こうして
私達3人は無事に
アパートに帰り着くと
やはり姉の美奈子が
可なり心配そうな面持ちで
直ぐにも玄関まで
出迎えに来ました。
「やだぁ…ちょっと、アンタ達…!
随分と遅かったじゃないょ…!
全く…午前中に出て行った切りで、
何の連絡もし無いでサぁ…
こっちは、アンタ達が鉄っ切り、
向こうで、なんかされてんじゃ
無いかと思って…もう、それこそ
気が気じゃ無かったんだからね!
全く、電話ぐらいしてよねッ!?
…ところでサぁ…どうだったのょ?
ホントに向こうでは…アンタ達、
大丈夫だったの?
ちゃんと上手く行ったワケ…!?」
「うん、美奈子ネェ…
勿論、大丈夫だったワよ!
だって、私達はサぁ…別に…
お金を払いに行ったダケだし…
ねぇ、2人共…!?」
「え?…あぁ…まぁ…
そうだょな…喜久雄…」
「ん?…ぅん…そうだよ美奈子ちゃん、
別に俺達は、大丈夫だったよ…」
この様にして
私は、とにかく
心配して居た美奈子の
不安を取り除く為にも
透かさず当たり障りの無い様に
答えると共に、直ぐ様
この2人の兄弟にも話しを
合わせる様に促しました。
「でもサ…だったら、なんで、
こんなに時間が掛かったワケ〜!?
そんな支払いするダケで、
こんなに時間が掛かるなんて…
そんなの絶対に変じゃない !?
大体サぁ…こんな時間まで、
アンタ達は一体、向こうで
何をしてたのよッ!?」
そこで
私が時計を見ると
なんと昼などは、とっくに
過ぎてしまい、殆ど夕方近くに
なって居たのでした。
「あぁ…それはね、美奈子ネェ…
実は、向こうに行ったんだケド…
でも、そこのマスターが、
まだ店に来て無くてサぁ…
それで、ずっと待たされてたのよ…
つまり、その店の支払い関係は、
一切、そのマスターがしてるから、
結局、マスターが来ないと
全く何も分から無いからって…
そう言われてサぁ…
それで、しょうが無いから、
そのマスターが来るまで
私達も店の中で座りながら、
ずっと待ってたってワケなのよ…
ねぇ、そうよね…2人共… !?
でも、なんかサぁ…店の方でも
そのマスターとは全然、連絡が
取れ無かったみたいなのよね…
それでサ、私達も…ホ〜ント、
こんなに随分と待たされたって、
そう言う事なのよ…!」
「ふ〜ん…なんだ…そうだったんだ…
でもサ…それなら、それで、
こっちに電話の一本ぐらい、
くれたって、いいじゃ無いよッ!?
だってサぁ…3人共、昼前に
出てった切りで、それこそ
全く連絡も何にも無いし、
全然、帰っても来無いから…
こっちは、どんだけ心配した事か、
ホントに分かってんのッ!」
「そうか…そうよね…
私達は美奈子ネェの事を、
スッカリ忘れてたヮ…
ホント…ゴメン、ゴメン!」
「…ったく…アンタ達ったら…
ホント、3人も揃いながら…もう、
全く、しょうが無いんだから…!
ソレはそうと…ところでサぁ…
向こうでは、どうだったのよ?
だって…喜久雄さんが昼前に
昨晩、追っ掛けてた来た
店の連中に捕まったからサぁ…
それで、パパ達も呼び出されて
そこに行ったワケじゃない?
だから…そのマスターが来た
その後は…一体、どうなったのよ…?
…やっぱ…アレなんでしょう…?
つまり…ウチのパパが、その場で、
なんとか上手く話しを付けて
くれたんでしょうッ!?」
この様に
美奈子は目を輝かせながら
夫の多喜雄の方を向き直し
そして、嘗て若い時には
それなりに、多喜雄自身が
ヤンチャをして居たと云う事を
聞いて居たので、それこそ
全く疑いの無い眼差しで
様子を見ながら多喜雄の返事を
待って居たのでした。
ところが
ダイニングテーブルの
椅子に座って居た多喜雄は
美奈子の方は見ずに
目線を前の方に落としたまま
ボソッと呟いたのでした。
「…いや…別に…
俺は何にもして無いよ…」
「え?…な、なんで?
なんで…パパは何にもして無いの?
そんなの…変じゃ無いッ!?
それじゃぁ…一体、誰が…
誰が話しを付けたって言うのよッ!?
全く…なに言ってんの…?
もう、そんな事言っちゃって…
ホントは、ちゃ〜んと…パパが
話しを付けたんでしょッ?
