過去30年超に亘って日本のCPI(前年比)は米国に比べて低い。つまり、日本は恒常的に米国に比べてデフレ気味である。何故か。


 日本の貿易黒字が顕著になった70年代以降、米国は日本の黒字削減として保護主義圧力(後に、テレビ、自動車、半導体の輸出自主規制)を強めたことに加え、円高容認を要求した。オイルショック等で米国がインフレと高金利に苦しむ場面では、こうした要求受入れが日本にとり功を奏し、輸入インフレを阻止する形でインフレ抑制の成功に繋がった。


 80年代以降になると、円高場面となると日銀の公定歩合の引下げで景気浮揚策が採られるものの、バブル崩壊後も大幅な緩和政策が採られることが無かった。大胆な緩和政策を実施した場合、流動性を供給することになる故、為替は円安方向に振れる。このため、日米貿易摩擦が再燃することを当局が必要以上に警戒したのではないかと察する。このため、円高を一時的に止める程度の小出しの緩和となり、長期視座での円高受容を通じて望まない相対的なデフレを受け入れてきた。


 また、国際貿易の多くはドル建てである。従って、米国は為替の変動が経済に与える影響は日本に比べて低い。この為替変動に対する物価感応度の相違は、ドル円が購買力平価かから乖離すると、これを相殺するために相対物価変動は日本側で発生する。


 日銀の複数の委員が、金融政策運営の枠組みは、物価の安定や金融的不均衡の蓄積等の様々なリスクにも目配りできるなど「従来のインフレーション・ターゲットを進化させたものであり、最近の国際的な議論を先取りしたもの」と指摘したようだ。 http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-14455520100323?pageNumber=2&virtualBrandChannel=0


 日銀はいつからインフレーション・ターゲットを導入したのだろう?それも、従来のものを進化させて。日銀はこれまで、物価見通しをターゲットではないとしてきたはずである。それが、いつのまにか”進化した”インフレターゲットと自己理解しはじめた。


 百歩譲って、複数の委員が指摘するように、現在の金融政策運営の枠組みが”進化したインフレ・ターゲット政策としよう。であれば、本来のインフレターゲットは、そのターゲットを達成するためにあらゆる手段を講じるはずである。しかし、実際には直近の追加緩和の中身を見てもわかるように、十分な手段を講じていない。加えて、そもそもターゲット(日銀の物価見通しなのでしょうか)を達成すらしていない事実に対して何ら説明がない。


 最近、個人的に非常に歯がゆいことは、経済学の第一線でご活躍される学者の方々が、こうしたトンデモをご指摘、ご批判してくださらないことだ。日本の経済学学会はどうなっているのだろう。

 

 友愛をモットーに掲げる鳩山首相のアジア共通通貨構想はトンデモ理論の一つである。経済学以前の常識でとして、通貨が同じということは金融政策も同じとなる。その良い例が、ギリシャ問題を抱えるユーロである。本来ならば、各国の状況に応じて金融政策の舵を切りたい場面ではあるものの、ユーロという単一通貨を選択している故、独自の金融政策を行うことはできない。果たして、日本がタイや中国、シンガポールといった国々と同一通貨の下、同一の金融政策を採ることが可能であろうか?


 仮に、何らかの形で日本の円をアジア圏通貨とペグ(固定化)する場合も想定してみよう。この場合、国際経済学のトリレンマが発生する。トリレンマとは、一国は通貨の安定、自由な資本移動、自立した金融政策の3つの内、2つは同時に満たせるものの、全て満たすことができないという基本原則である(簡単に証明できます)。今、アジア圏とのペグ制の下、日本が独自の金融政策を行うとすれば、自由な資本移動は満たせないことになる。まず、あり得ないし、あってはならない。


 従って、予見しうる将来(少なくとも、鳩山政権時代)で、鳩山首相が掲げるアジア圏共通通貨構想は想定できない。また、将来も日本が採るべき選択肢ではない。