「ダンス道を行く」(2023年安東寿展先生筆)
一部抜粋して拝借・掲載します。
全文ご覧になりたい方は、ぜひ購入をお願いします。

月刊ダンスビュウ
 発行モダン出版社 編集部電話 03-5812-1056

 

2023年 8月号
連載67 幸せの対価
「キャバレー」とは、
ダンスやショウなどを見せる舞台を備え、
食事などが出来る店の事である。
日本におけるキャバレーとは、
第二次世界大戦後の復興期に現れ、
ホステスという女性従業員が
接客をするお店で、ダンスホールを備えていた。
つまり、社交ダンスをホステス相手に
踊る店という事である。
昭和40年頃に大流行し、おさわりなどの
お色気サービスも含まれた。
我々が知っているキャバレーは、
どちらかと言えば、ホステス相手の
お色気商売ではないだろうか。
その後、「ナイトクラブ」の登場もあり、
キャバレーは下火になっていく。
そして昭和52年に公開された映画
「サタデーナイトフィーバー」によって、
デイスコブームが巻き起こる。
しかし、「カラオケ」の登場により、
ダンスを踊る店も下火になっていき、
現在では、カラオケボックスなどが
娯楽の中心ではないだろうか。

僅かに、キャバレーとクラブが合わさった
「キャバクラ」が、そうしたお店の名残であろうか。
一方、男性従業員が女性を接客する場所を
「ホストクラブ」という。
残念ながら行った事はないので
どんな接客をするのかわからないが、
キャバレーの話の流れでいけば、
ホストクラブの発祥は、男性従業員が
女性のお客様とダンスを踊る場所、
つまリダンスホールだったのだ。
女性従業員が男性のお客様と踊る場所が
「キャバレー」で、男性従業員が女性の
お客様と踊る場所が「ダンスホール」。
戦後、ダンスホールは都内だけでも銀座。
新宿・池袋などの繁華街にたくさんできたが、
やがて少なくなり、ホストクラブに変わって
現在も多く存在している。

社交ダンスが長年、風俗営業とされていたのは、
このような背景があったから。
私の親世代が、社交ダンス教師をホストと
みなすのは、こういった背景があるからだと思う。
ただ接客業というのは、お客様と
直接コミュニケーションをとり、
お客様をもてなす仕事である。
もてなすとは、心からお客様を歓迎する
気持ちを込めて丁重にお相手をする事であり、
決して悪く言うものではない。

接客の7大用語が、「いっらしゃいませ」
「少々お待ちください」「かしこまりました」
「お待たせいたしました」「申し訳ございません」
「恐れ入ります」「ありがとうございました」とすれば、
現在、お客様に対してこのような言葉をしっかり
使っている教師は、どのくらいいるであろうか?
私? 私もダメである。
確かにキャバレーやダンスホールとは違う。
しかし、ダンスを教える仕事だ、と言ったところで、
接客業に変わりはない。お色気サービスは当然ないが、
お客様に誘われて食事に行く教師も少なくない。
お客様から贈り物をいただくこともあるだろう。
またお客様にしても、どこか我々の事をホスト、
ホステスと勘違いしている方もいらっしゃるのでは
ないだろうか?

レッスン代金とは、我々教師がお金を払って得た
技術を提供するのであるから、その元手を
回収するのは当然、という意見もあるだろう。
確かに一理あるようにも感じるが、では食事に
行くときに、そのシェフがどのくらい修行をし、
お金をかけてきたかで料理の値段が決まっている、
と考えるだろうか。そんな人は皆無である。
美味しいか美味しくないか、それによってどれだけ
幸せになれるか、で決まるのが値段である。
接客される側に立つと、もてなされる幸せの対価に
代金がある事に気がつく。競技会の成績によって
レッスン代金が決まるような現在のシステムを
受け入れてくれるお客様は、本当は圧倒的少数
である事を我々は理解しなければならない。

「先生に頑張ってもらいたい」「先生に大切にされたい」。
そういうお客様の言葉に、長年ふんぞりかえってきた
ダンス業界が、成長するはずはない。
多くのダンス愛好家が長年、ダンスのレッスン代金は
高いと訴えているのに、どうして安くならないのか?
現在、プロの競技人口も減り、デビューすると
あっという間にB級だ、A級だとなってしまう。
お客様もほとんどいない教師が、どんどん金額を
釣り上げて、その先に発展があるだろうか?

このコラムの1回目にも書いたのだが、私は何度も
教室の立ち退きに遭い、多くの借金をした。
そのとき、弁護士さんに言われた言葉が、
「お客様は教室の財産です。お客様を増やす努力が、
教室の財産を増やす事である」。
そこで、一気に低料金化を実現させた。
競技会の成績ではなく、教師自身の人間的成長によって
料金を設定してきた。当然、うちの教師は、
今でも不満を言うが…(笑)。でも、あそこの教室は、
いつもいっぱいお客様がいる。だから行ってみよう。
いつでもそうありたい、と思っている。
今一度、接客の原点に戻り、ダンスでお客様を幸せにする。
その幸せの対価がレッスン代金である事を考えるべきである。
幸せがたくさんあれば、大きな収益となって返ってくるだろう。
先日、99歳でお亡くなりになったお客様。
10年前からレッスンにはいらしていませんでしたが、
そのご家族から、「母の幸せなダンスライフを
ありがとうございました」と言葉をいただいた。
自分がお役に立てた。人を幸せにする事で、
自分も幸せになれるのではないだろうか。