だって…ソレしか他に考えられ無いし…
それにサ、そんな事が出来るのは
ここには…パパぐらいしか
居ないじゃ無い…?
ねぇ〜、そうでしょッ!?」
「いや…だから…
俺はホントに、何にも
して無いんだよ…」
「え〜!? じ、じゃぁ…一体、誰が…
いや、それよりも…そんじゃぁサ、
パパは、そこで何をしてたの…?」
「…別に…座ってたダケだよ…」
「ぇえ!?…座ってたダケ…?
なんで、座ってたダケなのよ…
まさか…それってホントの事なの…!?」
そこで
美奈子は不審感を
募らせた様な顔で私達の事を
見回しながら、必死に
返事を求めていたのでした。
「あ、いや…だからソレは…
つまりね、美奈子ネェ…
とにかく、私達が行った時、
その店で随分と待たされたからサぁ…
それで…なんか向こうも、さすがに
悪いと思ったんじゃ無いの…?
こっちもサ、マスターが来たら
直ぐに、昨日の伝票の見直しと
それから、ちゃんとした金額を
計算し直して貰ったのよ…
それに、ほら、コレ…
精算した後は、一応こうして
ちゃんと支払った証拠として
領収書まで書いて貰ったし…
そこで、帰って来たってワケなのよ…
だからサ、ホント…別に、そんな…
大した事じゃ無いのよ…!」
こうして
それこそ余計な事など
一切、言え無いで居る
多喜雄の代わりに、途中からは
助け舟を出す様にして
私が入り込み、美奈子には
如何にも事実に思える様な事を
色々と並び立てながら説明しました。
しかし
それでも美奈子は
何だか納得が行か無い様な
いぶ傾げな面持ちで、まるで
本当かどうか確かめる様に
傍らに座って居る私達3人の顔を
じっくり次々と見て居ましたが
そこで暫くすると
「ふ〜ん…なるほどね…
なんだ…そうだったのかぁ…」
と明らかに
ツマラナそうに言うと
もう、それ以上は聞かず
なんだか仕方無く自分自身を
納得させて居る様でした。
こうして
漸くコレで、一応
この問題は一件落着と
なりましたが、しかし
それでも、更なる別件として
それなりに厄介な問題も
存在して居たのでした。
それは
この美奈子自身が
今回の件では自分が
期待して居た様な完璧な
シナリオを思い描いて
居たからでした。
そこで
当初から、その事を
薄々、気付いて居た私は
当然ながら、この2人の兄弟には
本当の事を絶対、美奈子にも
誰にも口外し無い様にとキツく
約束させて居たのでした。
と云うのも
この2人の男達では
やはり、あの店での問題を
完全に自分達で解決する事は
出来無いだろうと、予め
予想して居り、そこで
私もワザワザ多喜雄と一緒に
同行して居たからでした。
そして
その時点で私は既に
帰宅した際には、やはり
この美奈子からは当然の如く
夫の多喜雄の勇敢な態度や
対応によって、この厄介な問題を
難無く見事に解決する事が
出来たのだろうと云った事を
ただ確認の為に聞かれるのを
端から予想して居ました。
こうして
まさに、それは
全く私の予想通りの展開となり
そうなると当然ながら私達3人は
いよいよ、この美奈子に対して
本当の事など絶対に話せない様な
状況となって居たのでした。
そして
私自身としては
この様にして頑なに
真実や事実を他言厳禁と
徹底したのには、それなりに
考えが有っての事でした。
それは
この2人の兄弟が
今回の事では、まさに
男として、また年上としても
全く役に立たず、如何に
不甲斐無かったかと云った
余りに不名誉な事実を隠したり
する為では無く、それは
あくまでも、偏に姉の美奈子の
思いや期待を裏切ら無い様に
する為でした。
ところが
この美奈子自身は
そんな事とは露知らず
それこそ長い時間、私達の帰りを
ただ、ひたすら待たされて居る間に
それこそ、不安な気持ちを
紛らわせる為にか、それこそ
自身の想像力をアレコレと
働かせて居たのでした。
それにより
多分、美奈子は
多喜雄がなんとも果敢に
敵地に乗り込み、しかも
そこで捕らわれの身となって居た
実の弟を無事に救い出す様な
まさに、そんな夫の頼もしく
活躍する姿を、まるで
『弱きを助け強きを挫く』
ヒーローのように描きながら
待って居た様でした。
ところが
実際、現実には
誰も予想だにし無い様な事が
あの店では繰り広げられて居たので
いくら説明しようにも、それこそ
当事者で有る、この2人自体が
そもそもハッキリと全てを理解して
居たワケでは無かったので
ちゃんと上手く、事の詳細を
話す事など無理だったのでした。
続く…
※新記事の投稿は毎週末の予定です。
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