こうして
私が別れたいと
思って居る事を、ハッキリと
自ら言い出す事も無いまま
ただ、ひたすら喜久雄には
その事を察して欲しいと
願うだけの、この密かな計画は
結局のところ、叶わず仕舞いでした。

そして
実際、喜久雄からは
私が何を考えて居るのかと
問い詰められても、私としては
何と言って答えればいいのか
分からず、それでも取り敢えずは

「私達はなんだか合わない気がする…」

「だから…なんか、この先もずっと
一緒に居るのは無理だと思うから…」

と言って、とにかく
喜久雄と別れたいと云う様な
事をひたすら匂わして居ました。

しかし、その度に喜久雄からは

「そんな事は絶対に無い、
それはサーコの思い過ごしだよ!
だから、もし…何か気になる事が
有るなら、何でも言って欲しい…
それに…言って置くケド…俺は…
サーコとは絶対に別れたく無いし、
別れるつもりも無いからね!」

と、私の考えなどは
全く否定された上に、更には
絶対に私とは別れないと云う
宣言までされてしまいました。

そしてまた
私のその様な、突然の変わり様に
何か不穏なモノを感じたのか

「もしかして…サーコは…誰か
他に好きな人でも居るの…?」

と、些か不安そうな
面持ちで聞きながら、その事を
仕切りに気にして居る様でした。

そして
勿論、その時の私は
ハッキリと、そんな人は居ないし
その様な問題では無いと云う事を
喜久雄には告げました。

ところが
喜久雄に対して
そうは言ったものの
実は、少し前辺りから
私の会社の同じフロアーで
働いて居る人の事が、少々
気になって居たのは事実で
しかもそれが、また偶然にも
なんと喜久雄とは同い年の
人だったのでした。

そして
その人の会社と私の会社とは
共同会社だった事も有り、勿論
同じフロアーだったので、当然
私達は毎日の様に顔を合わせては
挨拶をしたり、多少の言葉を
交わす事も有りました。

しかし
そんな折に、丁度
会社の合同の飲み会が有り
私としても、是非にもこの機会に
その人と少しは落ち着いて
話しをする事が出来ると、内心
とても楽しみにして居ました。

そして
その飲み会では、漸く
雰囲気も落ち着いた頃に
いよいよ、何気無い素振りで
私がその人の隣に座って
話し始めると、いつしか
何かの話の流れで、何となく
その人の生い立ちの
話しになりました。

ところが
その話しを聞いた途端に
なんと、私は呆然として
一瞬、固まってしまいました。

と云うのも
まさに、その話しの内容が
その人自身は異母兄弟の
末っ子として育ったと
教えてくれたからでした。

しかも
何故、そこまで私が
驚いてしまったのか…
その理由と云うのは、まさに
その人自体が、まさしく
この時に付き合って居た
喜久雄と殆ど同じ様な
境遇だったからなのでした。

この余りにも奇妙な
偶然を目の当たりにして
私は驚きと云うよりも、なんだか
ある種の、恐怖にも近い様な
まさに贖い切れない…運命の様な
モノを感じてしまったのでした。

つまり
私自身が『付き合ってみたい』
と感じる様な…思いを寄せる
相手は、何故か必ず皆んな
殆ど同じ様な環境や境遇に
身を置いて居ると云う
事だったからでした。

しかし
この様な奇妙な事実に
遭遇したのが、それ迄に
まだ、たったの2回だけ
にも拘わらず、その奇遇さに
驚愕してしまったのも、実際
それは私自体が、そもそも
同じ様な生い立ちだと云う
理由が有ったからなのでした。

そして
現に私自身、この喜久雄との
初対面では、何故か好印象を
持って居なかったのに、それが
次第に喜久雄に惹かれて行った
理由と云うのも、何と言っても
まさに、とどの詰まりは
喜久雄と私との生まれ育った
境遇がお互いに似ていた事に
他なら無かったからでした。

実際に
私自身も異父姉妹として
育って来て、小さい頃から
父親の数々の所業や、それ以外の
家庭内の事などでも、それこそ
色々と言うに言われぬ様な
辛い思いや、悩みなどを
抱えて過ごして居ました。

しかし
それでも、自分自身の
家庭内での事などは、絶対に
誰に言う事も無く、ましてや
易々とその様な事を相談したり
また実際に、そんな事を話せる
相手などは全く居なかったので
当然ながら、この様に幼い頃から
いつも、たった一人で悩んでは
こうして、私自身では到底
解決する事が出来無いと云う事
自体に対しても酷く無力さを感じて
苦しんで居たのでした。

