その様に

将来の夢も希望なども

殆ど全く持ち合わせては

居ない様な、そんな惨めな

自分自身の結婚で有っても

しかし、私はまだ完全には

諦めては居ませんでした。 


どうにかして

この地獄の2丁目の様な

光を見い出せ無い結婚にも

やがて終止符を打つ時が

必ず来るだろうと私自身は

固く信じても居たので

まさに武田信玄の『風林火山』

の如く、その時が来るまで

色々と作戦を練りながら

虎視眈々とじっとその機を

待つつもりで居ました。


その様に

一旦、腹を決めてしまうと

悲惨な被害者的な意識も

多少は薄らいで来て

逆に自身の結婚式自体も

神聖な祝事の儀式と云うよりは

ある意味エンターテイメントな

ビッグイベントの一つとして

それこそ内輪で行なう

単なる大掛かりな宴会の催し物

と云った、本当に形だけの

モノだと割り切ってしまうと

私自身もこの結婚式に就いては

完全に開き直った心境で

受け入れる様になりました。


そして

12月で二十歳を迎えた

その翌年の五月の下旬には

いよいよ結婚式の当日を

迎える事となりました。


しかし

私としては何故か

緊張感などと云うモノは

全く感じる事も無く、それこそ

式場へ出発するギリギリまで

本当に良く眠る事が出来ました。


そしてまた

家族の皆んなにしても

つい先月の4月にも

長姉の芽衣子の結婚式が

やはり同じホテルの式場で

執り行なわれたばかりと

云う事も有り、とっくに

リハーサル済みで準備万端

だった為に心配する事も無く

誰も緊張などして居る様子が

見受けられませんでした。


ところが

そんな家族の中でも

何故か一人、父親だけは

なんだか落ち着かない様な

ソワソワした様子だったので

やはり、この父親もそれなりに

お嫁に行ってしまう娘との

ある意味では本当の別れに

何やら動揺を隠せ無い様でした。


この様な

父親と私の関係性とは

親子と云う様な、そんな

当たり前の単純なモノでは無く

それこそ、私にとっては

自分を守ってくれる存在の

親と云うよりは、ある意味

全く逆の存在でした。


それは寧ろ

お互いの立場的にもアベコベで

この父親が仕出かす不祥事は

なんだか私が後始末をする

責任が有る様な、なんとも

理不尽極まり無い、まるで

負い目の様なモノを当然の

事の様に家族からは負わされて

育てられて来たので、まさに

コレは父と云う存在では無く

出来の悪い兄や弟と云った

まさしく切るに切れない

腐れ縁の様な存在として

捉えて居たのでした。


それでも

この様な父親が

例えどんな事をしたとしても

私自身、呆れたり哀れむ事は

有っても、何故かこの父親を

心の底から憎むと云う事は

有りませんでした。


しかしながら

この様な父親が

嫁入りする娘に対して

その当日に、まるで

テレビドラマか何かの様に

何か気の利いた殊勝な事を

一言だけでも声掛けするとは

全く端から期待もして居ないし

ましてや、お互いに改まって

そんな父娘ごっこの様な事など

する柄でも有りませんでした。


ところが

どうしたワケか

この日の父親は本当に珍しく

いつもとは違って活気が無く

寂しさか多少の緊張のせいか

些か大人し気で、まるで

しょぼくれて居る様にも

感じたのでした。


しかし

その様な父親の姿を見ると

私自身としては、それが

なんだかわざとらしく感じ

また、どうでもいい様な

取るに足らない些細な

事の様にさえ思えて、つい


「この人はまさか本気で…

まともに『花嫁の父』の様な

感傷に浸ってるんだろか?

