。」

彼女は商隊の護衛たちへ向き直る。
「ガレス様、護衛の方を四名ほどお借りしてもよろしいでしょうか。敵兵の遺体をこのまま放置するのは得策ではありません。埋葬と痕跡の整理を行います。」

ガレスは迷うことなく頷いた。
「もちろんです。」
「おい、お前たち!旦那様方のお手伝いをしろ。」

指名された四人の護衛兵はすぐに前へ出る。
「承知しました!」


マリューは静かに大斧を地面へ立て掛けた。
「穴を掘るなら私が一番早いわね。」

シェリルも頷く。
「周囲の警戒は私とレンティアで続ける。まだ何があるか分からないもの。」

レンティアは林へ視線を送りながら応じる。
「了解。足跡や痕跡もできる限り自然に見えるよう消しておく。」

ナナイは倒れたロズノアール兵たちを見渡し、静かに口を開く。
「旦那様のお考えは理に適っています。この場でロズノアール兵が全滅したと判明すれば、次に派遣される部隊は規模も警戒も大きくなるでしょう。一方で彼らが任務中に消息を絶ったという形であれば、原因の特定には時間を要します。その猶予は、我々にとってもメターナ王国にとっても有益です。」

昨夜保護した斥候もその様子を複雑な表情で見つめていた。
「……敵兵である彼らをきちんと弔うのか?」

旦那様の言葉を思い返すように、小さく呟く。
「指揮官も……喜ぶだろう。」

彼は静かに目を閉じ、一礼した。
「最後まで軍人として扱ってくれたことに、感謝する。」


やがてマリューを中心に穴掘りが始まり、護衛兵たちも黙々と土を運ぶ。

セシリアは倒れた兵たちの装備や軍を特定できる書類などを一つ一つ確認し、必要なものを丁寧に回収していく。

ナナイは周囲を警戒しながら戦場全体を見渡した。

風が静かに吹き抜け、街道には再び旅人たちが通る日常が戻ろうとしていた。
しかし一行は誰も油断していない。
ロズノアールがこの地へ手を伸ばし始めた事実は、今後さらに大きな波乱を呼ぶ兆しであることを、全員が理解していた。