そして
そんな幼い頃の私が
この家族の一員として
唯一、出来た事…それは
その場の皆んなの目の前の
その辛い出来事が、出来るだけ
消えて無くなる様に、そして
出来れば忘れてしまえる様にと
その場の雰囲気をフッと
切り替える為にも、私自身が
敢えて、逆にワザと明るく
振る舞って居る事だけでした。

それが
例え、私自身が
家族の皆んなからは
バカにされたり、蔑まれる
事が有っても、それでも私は
常に顔は笑ったままで、まさに
お笑い芸人の様に、それこそ
必死になって、一生懸命に
オチャラケながら、皆んなの
笑いを取ろうと、懸命に
努力して居たのでした。

更には
その場の雰囲気が、それ迄の様な
重い空気に引き戻されない様にと
恐怖と不安に苛まれながらも
そんなビクビクする幼い心を
ただ、ひたすら隠し続けて
まさに、それこそ哀れな
ピエロを演じて居たのでした。

この様な環境で
育って来た私にとって
その当時の唯一の望みと云えば
せめて、ただ私自身の心の痛み…
心の傷を優しく包んで、そっと
理解してくれる様な人が
目の前に現れる事だけでした。

そして
この様な境遇の私自身の
相手になる人自体が、やはり
私と同じ様な経験や体験を
して居る事が、何よりも
お互いの痛みや傷を容易に
理解する事が可能で有り
更には、自分だけでは
中々得られ無かった様な
本当に奥底の深い傷の癒やしが
それこそ、徐々にお互いで
癒やし会う事によって、それが
可能になると思ったのでした。

そしてまた
私自身も、『自分自身を癒やす』
と云う事無しには、現実に
本当の自分の幸せを感じる事は
出来無いと云う事を、何故か
潜在的にも分かって居たのか
結局、その様に自分と同じ様な
境遇で育って来た様な相手を
偶然にも次々と引き寄せて
居たのでした。

こうして
この様な、ある意味
それこそ、必然とも云えるべき
奇妙な巡り合わせに因って
引き合わされた様な『その人』が
喜久雄と殆ど同じ様な境遇で
しかも、更には年齢までもが同じ
と云う事が明らかになった事で
私自身としては、ある意味
観念せざるを得ない様な
心境にもなって居たのでした。

そこで
もう、その人の事は
些か心残りでは有りましたが
それでも、やはり、それ以降は
例え、その人に興味を引かれる
様な事が有ったとしても、私自身は
諦める事を決心したのでした。

それは
私にその時点で与えられた
『運命のカード(或いはカルマ)』
が、異母兄弟や異父兄妹と云う
複雑な境遇や環境で育って来た人との
関係性を体験、経験して、それこそ
自分自身でもなんだか分から無い
何かをクリアにする事なのだと
直感的に感じ取ったからでした。

つまり
この先、どの様な人と
巡り合ったとしても、結局は
また、喜久雄と同じ様な境遇の
相手を知らず知らずの内に
必然的に選んでしまう事に
なるのだと悟ったのでした。

それが
例え私自身は、勿論
その相手の人の生い立ちの
事などは、最初から全く何も
知らなかったとしても、一切
そんな事にはお構いなく
要するに私自身が、この如何にも
必然で、運命的とも云える
この『お題』をクリアする迄は
こうして運命の歯車が回る度に
それこそ、次々と同じ様なカードが
私に配られると云う事なのでした。

それは
まさに、この私自身が
本当の自分を理解し、更に
自分自身によって自ずからが
自分を癒やす事が出来る様に
なるまでは、ソレがずっと
続けられると云うワケで…
そう考えると、なんとも
本当に背筋がゾッとする様な
思いがして来ました。

しかし
その様な運命のカラクリが
多少なりとも、理屈上で
分かったところで、そんな事は
この私自身の気持ち…
つまり、一度離れてしまった
この喜久雄への気持ちに
対しては、全く効力など無く
それに、一向に前の様には
戻っては来ませでした。

それは
多分、私自身が例え
完全に忘れてしまって居ても
やはり、あの日の母校での
卯月先生との事が、それ程迄に
私の深いトコロの記憶として
潜在的には、きっと確実に
残って居る為だと思われました。

そして
不思議な事に
潜在的に残って居る
この時の記憶とは、それこそ
私と卯月先生との間に有った
色々な事では全く無く、ある意味
完全に卯月先生の事などは
何一つ一切、思い出す事など
全く有りませんでした。

しかし
その無い代わりに
この時に経験した、余りにも
センセーショナルな体験を通して
『宇宙の愛…無償の愛』
の様なモノを私自身の魂が
完全に感じ取った…いや…
ハッキリと、しかも確実に
思い出したのでした。

