「ダンス道を行く」(2023年安東寿展先生筆)
一部抜粋して拝借・掲載します。
全文ご覧になりたい方は、ぜひ購入をお願いします。

月刊ダンスビュウ
 発行モダン出版社 編集部電話 03-5812-1056


2023年 9月号
連載68 笑顔という最高の薬
その昔「3高」という言葉が流行した。
「高収入」「高学歴」「高身長」と、女性が結婚相手に
求める条件である。
今は「3優」というのが条件だそうだ。
「家族に優しい」「私に優しい」「家計に優しい」。
【中略】
自慢話ではないが、
私の息子は今年有名国立大学の医学部に合格した。
現在、医学生として大学生活を送っている。
鳶が鷹を産んだなどと笑ったものだが、私の祖父は医者である。
安東家は医者一家であり、末っ子であった私の父親だけが
サラリーマンだった。元々祖父は私の父親が6歳の時に
他界しており、叔父たちも短命。私の父親も私が10歳の時に
39歳で他界した。
しかし、ダンス教師の私からよくここまで育ってくれた
ものだと思ったのも事実だが、大学に進学した息子の
人間性までも素晴らしくなったわけではない。
上げ膳据え膳、家庭のことなどほぼ何も出来ない。
「3優」には程遠い男が完成した。息子の合格に合わせて、
母方の叔母からこんな祝辞をいただいた。
「大病をして死をも覚悟しました。その時感じたこと。
患者に寄り添う、そんな医者になって欲しい」。
医者、弁護士、国会議員など、先生と呼ばれる方は
人格的に素晴らしいとされてしまう。
大きな病院へ行くと、個人情報保護のためと名前は呼ばず
「3057番」と呼ばれ、囚人か?と少し不愉快になる。
医者はパソコンに向き合い、血液検査の数値だけを見て、
検査に回すか、薬を出すかを判断する。
感じの悪い医者も数多くいる。
医者=人格者ではないことは事実だと思う。

立川談志が話す。
「警察官が犯罪を犯すとものすごいニュースになる。
当たり前だ。警察官は犯罪を犯さないと我々が思って
いるから。そんなことはないんだ」。
確かに、肩書きによって人間は変わるだろう。
しかし、人間性というものが変わるかといえば
そうではないと思う。以前も書いたが、人間性は
親の教育によって決まることが多い。
親の教育が、生き方を左右すると言っても過言ではない。
逆に言えば親の教育を思い出し、思いやりを持ち、
社会の役に立つように生きていけば人間性は
高まっていくのかもしれない。

私の息子が医者の卵となったことで、
私まで褒められるのはおかしな話である。
私の息子がダンサーになっていたら、蛙の子は蛙とでも
言われたのであろうか?
医者とダンサーはどちらが上なのか?
私は断言する。どちらが上でも下でもない。
医学的な根拠はないが、医者では治せないような病を
ダンスを通じて克服してきている。
ダンスコスチュームハセベの奥様は、左半身不随で
ありながら2年になるダンスリハビリを続け、
今度はクイックステップのデモに挑戦する。
練習を見ていた娘さんが「何やっているの。
飛んだり走ったり、ありえない」と苦言。
医者ならまずやらせないようなことだが、
2人で大笑いしながらダンスを踊っている。
病院行って、大笑いしながら治療している患者など
見たことはない。
「笑顔」という最高の薬を、ダンスは与えてくれる。

時にはレッスンにいらして、ずっとおしやべりを
しながら踊っているお客様。自分の病気の話、
息子の心配、嫁の悪日、孫の心配、先生への不満、
お客様同士のトラブルなど。ただ黙って踊ること
だけが私たちダンス教師の仕事ではない。
ホールドして身体を合わせ、笑顔になって
帰っていただくために私たちは踊っている。
電子カルテとにらめっこしている医者より、
よっぱど良い治療をしているように思う。
もちろん我が息子にも、患者第一の優しい医者に
なってもらいたい…。