ふん、アホらしい…」


と、どこか冷たく

突き放す様な気持ちだけが

起こって来たのでした。


この様に

私がこの父親の事を

良い父親では無いと

認識して居たとしても

とにかく、この家の中では

私とこの父親ダケが言わば

連帯責任の関係で有り

常に一括りのチームの様な

存在として扱う様な感覚が

実際にこの家族の間では

成り立って居たので、いつしか

私自身もそれに従う様に

過ごして来たのでした。


しかしそれも

妹が亡くなった時点で

ハッキリと、その様な

無茶苦茶なシバリからは

自分自身もきっと次第に

開放されると云う様な

そんな気もして居ました。


と云うのも

敢えてその様な

家族から押し付けられた

馬鹿げたシバリに

私自身が堪えて来たのは

なんと云っても、妹には

そんな理不尽な辛い思いを

させたく無かったので

この様な父親の実娘としては

妹と私の二人では無く

私一人が無理矢理負わされた

カルマの様な責任を

取ればいい事だと

思って居たからでした。


ところが

その妹も亡くなり

厭々ながらも一応は

私もお嫁に行く身となった事で

逆に実家で両親と同居生活を

するよりは確かに、俄然

この様に長年に亘って

絡み付いたシガラミからは

抜け出し易くはなったので

やはり今後の事を考えると

喜久雄との、この結婚自体も

取り敢えずは良しとするべきだと

自分自身を無理矢理にも

納得させて居ました。


この様に

本当に致し方無く断腸の思いで

私としては初婚で有る結婚式を

迎える事となりましたが

やはり、なんと云っても

一向に気が向か無いせいなのか

なんとも、まだうら若き

二十歳の花嫁で有るにも拘わらず

後頭部に有った私の円形脱毛は

卵を更に一回り大きくした程まで

広がってしまったのでした。


そして

その為に、なんと一週間前に

カツラ合わせに来た時には

ピッタリと合ったカツラが

それこそまるでサイズが

全く違うかの様にグラグラで

おまけに頭を上下に動かすと

カックンとカツラが見事に

ズレてしまうと云う、なんとも

往年のドリフターズの定番の

ギャグの様な状態でした。


しかし

さすがに結婚式の当日で

しかもまさに、その直前では

他のカツラを探して合わせる

時間などは全く無いので

仕方無く、そのカクカクする

ギャグの様なカツラのままで

結婚式をする事になりました。


そして

それこそ私以上に

なんとも気の毒だったのが

着付けやメイクをしてくれた

係りの方達で、おそらく

この人達にしてみても

まさかこの僅か一週間と云う

余りにも短い間で、これ程

カツラが合わ無くなるケースを

経験した事などは無く、しかも

本来ならば夢の様な結婚式の

ハレの日にカツラが合わ無い程

円形脱毛の症状が進んで行って

こんなにも髪が抜け落ちて

しまった哀れな私に対しては

本当になんとも声の掛け様が

無いと云った様子でした。


「お、お客様…あの…

だ…大丈夫ですょ…

ほら、こうして…

ずっと下の方を向いて…

上さえ向かなければ…

ね、そんなにカツラが

ズレたりしませんから…」


「そ、そうですよ…

そ、それに、花嫁さんは…

真っ直ぐには前を向かずに、

常に下の方を向いて

居るものですから…

…そうして居れば…

ね、きっと大丈夫ですよ…

…それに、私どもが常に

側に居りますから…

安心して下さいね…」


「そ、それに…なんと云っても

お衣装替えで、ドレスに

お着替えする迄の間だけ…

その間だけですからね…

ホント、心配は要りませんよ…」


この様に

皆んなが一生懸命に

慰める様に励ましては

くれましたが、しかし

その表情にはハッキリと

私に対する同情と、それに

なんとも居た堪れない様な

気持ちが、彼女達の些か

引き攣り気味の笑顔に

見えて居たのでした。


そして

実際、私自身も

この時に対応してくれた

この係りの皆さん達には

心情的にも余計な心配や

気を遣わせてしまって、本当に