そこで
もう、こうなると
例え、この喜久雄自身が
いくら、この私に対して
どれ程、優しく接してくれても
ただソコには、私の知って居る…
つまり、体験して確信して居る
絶対的な『愛』が存在しては
居なかったのでした。

それは
つまり、お互いの心が
魂レベルで繋がって居ると云う
事で有り、そして、その感覚を
一度でも経験してしまうと
ソレ以外の『愛情』と云われる
モノ自体が、全く本質とは違う
なんとも薄っぺらな、それこそ
上辺だけの見せ掛けの様なモノに
感じてしまうのでした。

そして
まさに心が魂レベルで繋がる
体験をする事で、それ以降は
ソレが必然の事として、また
更に自分の相手とは、お互いに
その繋がって居る感覚を
共有したいと強く感じる様に
なったのでした。

それは
特に、これから結婚を
しようとする相手であれば
尚更の事でしたが、ところが
そうなると、この喜久雄とは
何故かその様に繋がる事自体が
全く出来無い様だったので
やはり、私としては喜久雄とは
やがては別れる事になると
思って居たのでした。

それに
何と言っても
あの2人の私の姉達でさえ
喜久雄との結婚に就いては
それこそ、面倒を見る必要が有る
アノ叔母さんとの事自体が
最も精神的、金銭的にも
重大な問題で有り、しかも
それ以外にも、重要な事として
そもそも、結婚相手としての
喜久雄自身の将来性などが
危ぶまれて居たのでした。

そして
この2人の姉達は
これらの要因こそが
絶対的に私自身が若くして
見すみす不幸に陥る原因と云う事が
目に見えて明らかで有り、また
それでも、敢えてこの喜久雄との
結婚を選ぶなどとは、余りにも
私自体が呆れる程の、世間知らずで
全く以って、無謀過ぎるとして
酷く反対して居たのでした。

そこで
私が喜久雄と別れる事を
ハッキリ宣言するとなれば
それこそ、私としては
この姉達が強い味方になって
加勢してくれる筈だと、完全に
期待して安心して居ました。

こうして
私の方としては
完全に喜久雄とは別れる
決意を固めて居たので、例え
喜久雄から、いくら考えを変えて
欲しいと、執拗に懇願され様が
全くそれには頑として応えずに
逆に、常に私自身からは

「結婚はどうしても無理だから、
このまま別れた方がいいと思う…」

の一点張りで
ずっと、突っぱねて居ました。

しかし
そうは言っても、やはり多少は
喜久雄に対して、可哀想だと
思う気持ちも有りながら、それでも
更に気持ちを強く持っては、本当の
自分の意思を押し通して居ました。

ところが
そうこうして居ると
なんだか、喜久雄自身も
やっと諦めが付いたたのか
いつもの様に来て居た我が家にも
スッカリ顔を見せる事が無い日が
暫く続いて居ました。

すると
そんなある日の事
またいつもの様に、2人の姉達が
何かの用事か何かで、この実家に
やって来たのかと思って居たら
ところが、この時の2人は
少しばかり高揚して居る様で
しかも、何となくいつもとは
様子まで違って居る様にさえ
感じられたのでした。

そして
更には、なんと驚く事に
姉達2人のそれぞれが、口々に
しかも、此れ見よがしに
喜久雄の事を何だかんだと
一生懸命に褒め出したのでした。

そして
仕舞には、とどの詰まりに

「サーコと喜久雄さんは、
凄くお似合いのカップルだと思う」
とか…

「あんな風に喜久雄さんに
思われてるのが羨ましいくらいだ」
とか…

「なんでサーコには、あんなに
真剣な喜久雄さんの気持ちが
分から無いのか」

などと言い出す始末でした。

しかも
挙句の果てには

「あんた達2人は絶対に
結婚した方がいい…結婚するべきだ」

などと2人して
些か脅す様な口調で、喜久雄との
結婚を勧めたのでした。

しかし
こんな事をイキナリ
寝耳に水の様に、突然
断言された私としては
一体全体、何がどうなって
この姉達が…しかも、あんなに
私達の結婚を猛反対して
居たにも拘わらず…
全く真逆のこんな事を
言い出す気になったか、その理由も
原因も分からずに、スッカリ
唖然としてしまいました。

しかし
驚いてばかりも居られず
直ぐに、私は気を取り直して
いくら2人の話しを聞かされても
それでも、私の気持ちは全く
変わらないと云う事をキッパリと
この姉達2人には伝えました。

ところが
その私の答えには
如何にも不服だったらしく
姉達は2人共、まるで苦虫を
噛み潰した様な、それこそ
不満たっぷりの顔をしながら
本当に恨めしそうに、私の事を
じっと睨んで居たのでした。





続く…




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