ある時、シレットは無理がたたったのか、身体に不調をきたし始めた。
それは、小さい不調和から始まった。
朝がなかなか、起き上がれない。
仕事へ行く気が起こらない。
着飾りたくもない。
店主にも、お客様にも、誰とも会いたくなかった。
それでも、心を律して、職場へと向かう。
まだ残していた魂の繊細さが邪魔で、自分で蓋をした。
なくなったものは、魂の繊細さだけではなかった。
クリスタランドから持って行った石たちは、シレットの売り上げがとても落ちこんだために、
「家賃」として店主から一つずつ、回収された。
「もっとやる気を出せ!」「怠けずに、頑張れ!!」と、そのたびに一言ついてきた。
クリスタランドから持ってきた石たちは、直接触れ合わなくても、
近くに居るだけで、シレットを助けてくれていたが、
それがなくなることで、夜も安心して眠れなくなってしまった。
どんどん、シレットが自分に蓋をするには好都合な環境になっていった。
シレットが今までの給与で買った、煌びやかな服飾品たちが、急に色あせて見えてきて、
まるでガラクタの部屋に居るような気持ちになってきた。
心に蓋をすれば、一瞬楽になるものの、長期間かけて、だんだん身体が重くなっていく。
自分の心がうまく感じられなくなっていた。
外の反応しか、目に入らない。
周りの評価こそが、自分そのものになっていった。
評価こそが、自分そのものだというのに、
目に見える現実がどんどん、理想に追い付かなくなっていく。
思うように早く動けない。
身体のどこかが痛む。
上手に笑顔が作れない。
食欲が落ちて、体重もずいぶん軽くなったようだった。
体重は軽くなるのと反比例して、身体はどんどん重く感じた。
身体が重く感じれば感じるほど、売り上げは落ちていった。
おかげで周囲からは、妬まれなくなったが、馬鹿にされるようになった。
店主からは厳しく注意され、成績が上位の者に馬鹿にされて・・・
始めこそ、悔しかったものの、シレットは気が付いた。
馬鹿にするような態度をとる同僚と、少し前までの自分は、同じだった。
「私も、同じことをしていた。あれが、私の姿だったんだ・・・・。」
打ちのめされる気持ちになった。
”友達”だと思っていた人間たちは、離れていった。
その代わり、静かに遠くから見守っていたセラフィムが、いつの間にかそばにいて、そっと支えてくれたりもした。
シレットが自分でもわかるくらい、冷たく接していた事もあったのに、そういう事を気にも留めず、助けてくれる。
「セラフィムさん・・・私は、あなたに、ひどい態度をとっていたというのに・・・・
なんで、あなたは、私なんかに、優しくしてくれるの?」
「シレットさん・・・ずっと、無理をしていたでしょう?
なかなか、話しかけることが出来なくて、ごめんなさいね。
あなたは、本当は優しい心の人だと解っていたんだけど。。。
一時期は、きっと話しても解ってもらえないんじゃないかと思って、話しかける勇気がなかったの。
怖かったのよ。ごめんなさい。」
シレットは、クリスタランドで「怖い」と思われたことは一度もなかった。
「怖い」と言われたことが、すごくショックだったけど、今になって思い返してみれば、
自分はきっと怖かったに違いないと思う。
そして、自分が絶好調の時にセラフィムがあれこれ教えてくれたとしても、
「余計なお世話」として取り合わなかっただろう。
「セラフィムさんは、間違っていないわ。謝る必要なんて、ないです。
悪かったのは、私・・・本当に、ごめんなさい。」
シレットが頭を下げるのを見て、セラフィムは驚いたように目を丸くして、首を振った。
その様子が、白馬のスイットと重なって、シレットは無性にスイットに会いたくなった。
「あぁ・・・スイットに、会いたい・・・・」
「私が見ていたものは何だったんだろう・・・・」
「人の価値は、私の価値は、なんなんだろう・・・・・」
シレットは、何のために自分が働いているのか、解らなくなってきた。
解らないながらも、もう一度、あの「成功」に向かって、突き進むしかなかった。
それこそが、「正解」に違いないのだ。
セラフィムと接して、自分の心が少し取り戻されてきているのを感じたぶん、
今まで通り頑張ることは、前以上に難しかった。
どこか、バランスがおかしくなってるのは感じながらも、そこに意識を向けず、
時々痛む身体と心に鞭を打って、必死で働き続けた。
そんな時、シレットの目の前に、思いもかけない人物が現れた。