気の毒な事をしたと云う

申し訳無さの気持ちと、また

その様な心遣いが暖かく

身に沁みて有り難かったと云う

感謝の気持ちで一杯でした。


そうして

その様な気持ちが

作用したのか、その後の私は

動揺も緊張感も全く無く

それよりもまるでドラマの

ワンシーンか何かに出演する

演者の様な感覚で、ここで

見るもの聞くもの、そして

更には自分の言動の全てが

なんだか撮影のセットの中の

出来事の様な感じで、まさに

この結婚式自体が、全く

本物の様な気がしては

居ませんでした。


ところが

この様な花嫁に対して

初の仲人と云う大役を

する事になった叔父夫婦だけが

端で見てても可哀想なほど

カチンコチンに固まって居て

余りの緊張感に終いには

具合でも悪くなって

しまうのでは無いかと

思うほどで、全く仲人役の

この叔父夫婦の方が

私や喜久雄なんかよりも

余っ程しおらしい新郎新婦に

見えるのが、なんとも可笑しくて

やはりココでもギャグの様に

感じてしまうのでした。


こうして

形式的な神前での

結婚の儀式も済み、その後

披露宴でも一通り堅苦しい

新郎新婦の紹介や主要な

招待客などの挨拶も、そして

乾杯も済んだ後、暫く経ってから

やっと衣装替えになり

私も喜久雄も和装から洋装へと

着替える事になりました。


これで

漸く、頭からズレる

カツラの心配の無い

洋装のドレスに着替えた私は

高砂席のひな壇に座って居る

私の前に『ご挨拶代わりに』

と言ってビールやお酒を持って

お酌をしてくれる有り難い

招待客が来ると、なんの躊躇も

せずに直ちにグラスを傾け

いよいよ本領発揮の時が来たと

言わんばかりに、その注がれた

お酒は全て飲み干して居ました。


そうすると

まだ緊張して

隣りで固くなって居て

出された料理にも殆ど

手を付けられ無かった様な

仲人役の叔母が心配そうに

私に促しました。


「サーコ、あんた…

そんなに飲んで大丈夫かい?

酔っ払っちゃわ無いかい?

そんな…お酒を注がれたって、

あんたは花嫁さんなんだからね…

別に無理して全部なんか

飲まなくてもいいんだよ…!」


「へ?あぁ…大丈夫よ、叔母さん!

これぐらいじゃぁ、全然、

酔っ払ったりしないから!

しかも、喉が渇いてて

こんなんじゃ、足りないぐらいよ、

アハハハハ〜!」


この様に

私が笑顔を見せながら

お酒の入ったグラスを

片手に豪快に答えると

叔母は驚いたのと呆れたの

とが混じった様な苦笑いの

顔をして黙ってしまいました。


そしてまた

この私達の披露宴では

お酒を飲む事を主にした為に

ウエディングケーキや

ケーキカットなどは無しにして

 代わりに酒樽の鏡開きをして

枡酒を振る舞い、その他にも

ビールやウイスキー焼酎など

お酒をふんだんに用意したので

直ぐにも皆んなほろ酔い加減に

なって居ました。


更には

この披露宴では

私側の招待客も、そして

喜久雄側の招待客も

それぞれが皆んなビールや

お酒を持ってお酌をして

回りながら、交流を図って

居たので、皆んなの親密度が

増々上がるに連れて、一層の

盛り上がりを見せて居ました。


すると

ひな壇の横に設置された

マイクスタンドでは

挨拶の後に歌を披露する

招待客や身内なども

徐々に増え始めて来て

誰かが歌う度に皆んなが

一斉に拍手喝采となり

この会場が更にもっと

和やかで楽しい雰囲気に

なって行きました。


ところが

この場が余りにも

いい雰囲気で、更に楽しさが

増して来ると、増々皆んなも

『飲めや歌えや』と云った

完全にお祭り気分満載となり

そうなると、もういよいよ

結婚披露宴など何処吹く風か

この会場の誰しもが皆んな

お待ちかねの『カラオケ大会』

へと突入して行ったのでした。






続く…






※新記事の投稿は毎週末の予定です。

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